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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第二章

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62 来ちゃった

ブクマ&評価ありがとうございます!


あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 怒涛の討伐から戻って一週間。


 あの日の討伐は非常に疲れたこともあり、予定を早めて領主様のお城に戻ることになった。

 理由は疲労だけではない。

 出てきた魔物がスライムだったのも理由の一つだ。

 物理攻撃が効きにくい魔物相手だと、現状の編成では討伐の効率が悪い。

 今後の討伐を効率良く進めるためには、追加で宮廷魔道師さん達を派遣してもらうよう王宮に要請する必要があった。


 もちろん、領主様にもスライムのことなどをお伝えする必要があったので、お城に到着してすぐに報告に向かった。

 団長さんからスライムや森の様子を伝えられた領主様の表情はとても厳しいものだった。

 厄介な魔物が出現したことはもとより、森が壊滅しかかっている方が問題だったようだ。

 同席していたコリンナさんも領主様と同じように難しい顔をしていた。


 コリンナさんから聞いていたけど、スライムが出た森は特に貴重な薬草が採れる場所だ。

 そんな場所がスライムのせいで壊滅しかかっているのは、薬草が主要な特産品であるクラウスナー領としては非常に問題なのだろう。

 討伐のついでに確認したところ、あると聞いていた薬草のいくつかは見つけられなかったことを伝えると、コリンナさんの表情が更に難しいものになった。


 領主様たちとの話が終わった後、団長さんは早速応援を要請する手紙を(したた)め、王都に送った。

 団長さんの話では、要請は恐らく受理されるだろうとのことだったので、暫くすれば宮廷魔道師さん達が来るはずだ。


 魔道師さん達が来るまでぼーっとしていたのかというと、そんなことはない。

 騎士さん達と共に、別の場所に赴いて魔物の討伐を続けたわ。

 魔物が出現しているのは、あのスライムの森だけではないからね。


 そんな感じで日々を過ごしていたのだけど、他の場所の討伐もぼちぼち落ち着いてきて、少し余裕が出てきたところだった。

 団長さんにお休みを取るように言われた。

 このところ討伐に明け暮れていたせいか、ゆっくり休むようにと言いつけられたのだ。

 団長さんは本気で私を休ませるつもりだったらしく、蒸留室に行くことも禁じられてしまった。

 予めコリンナさんに伝えるほどの徹底ぶりに、私も薬草畑に行ったり、ポーションを作ったりすることは諦めた。


 そういう訳で、今日は討伐もない完全な休日だ。

 薬草畑もダメ、蒸留室もダメとなると、非常に手持ち無沙汰なのよね。

 そうなると、残る場所は一つ。

 お城の料理人さんには申し訳なかったけど、厨房の片隅を借りて、クッキーを焼くことにした。

 料理は仕事じゃないのかって?

 料理はいいのよ。

 気分転換だもの。


 まずは材料を量って用意する。

 台の上にローズマリーが載っているのを見て、近くで作業をしていた料理人さんが興味深そうに覗き込む。

 こちらの人には馴染みがないかもしれないけど、ハーブはお菓子にも使えるのよね。

 それにハーブを入れた方が、料理スキルで良い効果が付きやすいというのもある。


 何故料理の効果にこだわるかというと、このクッキーを討伐時に持って行こうかと考えているからだ。

 そう。

 今日の料理は、おやつの作製というだけではなく、討伐中に手軽に食べられる物の試作も兼ねている。

 やはり、戦闘が激しくなる場所では悠長にご飯を作っている余裕はなさそうなので、何か摘める物をと考えていたのだ。


 そこで思い出したのは、日本でもよくお世話になっていたブロックタイプの栄養食。

 ショートブレッドによく似た形をしたアレだ。

 あんな感じで携帯にも便利な物を作ろうと更に考えた結果、思い付いたのがローズマリーとクルミのクッキーだ。



「今日作られるのはお菓子でしょうか?」

「はい。純粋なお菓子ではなくて、小腹を満たす物にしようかと」

「左様ですか。それで砂糖を少なめにされたのですか?」

「甘さを控えめにしたかったのもありますけど、単純にお砂糖が高いからですね」

「あぁ、なるほど」



 小麦粉をふるいに掛けていると、横から料理長さんが声を掛けてきた。

 何を作っているか気になったらしい。

 お菓子の割に少なめな砂糖の量の理由を言えば、料理長さんは納得したように笑った。

 こちらの世界では、とかく甘味となる物の値段が高い。

 もっと気軽にお砂糖が使えるようになればいいんだけどね。


 料理長さんと話しながらも、手を動かすのは止めない。

 生地を捏ね、成形し、オーブンで焼き上げれば完成だ。

 いい焼き色に仕上がったクッキーを少し冷まし、摘んでみる。

 うん、中々いい感じに仕上がった。

 ほんのりとローズマリーの良い香りもするし、クルミの歯触りもいい感じだ。

 欲を言えばもう少し甘味が欲しいけど、討伐のときに食べることを考えると、これ以上は増やせないかなぁ。

 甘味を増やすならドライフルーツでも入れてみようかしら?

