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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
201/205

166 異国の魔物

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

 出発式の後、討伐予定地までは馬車で移動した。

 普段は馬に乗って移動する騎士さん達まで馬車に乗っているのは、何だか新鮮だった。

 馬車は簡素な物だったけど、ザイデラの人達を見る限り、お客様対応をしてもらっているのかもしれない。

 ザイデラの兵士さん達は、ほとんどの人が徒歩移動だったからね。


 予定地はそれほど遠くなく、お昼頃には到着した。

 ここで一旦休憩を取ってから、討伐に向かうそうだ。



「森だって聞いてましたけど、どちらかというと山と言った方が正しいような……」



 今日は皇宮の西にある森に行くと事前に説明を受けていた。

 確かに目の前には木々が生い茂っている。

 森と言って間違いではないのかもしれない。

 ただ、遠目に見たときには、ここは間違いなく山だった。

 道中も緩やかな上り坂だったし。


 目の前に広がる森(?)を見ながら呟くと、別の馬車に乗っていたテンユウ殿下がいつの間にか隣に来て頷いた。



「ここは皇都の西にある山の麓になりますから、山と言っても合っているかと思います」

「そうなんですね」



 山でいいんだ。

 なら、どうして森だと言われたんだろか?

 もしかして通訳の人が間違えたのかしら?

 謎は深まるばかりである。


 まぁ、そんなことはどうでもいいこと。

 テンユウ殿下と会話している間にも、周囲では休憩の準備が進められていた。

 騎士さんから準備が整ったと声を掛けられたのを合図に、テンユウ殿下と共に師団長様達がいる場所へと移動した。



「そろそろ出発するようです」



 用意された床几に腰掛けて、周りと話しながらお茶を一杯飲み終わった頃、ザイデラの人達の方を見たテンユウ殿下が声を上げた。

 釣られて同じ方向を見れば、ザイデラの兵士さん達が慌ただしく動き始めていた。

 それを合図に私達も動き出した。

 いよいよ討伐開始である。



『おい! 一匹も出てこないなんて、どうなってるんだ!』



 山? 森? の中に入ってから一時間位は経った頃、前方の方で怒鳴り声が聞こえた。

 あの声には聞き覚えがある。

 恐らく【英雄】殿だろう。


 怒っているのは、ここまで一度も魔物に遭遇しなかったからだと思われる。

 少し前からザイデラの兵士さん達が魔物を探すため周囲に偵察に行っていたようだけど、未だに発見の報せはない。



「賑やかですねぇ」

「お騒がせしており申し訳ありません」



 遠くから聞こえてくる声に、のんびりと反応したのは師団長様だ。

 すかさず、側にいたテンユウ殿下が申し訳なさそうに謝る。



「テンユウ殿下が謝られることではありません。【英雄】殿が怒られているようですが、何かあったのですか?」

「お恥ずかしいことに、魔物が見つからないことを叱責しているようです」

「そうでしたか」



 師団長様の問いに、テンユウ殿下は隠すことなく【英雄】殿が声を荒げた理由を話す。

 テンユウ殿下の言葉が正しいか確認するためだろう。

 師団長様がこちらに視線だけを向けたので、合っていると肯定するように微かに頷いた。



「スランタニア王国の皆さんには、ここまで来てもらったのに申し訳ありません」

「魔物が出ないのは悪いことではないでしょう。それに、これから遭遇するかもしれませんし」



 尚も謝罪するテンユウ殿下に、師団長様は鷹揚に返す。

 しかし、言葉の後半に期待は含まれていないものと思われる。

 理由は言わずもがな。


 私も態とそうしている訳ではないんだけどね。

 でも、仕方がないじゃない?

 出なくなるものは出なくなるんだから。



「ところで、この辺りはどのような魔物が出るのでしょうか?」

「この辺りでは主に獣型の魔物が出ます。多いのは(ねずみ)(いたち)型の小型の物でしょうか」



 小型の魔物と聞いて、師団長様や団長さんには容易に想像できたのか納得したように頷く。

 けれども、鼠や鼬型の魔物を見たことがない私にはよく分からない。


 小型と言っているから、似た形の動物と同じくらいの大きさなのかしら?

 だとしたら、本当に小さい。

 ただ、それほど脅威にもならないような……?



