女教師
(注意;今回のお話はストーグの視点でお伝えします。
ストーグが何者なのかは今回のお話でお楽しみください)
俺の名はストーグ。
誰よりも勇者になるために研鑽してきた男だ。
他のお気楽な奴らとは違う。
俺はその甲斐もあって学年で1クラスしかない優秀なクラスには入れた。
しかし、周りを見てみたらボンクラばっかり。
誰も俺の優秀さを分かる奴がいない。
本当に参っちまう。
こんな優秀な学校の優秀なクラスの一員になれたのに周りは能なしばっかりだ。
本当にうんざりしてしまう。
うんざりしてしまうと言えばもう1つ。
それは俺たちのクラスの担任が女だという事。
学園長は間違って男子クラスと女子クラスの担任を入れ替えてしまったと言うがならば間違いを知った時点で正せば良い。
それをしないのが不可解だ。
その人物は女勇者だと言うけれど俺たちは何を習えば良いのか。
偏見だと思うが男社会のこのクラスに女の担任は酷だと思う。
いくら高名な勇者でも女であれば男である俺たちに比べればかなり劣る。
(高名であるかどうかは知らないが。
しかも俺は女勇者にはさほど興味が無い)
能力も体力も。
とても俺たちのクラスで1年間持つとは思えない。
なぜなら俺たちの方が能力が上だろうから教えることがないのだ。
そうだ、その女教師のためにもこのクラスを追い出して新しい担任にしてもらおう。
俺はそんな気持ちがよぎった。
それが彼女のためになる。
俺は親切心でそう思っていた。
ホームルームが始まった。
よって女教師が入ってきたのだ。
その女教師は思ったより華奢で弱々しかった。
俺は愕然とした。
何だ、こいつ、本当に勇者だったのか?
あまりにも弱々しい。
その女教師は
「え〜と、今日からこのクラスの担任になります
フィーナと申します。
これから1年間よろしくお願いします」
と可愛らしい声で挨拶をした。
俺は少しカチンときていた。
あんな弱々しいメガネっ娘に1年間も教わるのかと思うと。
もう我慢が出来なかった。
俺は颯爽と教壇の前に行き
「こんな弱々しい奴が担任なんて信じられねぇ。
なぁ、俺たちと勝負して負けたらこのクラスから出てってくれねぇか」
とつかっかてみた。
女教師は呆れて
「これだから男の子は嫌いよ。
うちの旦那の方がよっぽど紳士的」
俺はビックリして
「てめぇ、結婚してんのかよ。
ならなおさら何でこのクラスの担任を引き受けたんだよ」
と聞いてみた。
女教師は
「私にだって生活があるからね。
生活するにはお金がかかるの」
と答えた。
俺は
「生活とかそんなことはどうでもいい。
とにかく俺たちに勝負で勝ったらこの学校から去れ」
とすごんでみた。
女教師はしばらく考えて
「O.K.、じゃぁどういった勝負にする?」
と聞いてきた。
タイマンももちろん良いが女相手に気が引ける。
そうこう考えていると女教師は
「じゃぁ、鬼ごっこをしましょう。
ルールは簡単、私が鬼でクラスの誰でも良いから私を捕まえることが出来たら勝ち。
範囲は教室の中だけ。
教室の外から捕まえるのは反則。
武器でも何でも使って良いから私を捕まえることが出来たら勝ちね。
私は何も攻撃もしないし武器も使用しない。
ただしケガしないように同士討ちは禁止、それを行った時点であなたたちの負けだから。
とにかくケガしないように頑張りましょう。
制限時間は今から1時間。
じゃぁ、始めましょう」
突然の鬼ごっこが始まった。
鬼ごっこは小さい時以来だ。
その時の俺は無敵だった。
クラスの奴らも名前は知らないが恐らく中身は優秀な奴らだ。
ものの数分で捕まるだろう。
そう思っていた。
30分が経過。
誰も女教師を捕まえることが出来ない。
女教師はと言うと退屈そうにあくびをして突っ立っている。
俺たちはと言うと息も絶え絶え。
そりゃそうだ、30分間本気で捕まえようとしているから。
女教師は
「あのさぁ、1人で立ち向かうんじゃなくて連係攻撃とかあるでしょう。
残り30分間、こんなに退屈なのは耐えられないからもっと楽しませてよ。
最初に喧嘩を売ってきた子なんて1番へばってっているじゃない」
ぐうの音も出なかった。
確かに目の前にいるのだ。しかし捕まえようと動いた時には背後にいる。
その原理が全く分からない。
しかし、得たものもある。
連帯感だ。
俺たちはお互い名前も知らぬ仲だ。
それが今は協力体制に入っている。
残り一分間。
俺たちの連係攻撃も彼女には全く歯が立たなかった。
彼女はただ退屈そうにあくびをしている。
彼女は突然
「ここでチャンスをあげる。
私があなたたちに突っ込んであげるから私を捕まえなさい。
ただし、私は眼鏡を外すけどね」
俺たちはその意味が理解できなかった。
「眼鏡を外す」という意味を。
眼鏡を外した彼女はゆっくりと俺たちに近づいてくる。
非常にゆっくりだ。
俺たちを馬鹿にしているのかとも思った。
しかし、彼女を捕まえられる奴はいない。
まるで幽霊を相手にしているかのよう。
そして俺の目の前にやって来た。
俺はとりあえず彼女の足を狙った。
手応えがない。
次に肩、そして体当たり、本当に手応えがない。
彼女に当たっているはずなのに。
そして1時間が経った。
フィーナ先生は結局誰にも捕まえることが出来なかった。
俺たちはフィーナ先生を担任と認めざるを得なくなった。