 いや、それだと余計にコストが……。


 クッキーを咀嚼しながら改善点を考えていると、背中に視線を感じた。

 振り返ると料理長さんをはじめとして、料理人さん達全員がこちらを見ていた。



「味見します?」



 恐る恐る聞けば、皆の首が一様に縦に振られた。

 あまりにも勢いよくて、思わず苦笑してしまう。

 料理人さん達も蒸留室の人達に負けず劣らず研究熱心よね。

 試作ということもあって、作った量は多くなかったので、お一人様一枚の味見で勘弁してもらった。

 もう少し甘味を増やしたいのだと言えば、色々と案を教えてもらえたりしたので、味見をしてもらったのは良かったのかもしれない。






 所変わって、団長さんの執務室。

 討伐に持っていく物なので試食してもらった方がいいかなと思い、持って来てみた。

 部屋に入り、差し入れだと告げると、非常に眩しい笑顔が返ってきたわ。

 王宮にいた頃よりも攻撃力が上がっているような気がするのは、気のせいだろうか?


 丁度休憩を取るところだったらしく、王宮にいた頃のように、お茶に誘われた。

 感想を聞きたかったので、ありがたくご一緒させてもらう。



「いかがですか?」

「うまい。これなら討伐時の携帯食にもいいだろう」

「良かった」



 お口にあったようで何より。

 お砂糖控えめで作った物だけど、甘い物があまり得意ではない団長さんには、丁度いい甘さだったようだ。

 加えて、討伐時に携帯食として使おうと思っていることを伝えていたのだけど、そちらもお墨付きをいただけたので良かった。



「今日は休むように伝えたはずだが……」

「はい。なので、気分転換に作ってみたんです」

「そうか」



 二枚目のクッキーを目の前に掲げながら問う団長さんに、予め考えておいた理由を告げれば、苦笑いが返ってきた。

 所長にも休みが休みになっていないってよく言われたけど、ちゃんと休んでいると思うのよね。

 だって、仕事はしていないもの。

 私の仕事は、薬草の研究と討伐の支援。

 料理は仕事には入ってないから間違っていないはず。


 そうして団長さんとお茶を飲んでいると、慌ただしい足音が聞こえてきた。

 何事だろうと団長さんと顔を見合わせると、部屋の中に焦ったようなノックの音が響いた。

 団長さんが誰何すれば従僕さんの声が返ってくる。

 部屋に入って来た従僕さんは、珍しく走って来たようで息が上がっていた。



「どうした?」

「ご領主様から使いが来まして、王宮から応援の宮廷魔道師が到着したそうです」

「王宮から?」



 話を聞いた団長さんが怪訝な顔をするのも無理はない。

 要請を送ったとはいえ、応援が到着するにはまだ早い。

 少なくとも、後一週間はかかるはず。

 一体どういうことだろうか?


 従僕さんの話では、領主様も同じように感じたらしく、どう対応すればいいのか、こちらに問い合わせが来たのだとか。

 取り敢えず、ここで考えていても埒が開かない。

 一旦お茶は御開きとし、到着したという宮廷魔道師さん達に会いにいくことにした。



「アイラちゃん!?」

「セイさん!」



 お城の人に案内されて、団長さんと一緒に向かうと、討伐に向かう際に集合場所となっている広場に騎士さんと宮廷魔道師さん達が集まっていた。

 見慣れない人達の中に見知った顔を見つけ、思わず声を上げる。

 なんと、宮廷魔道師のマントを羽織ったアイラちゃんがいたのだ。



「え? なんでアイラちゃんがここに?」

「えっと……、何ていうか、色々とありまして……」



 驚きのあまり思わず理由を問えば、アイラちゃんは半笑いといったような微妙な表情を浮かべた。

 以前聞いた話では、アイラちゃんは王立学園卒業後に宮廷魔道師団に入団したという話だったから、今回の応援に加わっていてもおかしくはない。

 でも、要請した応援が到着するにしては早過ぎるし、何よりここにいる宮廷魔道師さん達の割合がおかしい。

 王宮に送った手紙にはスライムのことを書いてあり、魔道師を多く派遣してもらうよう要請したと聞いている。

 それにもかかわらず、新しく来た一団には元からの一団と同じ程度の宮廷魔道師さんしかいない。


 これはアイラちゃんが言う「色々」の中身について確認した方が良さそうだ。

 そう考えて詳しく聞こうとしたところで、足早に近付いてくる人に気付いた。

 宮廷魔道師のマントを羽織り、マントに付いているフードを深く被っている人物を見て、アイラちゃんの笑顔が更に微妙なものに変化した。

 只ならぬ様子に、隣に立っていた団長さんが私達を庇うように一歩前に出る。

 しかし、警戒するこちらに全く躊躇することなく宮廷魔道師さんは近付いて来て、徐に被っていたフードを下ろした。

 フードの下から表われた顔に、団長さんも私も思わず驚きの声を上げてしまった。



「ご無沙汰しています」



 類稀なる美貌に麗しい笑顔を浮かべていたのは、王宮にいるはずの師団長様だった。

 首を傾げて微笑む姿に、「来ちゃった」という副音声が聞こえたような気がした。


携帯食については「すなふ菌」さんの案を使わせていただきました。

すなふ菌さん、ありがとうございます!

パンだって話してたのに、何故かクッキーに……。

書籍では変えようかな……。

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