箒(ほうき)
もうすぐ体育大会がある。
前世で僕が一番苦手としていたイベントだ。
元々、僕は運動音痴だった。
その上、放課(休み時間)中、いつもクラスの片隅で本を読んでいた。
そのせいで「ガリ勉」などと揶揄されたりもした。
実は僕の妻のフィーナも僕と同類だった。
だから波長が合ったのだろう。
卒業後、フィーナと付き合うことが出来たのも。
でも、まさかこんな人生を送るとは思わなかったが。
話を戻すととにかく僕は運動系のイベントが苦手なのだ。
と言っても今は教師、つまり教える側なのだが。
どうも体育大会という言葉だけでも憂鬱になる。
体育大会と言っても前世とは大分違う。
かけっこや騎馬戦がある訳ではない。
もちろん、おなじみの綱引きや玉入れもない。
ここは魔法世界。
前世とは大分違うのだ。
種目はトライアスロン一択。
それは男子も女子も共通の種目なのだ。
ちなみに体育大会は男子女子混合。
つまり出会いの場ともなっているが、うちの学校ではそうはいかない。
男子、女子共にライバル意識を持っている。
つまり異性の生徒に負けたら恥だとお互いに思っているのだ。
そんなにほんわかした雰囲気ではなくむしろピリピリとしている。
ちなみにそのトライアスロンのことについて説明したいと思う。
僕が前世でいた世界ではスイム、バイク、ランの3種目で構成されていた。
でもこの魔法世界では少し様子が違う。
僕もテレビでしか見たことがないが簡単に言うとシー、スカイ、ランドと言った3つの競技で成り立っている。
シーとは海のコースのことで海上を15キロ渡るとのこと。
元いた世界とは違うのは海の上を魔法で走ってもいいと言うこと。
他にもどんな手段で渡ってもいいが大体の人は海の上を走っている。
この世界ではほとんどの人が海のような液体を歩いて渡ることが出来るのです。
次にスカイだがこの説明は後回しにしてランドの説明をしよう。
ランドとは陸地のコースです。
簡単に言うと走ると言うこと。
ほとんどの選手は加速魔法を使って走ります。
僕が問題視しているのはスカイ。
スカイとは空中のコースのこと。
と言ってもほとんどの選手が空中を走っています。
なんとかマンみたいにマントを翻し飛んでいる人など見たことがない。
それが魔法世界の現実なのです。
僕はその常識を覆したいと思っている。
幸いこの世界のスポーツは魔法であればどんな魔法でも使っていいルールになっている。
それは道具を使ってもいいとのこと。
でもそれは魔法具を使うことではなく普通の道具、何の変哲も無い道具を使わなければならない。
(魔法具自体はドーピングみたいなモノで禁止されています)
道具自体は事前に申請と検査が必要なことからほとんどの選手は使用していません。
でも僕はスカイにこそ道具を使用したい。
幸い、僕は女子校舎のクラスの教師だ。
女子と魔法と言えば魔法少女。
明日の朝一番ににこのことを提案してみたいと思う。
次の日、いつものように授業が始まった。
僕は
「突然ですが来月に体育大会があります。
みんなは男子に負けたくないでしょう。
基礎体力は男子に劣るかも知れませんが魔法力は女子の方が勝るとも言われています。
ごく平均的な話ですが。
そこでみなさんには魔法力をあげる秘策をあげたいのですが」
クラス中がざわついた。
もちろん僕の提案に乗ったのだと思った。
そこで1人の生徒が手を挙げて質問した。
テージーだった。
「生意気な男子に勝てるのだったらなんだってするわ。
禁術にだって手を出したっていいわ。
何をする気なの、先生?」
僕は
「そんな大げさなことじゃないんだ」
「じゃぁ、どんなことをすればいいの?」
僕はその質問に真っ正面から答えずに違う話を切り出した。
「ところで最近、何か変わったことがない?」
生徒たちはキョトンとしている。
しばらくして生徒のレンジアが思い出したかのように話し出した。
「あ、そういえば清掃の時なんですけど箒の数が段々増えていているような。
クラスの人数より多いような」
僕は
「よく気がついたね。
僕が君たちに気づかないように買い増していたんだ。
もちろん僕がお金を出してね。
おかげで今は金欠なんだけど」
テージーが
「それがなんなのよ」
僕は
「みんなは知らないと思うんだ。
僕の出身地では魔法を使うことの出来る少女は箒に乗って飛ぶんだ」
テージーが
「そんな話聞いたことがないんだけど。
それ、何処の国のお話?」
僕は
「多分僕の出身地は君たちが聞いたことのない国。
それに僕は見た目がこんなだけど君たちよりはるかに年を取っている。
僕が生まれた国はとっくの昔に消滅しているから調べたって無駄だよ。
それでは箒の使い方を教えるから体操服に着替えて校庭に出よう」
そう言うと生徒たちは僕の目の前で着替え始めた。
最近、生徒たちは僕を男としては見てくれてなさそう。
僕は慌ててそそくさと教室を出た。
校庭に出て生徒たちが集まったら僕は飛び方の授業を始めた。
「まずは箒にまたがるんだ。
僕の真似をして」
生徒たちは何やら恥ずかしがっているようで各々の箒に全員がまたがるまで大分時間が経った。
「そのままだと体重がかかって大事なところが痛くなるから自分に浮遊魔法を掛けるんだ。
箒の上に浮いているような小さい魔法を。
そして箒にも浮遊魔法を掛ける。
つまり箒ごと浮いているような状態」
生徒たちはかなり手間取っていた。
でも優秀な生徒たちばかりだからほんの少しの時間でコツを得たようだ。
「次に掃く方ていうか、穂先なんだけどそこに魔力を充填させるんだ。
そして爆発をさせる。
それを何回も繰り返す。
しかも高速で。
よく分からないと思うから僕の見本をよく見て」
そう言うと僕は箒の穂先に魔力を充填し爆発させ校庭でそれを繰り返した。
凄い爆音がする。
バイクのような音だ。
そして僕は箒に乗って校庭を一周した。
戻ってくると生徒たちは拍手で迎えてくれた。
そして生徒たちの番だ。
生徒たちはやはり飲み込みが早くすぐに箒を乗り回すことが出来た。
しかし、問題は爆音だ。
この授業の後、他の先生からめちゃくちゃ苦情が入った。
これではトライアスロンに参加は無理だろう。
他の選手に迷惑がかかるから。
今はどうにかしてこの爆音を無くすか思案中だ。