167 フラグ建築士
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魔物の討伐から無事に帰ってきた、その夜。
夕食後に報告会が開かれた。
参加者は討伐に参加した師団長様と団長さんに私だ。
カイル殿下に言われた通り、いつも身内だけが使っている居間に集まると、暫くしてカイル殿下と側近の人達がやってきた。
席に着いたカイル殿下が促し、報告会が始まる。
討伐時の代表だったからか、報告を行ったのは師団長様だ。
出発式にテンシャク殿下が来たことや、討伐にテンユウ殿下も参加したこと等、師団長様は淡々と報告した。
事実に即しているけど、省かれている内容もあった。
報告には必要ないと判断したのかもしれない。
「討伐については、概ね予想通りでした」
「予想通りというのは?」
「事前に集めた情報の通り、討伐先の魔物はあまり強くはありませんでした。もっとも、出ると言われていた小型の魔物は姿を見ておりません」
「小型の魔物は出なかったのか?」
「はい」
「そうか。中型の魔物はどうだ?」
「中型の魔物もほぼ出ませんでした。魔物に遭遇したのは一度だけです」
態とではないのだけど、聞いていて気不味いこと、この上ない。
魔物が出なかったのは、十中八九、私のせいな気がするもの。
「出てきたのは、どのような魔物だったのだ?」
「狼型の魔物です。姿形は我が国で出るものと大差なく。見た目の違いといえば、毛色が多少異なっているくらいでしょうか」
「毛色が違うとなると同じ狼型でも種類が異なりそうだな」
「はい。それから、我が国の物と比べて、魔法抵抗が高いようです」
「そうなのか?」
「恐らく、ですが。実際、魔法が効きにくかったので」
そういえば、狼型の魔物に魔法が通りにくいって師団長様が言っていたわね。
魔道師さん達も想定していたよりも多くMPを消費していたみたいだし。
「それにしても、魔物が出てきたのは一度だけか。それは討伐と言えるのか?」
「どうでしょう? 私としましても物足りませんでしたね」
「物足りない……。んんっ! あちら側はどういうつもりで合同討伐を持ちかけて来たんだ?」
物足りない発言に一瞬呆気に取られたカイル殿下だったけど、すぐに持ち直した。
気を取り直すように咳払いをした後、何食わぬ顔で疑問を口にする。
魔物が出ないのが予想通りなら、当然疑問に思うだろう。
【英雄】殿の実力を私達に見せつけるにしても、魔物が出なければ見せようがなく、 辻褄が合わない。
次にカイル殿下の問いに答えたのは団長さんだ。
「ザイデラ側は予想していなかったと思われます。【英雄】殿は魔物が現れないことにかなり苛立った様子でした」
「こう言っては何だが、本来なら十分な数の魔物が出ていたはずだったということか」
えぇ、そういうことだと思います。
ですが、そこは突き詰めないでいただきたい。
本当に気不味いこと、この上ないので。
たとえ表面上はすまし顔でも、内心は冷や汗でびっしょりだよ!
「討伐についての報告は以上です」
気持ちが伝わったのかは謎だけど、師団長様はあっさりと報告を終わらせてくれた。
深掘りされなかったことに、ホッと息を吐く。
いや、皆原因を分かっていて、突き詰めなかっただけかもしれないけど。
「御苦労。それで、肝心の【英雄】殿についてだが、それぞれ気付いたことを教えてくれ」
一通り話を聞いて、カイル殿下が次に聞いてきたのは【英雄】殿のことだった。
そういえば、討伐を行うことになった建前は【英雄】殿のことをよりよく知るためだったっけ?
それなら質問されるのにも頷ける。
「鑑定で判明した以上のことはありませんでした」
「確実なことでなくとも構わない。何か感じたこと等ないか?」
「そうですね……。強いて挙げるなら、討伐がお好きなのかもしれませんね」
最初に答えた師団長様は【英雄】殿の人柄には興味がないようだ。
乞われて挙げた内容も、鑑定魔法の結果と今回の討伐で見せた姿から導き出しているように思われる。
あそこまで基礎レベルを上げるには、師団長様と同じくらい魔物を倒す必要があるはずだ。
今回の討伐での様子も、魔物が出ないせいで心ゆくまで討伐を満喫できないことに苛立っていた可能性もある。
もし討伐好きなら、師団長様とは気が合いそうね。
「ホーク団長はどうだ?」
次に尋ねられたのは団長さんだ。
団長さんは考えを纏めるためか、少し考え込んだ後に口を開いた。
「感情を表に出しやすい方のようです」
「そう思った理由は?」
「距離は離れておりましたが、討伐中に叱責の声が聞こえてきましたので」
「先程報告があった苛立っていたときの話か?」
カイル殿下の確認に、団長さんは頷く。
「大声を出していたということか。激しやすい性格をしてそうだな」
客である私達がいたにもかかわらず、大きな声で叱責をしていたことから、カイル殿下は【英雄】殿は血の気が多い人物だと判断したようだ。
確かに、そうかもしれない。
「セイ様はどう感じましたか?」
「私ですか?」
聞き役に徹していたら、話を振られた。
何で私に!?
師団長様、団長さんと来たから、私にも聞いてみようと思ったってこと?
