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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章

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74 コーヒー

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


「所長、また飲んでいるんですか?」



 所長室へ書類を届けに行くと、部屋の中にはコーヒーの香りが漂っていた。

 記憶が正しければ、来る度にコーヒーの匂いしかしていない気がする。

 そう認識してしまうほど、所長はコーヒーにハマっていた。



「そう言うなよ。豆はちゃんと自腹で買ってるんだから」

「もちろん、分かってますよ。でも、飲み過ぎは良くないと思うんです。このところ、ずっと飲んでいらっしゃいますよね?」



 追及すれば、所長はスイッと視線を横にずらした。

 その様子に、思わず苦笑が浮かぶ。

 とはいえ、研究所に広めてしまったのは自分なので、あまり強くは言えない。


 王都でコーヒーを飲んだ日、研究所に戻ってから、早速道具を作ってもらえる伝手がないかと所長の所に向かった。

 所長に道具のことを説明すれば、伝手があるとのことでお任せしたら、一週間後に説明した通りの道具が研究所に届けられた。

 そして、コーヒー豆と道具が揃ったので、研究所の食堂でコーヒーを淹れたのだ。


 王都で流行っている飲み物だと言うことで、所長をはじめとして、興味を惹かれた面々が食堂に集まった。

 衆人環視の中、真新しいネルを使って、ゆっくりとコーヒーを淹れる。

 ガラスのポットの中に、ツーっと落ちる黒い液体を見て、「おおーっ!」という歓声が上がったわ。

 嗅ぎ慣れない匂いが苦手だという人もいたけど、大半の人には好意的に受け入れられた。

 流石、薬用植物研究所の研究員達よね。

 未知の香りに寛容だったのは、薬草の匂いに慣れているからこそかもしれない。

 味の方も、平気だった人が多かった。


 研究員さん達の中には、お店で既にコーヒーを飲んだことがある人もいた。

 その人達からは、お店のコーヒーよりも飲みやすいという評価をいただいた。

 トルココーヒーよりもネルドリップで淹れたコーヒーの方が、味があっさりしていたからかもしれない。

 それもあって、現在コーヒーが研究所内で流行っている。



「ほどほどにしてくださいよ。日本ではカフェイン中毒って言葉もあったくらいなんですから。飲み過ぎは体に悪いですよ」

「分かった、分かった。気を付けるさ。そもそも、中毒になる程、飲める物でもないだろ?」

「そうですけどね」



 苦笑いの所長が言うことも正しい。

 なにせ、外国から取り寄せているだけあって、コーヒーの豆は高価だ。

 それ故に、所長が手に持つカップも小さな物で、一度に飲む量は少ない。

 日に何度か飲んでも、カフェイン中毒になるような量には到底及ばないだろう。


 しかし、それでも不安になるのだ。

 だって、こちらのコーヒー、日本で飲んでたコーヒーよりも効果が高いんだもの。


 コーヒーが研究所で流行っているのには、味以外にも理由があった。

 日本では眉唾に感じられた眠気覚まし効果が、こちらでは十二分に発揮されるのだ。

 実際に徹夜三日目の人がコーヒーを飲んで、しゃっきりしてしまったのには驚いた。

 睡眠の状態異常回復ポーションだと言ってもいいかもしれないとは、誰の言だったか。

 そのせいで、コーヒーがあれば睡眠時間が削れると、一部の研究員達が大喜びだったのは記憶に新しい。


 ポーションの飲み過ぎについて注意されたことはない。

 それでも、あまりの効果に、少しだけ飲み過ぎが心配になるのよね。

 所長が飲んでいるコーヒーは、料理人さんが淹れた物だから、まだマシだとは思うけど。

 例の三徹の人が飲んだコーヒーは私が淹れた物だったのよ。

 五割増しの呪いが製薬スキルに発揮されたのか、それとも料理スキルに発揮されたのかは定かではない。


 所長に書類を渡した後、研究室に向かって廊下を歩いていると、ジュードに遭遇した。

 倉庫から薬草を取ってきたところらしい。

