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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第二章

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54 心機一転

ブクマ&評価ありがとうございます!


「はぁ~~~~~」



 与えられた自室にある書き物机の上に突っ伏し、盛大に溜息を吐く。

 今日は朝から自室に引きこもって実験をしていたのだけど、結果は予想通りだった。

 予想といっても好ましい予想ではない。

 正直なところ、当たって欲しくない予想だったのだ。


 昨日、騎士団の待機所で【聖女】の術が発動した。

 発動したのはいい。

 いきなりのことで驚いたけど、それによって騎士団の人達の怪我を治すことができたのだから。


 発動条件が分かったことも嬉しい。

 今まで全く条件が分からず、全く発動できなかったのだ。

 それが自分の意志で発動できるようになったのは、いいことだと思う。

 これで、某師団長様から圧力を掛けられることもなくなると思えば、大変喜ばしいことだろう。


 問題は発動条件の内容なのよね……。

 なんで、発動条件が団長さんなのよ!!!


 朝から色々と試したのよ。

 前に【聖女】の術が発動したときに考えていたのは、団長さんのことだけじゃなかったし。

 ジュードや所長、研究員さん達や顔見知りの騎士さん達。

 思いつく限りの色々な人のことを思い浮かべて、術が発動しないか試した。

 けれども、団長さん以外の人のことを考えても、例の魔力が動く感じはしなかったのよね。


 気は進まなかったけど、最後に団長さんで試したら……。

 恥ずかしいのを我慢して考えた途端に、あっさり体の中から魔力が湧き上がり掛けた。

 もやっとした動きを感じた時点で止まれと念じたら、動きも止まった。

 意識して止めることもできるようだ。


 正直なところ、もし部屋にいるのが私一人だったら、机に拳を叩きつけて声を大にして叫びたい。

 だって、そうでしょう?

 これから術を使おうと思ったら、毎回団長さんのことを思い浮かべないといけないのよ!?

 それなんて拷問!?


 しかし、部屋にはマリーさんを筆頭に侍女さんが数名いる。

 両手で顔を覆って床を転げまわる訳にもいかない。

 この状況でできるのは、溜息を吐くくらいだ。



「セイ様、よろしければ、ご休憩いたしませんか?」

「ありがとうございます。そうします」



 項垂れる私の後ろから、気遣うような声が掛けられる。

 マリーさんだ。

 机から顔を上げて振り返れば、微笑むマリーさんと、応接セットにお茶の準備が整えられているのが見えた。

 そういえば、朝から実験に夢中になって、何も食べてなかったな。

 お言葉に甘えて、休憩しよう。


 テーブルの上にはお茶に合うお菓子の他にも、サンドイッチやフルーツが用意されていた。

 どこかで見たことがあるのも当然で、それらは研究所で私が作っていた物と同じ物だった。

 ちらりとマリーさんを見れば、「どうぞお召し上がりください」とにっこりと微笑まれる。


 クゥっと小さくお腹が鳴った。

 そういえば、朝起きて身支度を整えた後は、すぐに実験に取り掛かってしまったため、何も食べていない。

 よくよく考えれば、昨日の夕飯も食べていない。

 昨日は騎士団の待機場から帰ってきて、すぐに寝室に篭ってしまったのだ。


 普段は必ず朝昼晩の三食を取るようにしている。

 それが、昨日の夕方から何も食べずに、今朝も早くから難しい顔で机に向かっていたのだ。

 恐らく、心配させてしまったのだろう。

 テーブルに並べられたメニューを見て、そう感じた。

 食べ慣れた物であれば、食べる気になってくれるかもしれないと気を使ってくれたんだと思う。


 申し訳なく思いながら、サンドイッチを口に運ぶと、余計にお腹が空いてきた。

 サンドイッチはあっという間に消え、次にお菓子に手を伸ばしたところで、周りの侍女さん達がほっとした雰囲気を纏っていることに気付いた。

 マリーさんだけでなく、侍女さん達にも心配を掛けてしまったらしい。

 本当に申し訳ない……。


 一通り食べ終わって、紅茶を一口飲んだところで、マリーさんが引きこもっている間の来客について教えてくれた。

 聞けば聞くほど、色々な人に心配を掛けてしまったことが分かり、肩身が狭い。

 蒸留室に寄らずに部屋に戻ってしまったため、コリンナさんも様子を見に来てくれたようだ。

 そして、もちろん団長さんも。

 ただ、部屋に帰ってきた私の様子を見て、気を利かせてくれたマリーさんが取り次がなかったらしい。

 その心遣いは、とてもありがたい。

 コリンナさんはともかく、あの状態で団長さんには会いたくなかった。


 【聖女】の術を発動させた後、逃げるように待機所を後にした。

 後ろから団長さんの制止の声も聞こえたけど、無視した。

 団長さんのことだから、きっとすごく心配していると思う。

 けれども、どういう顔をして会えばいいか分からない。


 最初に会った時も好みのタイプだなと思った。

 それから会う回数が増えるにつれ、いい人だなとも思っていた。

 でも、こんなに意識してしまったのは初めてだ。

 次に顔を合わせたときに、今まで通りに接することができるのだろうか?

 とても不安だ。


 とはいえ、このまま団長さんを避け続けるのは難しい。

 魔物の討伐(お仕事)もある。

 うん、仕事だ、仕事。

 仕事を放り出すのは、ダメよね。

 仕事だと思えば、【聖女】の術を発動させるときに変に意識しなくても済むかもしれない。

 自信はないけど、それでいこう。



「ごちそうさまでした」

「この後のご予定はいかがなさいますか?」

「蒸留室に行こうと思います」

「かしこまりました」



 食事の後は蒸留室に向かうことにした。

 昨日、コリンナさんも部屋に来てくれたみたいだしね。

 きっと、心配していただろうから、顔を見せに行かないと。

 それに祝福のこともある。

 祝福がどういうものかははっきりしていないけど、【聖女】の術が発動できるようになったのだ。

 これから色々と実験できる。

 実験が上手くいけば、お目当ての薬草が手に入る。

 その後のことを考えると、ワクワクした。

 まずは祝福について再度確認して、それからコリンナさんに実験の許可を取って……。

 そんな感じで段取りを考えつつ、蒸留室に向かった。






「もう大丈夫なのかい?」

「はい。ご心配をおかけしました」



 蒸留室に入った途端に、コリンナさんに声を掛けられた。

 やっぱり心配を掛けていたらしい。

 頭を下げれば、「大丈夫ならいいんだよ」と返ってくる。

 挨拶もそこそこに、相談したいことがあると言えば、奥の部屋に案内された。

 小声で話し掛けたんだけど、ちゃんと意図を汲み取ってくれたようだ。

 相談したいのは祝福についてだ。

 機密情報が含まれると思ったので、他の人がいる部屋で話すのは避けた。



「祝福の実験だって?」

「えぇ。まずは、もう一度資料を読んでからですけど」

「資料を読んだ後はどうするつもりだい?」

「恐らく、何かしらの薬草を使って実験することになると思います。それで植木鉢なんかを借りたいのですが」

「植木鉢?」

「いきなり薬草畑で実験して、失敗したら困りますよね?」

「それもそうだね。分かった、手配しよう」

「ありがとうございます」



 祝福の実験は、まずは植木鉢を使って確認することにした。

 薬用植物研究所で【聖女】の術を発動させたときのようにすれば、問題なくいけるんじゃないかとは思うけど、念のためね。

 コリンナさんの話では、午後には準備ができるだろうということだったので、それまでの間に資料を見直すことにした。


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