どう感じたかって、話の流れ的に【英雄】殿のことよね?
うーん……。
思い返しても、カイル殿下が言った以上の感想は出てこない。
強いて挙げるなら、出発式のときにテンシャク殿下とは仲が悪そうだなと感じたことくらい?
師団長様が詳細を省いた内容でもあるし、話題として丁度良さそうだ。
「何かありましたか?」
「えっと、あくまで私の所感なのですが……」
「構いません」
カイル殿下の言葉に背中を押されて、出発式のときのテンシャク殿下と【英雄】殿の遣り取りを説明する。
そのときに、二人の仲があまり良くなさそうに見えたことを伝えると、カイル殿下は視線を落として考え込んだ。
「テンシャク殿と【英雄】殿が不仲かもしれないか……。少し調べてみます」
カイル殿下が発言の後に側近さんの一人に視線を向けると、向けられた側近さんが頷いた。
何となしに遣り取りを見ていると、カイル殿下が説明してくれた。
テンシャク殿下と【英雄】殿との仲なんて、今後必要になる情報かは分からない。
けれども、皇都が封鎖されて閉じ込められている現状、何でもいいからが手掛かりは欲しい。
そういう訳で一応調べてみることにしたそうだ。
「取り敢えず、討伐は無事に終わったが……。聞いた様子だと、また合同討伐の誘いが来そうだな」
一通り話が終わったところで、カイル殿下はげんなりとした様子で零した。
殿下、それはフラグでは?
通じないだろうから口には出さなかったけど、心の中で思わずツッコんだ。
そして、そんなフラグに飛び付いた人物がいた。
「できれば、次回は違う地域での討伐だと嬉しいですね」
そう宣ったのは師団長様だ。
笑みを浮かべているのは報告のときと変わらない。
しかし、先程よりも背後に花が舞っているような雰囲気を醸し出している。
討伐に行けることがそんなに嬉しいんだろうか?
嬉しいんですね?
でも、一体何でそんなに討伐に行きたいのか?
元々討伐好きな師団長様のこと。
理由はいつも通り、研究の息抜きやレベル上げのためなのかもしれない。
ただ、少し気になったので聞いてみた。
「あの……、何で違う地域だと嬉しいんですか?」
「それはもちろん、他の地域の魔物の様子も知りたいからです。今回出た魔物と同様、他の地域の魔物も魔法抵抗が高いかもしれませんからね」
あ、いつも通りだけど、いつも通りじゃなかった。
魔物について知るためだったのね。
理由を聞いて納得していると、カイル殿下も聞きたいことができたようで、口を開いた。
「何故、他の地域の魔物も魔法抵抗が高そうだと考えた?」
「ザイデラでは魔法の強さに重きを置いていないようです。このことから、この国で出現する魔物は総じて魔法抵抗が高いのではないかと推測しました」
報告のときとは打って変わって、素の笑みを浮かべて師団長様は推論を口にする。
話しながら、今も師団長様の脳内では目紛るしく色々な考えが飛び交っているのかもしれない。
ザイデラの魔物の特徴が余程興味深いのか、カイル殿下の質問に飛躍した答えを返していた。
言われてみれば、ザイデラの兵士さん達の中に魔道師っぽい人はあまりいなかった気がする。
魔物との交戦中も魔法が飛び交っている感じはしなかったし。
師団長様もそういう雰囲気から魔法の強さに重きを置いていないって判断したのかしら?
魔法は戦闘以外にも色々と使えると思うんだけど、魔物の討伐で効果が薄いからザイデラでは軽んじられているってこと?
色々と疑問が浮かんだけど、その間にもカイル殿下と師団長様の話は続いた。
「魔物に魔法が効きにくいから軽んじ、魔法技術を磨かなくなったということか?」
「はい。その可能性が高いのではないかと考えています」
「一度遭遇しただけの魔物からそこまで考えるのは時期尚早ではないか? 標本数が少な過ぎるだろう」
カイル殿下がもっともなことを口にしたけど、それは言ってはいけない言葉。
案の定、師団長様が我が意を得たりと笑みを深くした。
「もちろんです。ですから、他の地域の魔物についても確認できればと」
いや、ダメでしょう。
ここは自国ではないのだから、そんな自由に研究を進めて良い訳がない。
しかも今は情勢が不安なのだ。
早くスランタニア王国に帰るためにも、あれこれと手を出してる暇はないと思う。
皆同じようなことを思ったのか、カイル殿下を含め、師団長様以外のメンバー全員が呆れた視線を師団長様に向けた。
「そうか。だが、どこに討伐に行くかは、あちらが決めることだ。そもそも、合同討伐の誘いがまた来るとも限らないしな」
殿下、それはフラグです。(二度目)
そんなことを言っていると、本当にフラグが立ちますよ?
討伐のお誘いがまた来ちゃいますよ?
それに、先程と言ってることが違いますよ?
もしかして、現実逃避でしょうか?
心の中で色々と叫んだけど、口には出さなかった。
出したら今度こそ本当にフラグが立ちそうな気がしたし。
けれども、無駄な努力だったのかもしれない。
何故なら、再びテンシャク殿下からお誘いが来たからだ。
もっとも、その前に、もう一人の皇子様からも招待状が届いたんだけど。