 互いに「お疲れ様~」と挨拶をして、一緒に研究室に向かう。

 歩きながら、つい先日思い付いたことを、ジュードに相談した。



「コメ? 聞いたことないなぁ」

「なら、稲は?」

「イネもないかな」

「そっか。残念」



 先日、リズ達とお茶会をした際に話題に上がった、食材についての話をする。

 最初にお米について聞いてみたけど、敢え無く撃沈。

 名称が違う可能性も考えて、お米の特徴を説明してみたけれど、ジュードは首を捻るばかり。


 そうこうしているうちに研究室に着いたので、お互いの作業に戻ろうとしたら、薬草を置いたジュードが戻ってきた。

 どうしたのかと首を傾げると、お米のことをもう少しだけ詳しく教えて欲しいと言う。

 実家の人達にも聞いてくれるらしい。

 ジュードよりも実家の人達の方が詳しいから、もしかしたら知っているかもしれないと。

 その申し出をありがたく思いながら、お米について説明する。



「何の話をしてるんだ?」

「あ、所長」



 植物としての稲の特徴を話し終わり、主食としてのお米の特徴を話している辺りで、所長がやって来た。

 気が付けば、ジュードだけでなく、近くにいた何人かの研究員さん達も話に聞き入っていた。

 お米に薬効効果はなかったと思うけど、植物の研究者としては、未知の植物の話が気になったのかもしれない。

 まさか、未知の食べ物に興味津々だったって訳じゃないわよね?

 なんて冗談半分で考えていると、私に代わって、ジュードが所長に説明してくれていた。



「コメにイネ?」

「はい。植物としては稲、収穫された後の物を米というだけで、同じ植物のことなんですけど」

「んー、聞いたことがないな」

「そうですか……」



 植物に詳しい所長ですら知らないのか。

 後はジュードのご実家の方々に期待するしかないわね。

 そう思っていたら、所長から良い提案があった。



「お前のところのフランツにも相談してみればどうだ?」

「フランツさんにですか?」

「あぁ。彼は昔、世界各地を回っていたことがあるから、知っているかもしれないぞ」



 コーヒーが外国にあったくらいだ。

 先日のお茶会でリズが言っていた通り、お米が外国で生産されている可能性はある。

 出来る商人であるフランツさんならば、世界中を回っていた間に、その土地々々の産物も調べていそうだ。

 これは期待できるだろう。


 早速、仕事が終わった後にフランツさんへと手紙を認めて送ると、何日かしてから返信が来た。

 同じ頃、ジュードの実家の方からも、お米についての回答が来たらしい。

 奇しくも、どちらも同じような回答だった。



「モルゲンハーフェン?」

「モルゲンハーフェンというのは、この国の東にある港町だ」



 手紙に書かれていた町名を口にすれば、丁度隣に立っていた所長が説明してくれた。

 東にある港町という説明に、そういえば王宮で受けている講義で習ったことを思い出す。

 どこかで聞いたことがある町名だなとは思っていたのだけど、ちょっと思い出せなかったのよね。



「貿易で有名な町でしたっけ?」

「そうだ。よく知ってるな」

「講義で習ったんですよ。さっきまで思い出せませんでしたけど」



 フランツさんの手紙には、呼び名は異なるが似たような穀物を、かつて東方の国で見かけたことがあると書かれていた。

 この国では、その東方の国からの輸入品がモルゲンハーフェンに荷揚げされるらしい。

 基本的に入ってくるのは、この国で需要のある品々ばかりだけど、もしかしたらお米もあるかもしれない。

 フランツさんは、そう言っていた。


 ジュードの実家からの手紙には、呼び名は覚えていないけど、似たような穀物をモルゲンハーフェンで見かけたことがあると書かれていた。

 其々の手紙の内容を考慮すると、フランツさんが言っている穀物と、ジュードの家族が言っている穀物が同じ物である可能性は高い。

 うーん、とりあえずジュードの家族にお願いして、その穀物を取り寄せてもらおうかしら?

 いつも通り、お店にお願いしようかと考えていたら、所長から提案があった。



「せっかくだから、モルゲンハーフェンに行ってみるか?」



 え? 行っていいんですか?


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