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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章
96/206

80 保存食

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 食事会の翌日。

 早朝からジュードと一緒に市場に向かった。

 朝市には近隣で育てられている野菜が売り出される。

 店先に並ぶ採れたての野菜は瑞々しく、朝日を浴びて輝いていた。


 昨日材料が揃ったらという条件でセイランさんの依頼を受けたけど、果たして市場にあるだろうか?

 その日に採れた物だけが並ぶので、並んでいない場合もあるのだ。

 少し不安に思いながら、お店を見て回ると、目的のものであるキャベツを見つけた。

 良かった、今日はあったようだ。

 庶民にも一般的な野菜を手に取ると、ジュードが不思議そうに聞いてくる。



「キャベツを保存食にするの?」

「そうよ」



 今日作るのはザワークラウトだ。

 スランタニア王国ではキャベツといえばスープの具というのが一般的で、ジュードからしてみると保存食になるとは思えないらしい。

 首を傾げるジュードをよそに、お店の人に声を掛けた。


 保存食にすると嵩が減るから、キャベツは多めに購入する。

 それから塩とローリエ、小さな木樽も買った。

 購入品はセイランさんが泊まる宿へと運んでもらうよう、それぞれのお店でお願いした。

 セイランさんの宿へと運んでもらうのは、そちらで保存食作りをするからだ。


 買い物が終われば、その足でセイランさんの宿へと向かった。

 丁度朝食が終わったところらしく、いいタイミングだったようだ。

 宿へ到着すると、入り口でセイランさんが待っていてくれた。



『おはようございます』

『おはよう。材料は揃ったのかな?』

『はい』

『それは重畳。じゃあ、厨房に行こうか』


 セイランさんに軽く挨拶をして厨房に行くと、朝市で購入した物の他に、いくつかの香辛料も用意されていた。

 これらの香辛料は、セイランさん達の積荷にあった物で、昨日のうちに保存食を作るのに必要だと伝えていた物だ。

 うん、お願いしていた物はちゃんと揃っているわね。

 材料を確認してから、料理人さん達に向き直り、作り方を教えた。

 私は教えるだけで、実際に作るのは料理人さん達だ。



『このキャベツを全て千切りにすればよろしいですか?』

『はい、お願いします』



 結構な量のキャベツがあったのだけど、手分けをすればあっという間に終わる。

 流石、本職。

 切るのも速い。


 キャベツを切っている間に、保存容器の準備も進める。

 流しに木樽を置いて、沸かしておいた熱湯を注ぐ。

 そのまま暫く放置だ。

 ガラス瓶であれば鍋に入れて簡単に煮沸消毒ができるのだけど、木樽は大き過ぎて鍋に入らなかったので、この方法で消毒した。



「消毒してるの?」

「えぇ。消毒しておいた方が、中の食品が腐りにくいのよ」

「そうなんだ」



 消毒の概念については、研究所の面々は既に学習済みだ。

 講師は私。

 自然科学については元の世界の方が進んでいたからね。

 何か新しいことを言うと、研究所の人達に根掘り葉掘り聞かれて、結局皆に講義する羽目になることがよくあったのだ。


 閑話休題。

 そのお陰で、容器を消毒した方がいいというのは、ジュードもなんとなく理解できたようだ。


 少しして、木樽のお湯を捨てていると、いつかの研究員さん達と同じように、料理人さん達からも質問された。

 消毒の概念については触れなかったけど、こうした方が腐りにくいのだということを伝えると、感心されたわ。

 ザイデラにもキャベツではないけど似たような保存食があるらしく、今度その料理を作る際にも試してみると言っていた。

 是非、有効活用してください。


 そうこうしている間に、キャベツの千切りも終わったので、次の工程に移った。

 千切りしたキャベツは塩を塗して水分が出るまで揉み、用意した香辛料と混ぜ合わせる。

 その後、滲み出てきた水分も一緒に木樽に詰めれば、作業は完了だ。



『隙間ができないように押し込んでください』

『こうですか?』

『えぇ、その調子です』



 隙間がないようにキャベツを木樽に押し込む。

 こうすることによって、発酵に不要な細菌が繁殖することも防げるそうだ。

 かつて見たレシピに、そんなことが書いてあった。



『これで終わりなのか?』

『はい。後は冷暗所で寝かせれば完成です』



 残しておいたキャベツの一番外側の葉を上に載せて、重石も載せたところで、セイランさんに声を掛けられた。

 四~六週間発酵させるという話も聞いたことがあるけど、初めて作ったので、そこまで置いてしまっていいものかが分からない。

 いつまで食べられるのかは分からないので、様子見しながら食べて欲しいと伝えた。

 ちなみに、味の保証はしない。

 初めて作ったから分からないし、元の世界では、美味しいとも美味しくないとも諸説あったからね。

 それも合わせて伝えたら、セイランさんは苦笑いしながら了承してくれた。



『思ったよりも簡単に作れるんだな』

『そうですね。すみません、一つしか思い付かなくて』

『いや、一つでも船上の食事の種類が増えたんだ。ありがたい』



 セイランさんの国の料理以外で、保存食を考えたら、ザワークラウトしか思い浮かばなかった。

 後は野菜の酢漬けや味噌漬けが思い浮かんだけど、これは既にありそうだったので提案しなかった。

 あれだけ食文化が発展してる国だし、ないってことはないだろう。



『しかし、野菜か……。盲点だったな』

『盲点ですか?』



 作業が一段落した後、セイランさんの「少し休んでいくといい」というお言葉に甘えて、お茶をご馳走になることになった。

 食堂で椅子に座ってほっとしていると、セイランさんがポツリと零した。



『あぁ。船に野菜を載せると言えば生野菜ばかりが浮かんでしまって、塩漬けした物を載せようとは考えなかったんだ』

『料理人さんがおっしゃってましたが、違う野菜の塩漬け料理があるそうですね』

『そうだ。あれを積んでも良かったなと、お嬢さんの料理を見て、思ったよ』



 セイランさんの言葉に笑みを返す。

 大したことではないけど、役に立てたようで嬉しい。



『あのキャベツの漬物はスランタニア王国で食べられている物なのか?』

『いいえ。以前読んだ本に書いてあった異国の料理になります』

『それで、作ったことがないと……』

『はい』



 異国は異国でも、この世界の国ではありませんけどね。

 心の中でそう思いつつ、困ったときの本頼みで、全ては本で読んだことがあるということにしておいた。

 セイランさんから「読書家なんだな」というお言葉をいただいた際には、背中に冷や汗が流れたわ。


 話が一区切りしたところで、お茶会はお開きとなった。

 セイランさんに改めて昨日の宴会のお礼を伝えて、自分の宿に戻る。

 ザワークラウトの出来栄えについては、また今度教えてくれると言っていたけど、次に会う機会があるのかしら?

 商会の方でお米や味噌の遣り取りがあるから、そのときに会えるかもしれないか。


 うーん、王都でも作ってみようかな?

 美味しくできたら、魔物の討伐のときに持って行ってもいいかもしれない。


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