第1回 謎のグループ
「見てー!アルトだよ!」
今人気急上昇中のバンド。その名もアルト。インディーズでありながらもその実力はマスコミにも高く評価され、男女問わず人気のグループだ。
しかし、彼らについて知っていることは少ない。自称シャイボーイの彼らはメディアにも雑誌にもほとんど出ない。たまに雑誌に載るときがあっても、決して自分たちの写真は撮らせなかった。わかっていることは、男性4人組だということだけ。
ライブもやっていない。昔、まだ無名だった頃に何度かライブハウスでやらせてもらっているが、最近はそれすらもない。
謎に包まれたグループ、それがアルトだった。
◇
そのアルトのボーカルが、本編の主人公、西村隼人。
「アルトが雑誌に載ってるなんて珍しいよねー」
「だねー。あたし、マジで好きなんだー。ってか、メンバーの顔が見たいし」
コンビニで立ち読みをしている女子高生2人組みの後ろをコソコソと通っていく。
後ろを通ったどこにでもいそうな男子が、まさかアルトのボーカルだとは彼女たちは気づいていない。
アルトが顔を出さないのは、単純にアルトのリーダーが以前「俺、写真写りが悪いんだよね」と言っていたことに由来する。別に音楽に顔は関係ないと言っているわけではなかった。
だから、隼人も学校ではただの高校生だ。身内や昔からつきあいのある幼なじみを除いて、彼がそのメンバーであることを知る人はいない。
決してバラしてはいけない。これがアルトのルールだ。例え好きな女の子にさえも。
「ごめん!待った?」
隼人が待ち合わせ場所に少し遅刻して到着すると、すでに相手はぶんぶんと首を振った。
「全然待ってないよ。大丈夫」
同じクラスの女の子、佐山友紀は少し頬を赤らめて答える。
今日待ち合わせたのは、デートとかではない。他にも何人かのクラスメートが来る予定だ。
「あれ・・?英ちゃんたちまだ来てないの?」
「さっき来たよ。ほら、コンビニの中にいる・・・」
そこでようやく目の前にあったコンビニのレジに並んでいる3人の待ち合わせ相手を見つけた。
5人で行こうとしている所は、つい最近オープンしたばかりのショッピングセンターだった。東京にしては田舎であるここに、近代的な建物ができたのだ。
「あの店なんだろ・・・」
「よしっ!偵察に行って来い!隼人」
「はぁ!?なんで俺が?」
田舎者の会話を振られた隼人は驚いて顔を上げる。
そして、試しに店を見てきて、それが輸入商品を扱う雑貨屋だと知って戻ってくると、そこにいたはずの友達がいなくなっていた。友紀を除いて。
「え!?あいつらは!?」
「向こうに本屋があるからそっち見に行くって」
「なんだよ〜・・・あいつらかなり白状だし」
そのとき、友紀がクスクスと笑った。
「西村君って本当にみんなに好かれてるよね。いつもクラスの中心にいる」
「そんなことないよ。だったらこの仕打ちひどくない?」
げんなりとして隼人が言い放つ。
でも、そのおかげでこうして友紀と2人きりになれたことは感謝している。
◇
隼人がなんとなく落ち着かなくなったのは、みんなでCDを見ているときだった。
「あ・・・この曲アルトだ」
友紀が上を見上げて言う。まさか彼女の口からその言葉が出ると思わなくて、隼人は驚いてしまった。
「アルトってさ、なんで顔出さないのかな」
ショートカットの女の子、天野美幸が疑問を口にする。隼人は何も答えずに目線をそらしていた。
「いざ顔出したとき、全然たいしたことない顔だったりしてな」と、松田勇太。
「いや、まぁそんなことないんじゃね?」と、高橋英二。ただ1人隼人の正体を知っている幼なじみだ。
「どんな人たちでも、友紀は大好きなんだよねー?」
美幸の言葉に、友紀はすごく嬉しそうに頷いた。
「私・・・アルト大好きなんだ!」
「えっ・・・・・!」
その隼人の声に4人が一斉にこっちを向いてきた。英二だけが眉間にしわを寄せている。
一瞬言ってもいいんじゃないかと思ってしまった。もし言ったら、友紀は自分を好きになってくれるかも――と。
しかし、すぐに英二に強制連行されてしまった。
「お前、まさか佐山さんに言ったら好印象だとか思ってんじゃねーだろうな?」
「え、ちょっと思ったけど」
バカ正直に言うと、ぐぇっと英二に首を絞められてしまった。
「アホか!後のことをもっと考えろって」
そうだ。言ったらルール違反になる。好きな女の子にでさえも。
はじめまして。こんにちは。
初の音楽モノですが、楽しんで書いていきたいと思います。
いきなり登場人物がたくさん出てきました;;
友紀と英二だけなんとなく覚えてくださると嬉しいです!
次回はアルトの他のメンバーが登場します。