プロローグ
日本ボクシングタイトルマッチ。
25歳の青葉司はチャレンジャーとしてチャンピオンに挑んだ。
前評判ではパワーのあるチャンピオンがやや有利
そのチャンピオンに対して司は持ち前のスピードでカバーし、チャンピオンのパンチを被弾しながらも直撃を回避しつつ、最終ラウンドまでコマを進めた。
途中結果の判定では、わずかに数ポイントチャンピオンがリード。
現時点でも恐らくそのポイント差には変化が見られないだろうとセコンドは司に告げる
「このラウンドが最後だ、勝つには倒すしかない、お前が今まで培ったもの全てを出し尽くして来い!」
この言葉を浴びせながら背中を叩き、司をセコンドがリングの中央に送り出す。
カーン!
最終ラウンドのゴングが鳴る。
9ラウンドまでの足を使い、距離を取って戦うアウトボクシングを捨て
リング中央で足を止めチャンピオンを迎え撃つ
チャンピオンとの激しい打ち合い、
10ラウンドにして初めて行われた、足を止めての打ち合いに観客席は盛り上がる。
チャレンジャーである司は、決して打たれ強い方ではない。
過去の試合でもダウンを奪われることは多かった。
司の行動が無謀に映る観客もいた。
それでも司は打ち合いを選んだ来た。
それが彼のポリシーだったから
打たれ弱いと分かっていても、司はその戦い方で今まで突き進んできた。
しかし、今回に限り、司はセコンドの指示に従い、
力強いチャンピオンとの試合だけは、距離を取り、外側から攻める戦い方を選んだ。
司にとっては望まない戦い方を、
ポリシーよりも勝利を優先させる為に、
しかし、今それが解除される。
全てを出し尽くす、足を止め本来のスタイルに戻し、残った体力の全てを拳に託す。
チャンピオンが1発のパンチを打てば司は2発返す。
手数では上回ってはいても、それに憶すことなくチャンピオンの強烈な拳が司の体を捉える。
体が軋み、何度も膝を付きそうになる。
それでも司は倒れなかった、拳を止めなかった、
そして、
カーン!
最終ラウンド終了を知らせる鐘が鳴る。
KOこそ出来なかったが、高いKO率を誇るチャンピオンに対して、接近戦で手数を上回り3分間戦い抜いたのだ。
判定
勝敗は判定へと委ねられた。
10ラウンドを戦い終え、両者が自軍のセコンドへと戻る。
セコンドに担がれガッツポーズを取り、勝者をアピールするチャンピオン、
それに対して、司は自軍のセコンドに置いてある椅子に座り顔を伏せたままだった。
判定の結果を告げるべく、審判が両者をリング中央に呼ぶ
だが、呼ばれて中央に”来れた”のはチャンピオンのみ
司がリングの中央に姿を見せることは無かった。