「小型のというと、どれくらいの大きさなんですか?」

「これくらいの大きさですね」



 試しに聞いてみると、テンユウ殿下は両手で50cmくらいの幅を示した。

 普通の鼠や鼬よりは十分大きい。

 とはいえ、師団長様の実力を測るのには心許ないように思える。



「小型の魔物だと、【英雄】殿が出る程の強さはないように思えますが」

「はい。ただ、最近は狼型の魔物が多く出るようになっているらしく」

「狼型ですか。確かに、狼型は群れを作るので倒すのも面倒ですね」



 引き続き、師団長様が疑問を呈すると、テンユウ殿下が答えた。

 狼型というと、スランタニア王国での討伐でも何度も見たことがある。

 師団長様の言う通り、よく群れで出てくるので、騎士団や傭兵団の人達でもない一般の人が討伐するのは大変だと聞いている。


 もっとも、面倒だと言っている辺り、師団長様に取ってはそう大変なことでもなさそうだ。

 面倒だというだけで。

 一頭であれば、基礎レベルが高い【英雄】殿も軽く倒せそうな気がする。


 そうなると不思議なのは、師団長様の実力を測るためにこの場所を選んだ理由だ。

 そう強くない魔物で実力を測るのなら、どちらが多く倒せるかを競おうとでも思ったのかしら?

 群れを作るなら、数は多いだろうし。



「群れの数も増えていると聞いています。それで最近は【英雄】殿が討伐に出ることも多くなっているようです」

「それなら、今日も倒した数で競おうとでも考えられていたのでしょうか?」

「恐らくそうではないかと思います」



 群れが増えているってことは、必然的に魔物の総数が増えてるってことよね。

 考えていた通り、魔物の数が多いはずだと見込んだからこそ、選ばれた場所だったようだ。

 しかし……。



「では、この状況は歓迎できるものではありませんね」



 デスヨネー。

 師団長様の言葉に心の中で激しく同意する。

 同じように思ったのだろうテンユウ殿下も苦笑いを浮かべていた。


 師団長様も困ったというように頬に手を当てて首を傾げる。

 もっとも、口調は単に事実を述べているだけという風に淡々としたものだ。



「ザイデラの魔物にも興味があったのですが、今日はお預けですかねぇ」

「そうでもないようだぞ」



 ほんのりと残念そうな雰囲気を醸し出しつつ師団長様が呟いたのがフラグになったのだろうか。

 団長さんの空気が急にピリリとしたものに変わり、呼応して周囲の人達の間にも緊迫感が漂った。

 遅れて、前方の方からも緊張した声と【英雄】殿の喜色に塗れた声が届く。



「出ましたか」



 ここにも一人いたよ。

 魔物が出て喜ぶ人。


 周りの緊張感もなんのその。

 声がした方に視線を向けると、師団長様が楽しそうに笑みを浮かべていた。


 ブレないなぁと呆れながらも感心していれば、こちらにも魔物がやって来た。

 前方にいる人達の討ち漏らしか、それとも別動隊だったのか。

 狼型の魔物が何頭か現れ、いつも通りに騎士さんや魔道師さん達が連携を取って戦い始めた。


 私とテンユウ殿下は集団の中心で大人しく待機だ。

 いつものように支援魔法を唱えることもなく、手持ち無沙汰に魔物を観察する。


 形と大きさはスランタニア王国の王都周辺で見掛けた物と大差ないようだ。

 毛の色は少し違うような気がする。

 もしかしてスランタニア王国で見た魔物とは種類が違うのだろうか?

 素早さは似たようなものの気がするけど、攻撃力はどうなんだろう?


 出てきた魔物の強さを測るため、周りの人達の様子を窺う。

 騎士さん達は普段通りだ。

 難なく魔物をいなしている。


 けれども、魔道師さん達の様子は少し変だった。

 何故か皆微妙な表情を浮かべている。

 どうしたのだろう?



「魔法の通りが悪いですね」



 一通り魔物を倒し終わった後、師団長様が淡々とした口調で疑問の答えを口にした。

 魔法の通りが悪い?

 ということは……。



「魔物の魔法抵抗値が高いってことですか?」

「恐らくは」



 推測した内容を確認すれば、師団長様は頷いた。



「どれくらいだ?」

「普段の二割くらいでしょうか。魔法の威力が減っているように感じます」



 続いて団長さんが程度を確認すると、二割という答えが返ってきた。

 20%減か。

 大きくはないけど、小さくもない数字だ。



「二割か。楽観視はできないな」

「えぇ。他の魔物も魔法が効き難いとなると、少々厄介です」



 数字を聞いて、団長さんも顔を顰める。

 倒せなくはないけど、面倒なのは間違いない。

 実際に今の戦闘で同行している魔道師さん達はかなりMPを消費したようで、持ってきたMPポーションが大活躍している。

 ポーション、足りるかしら?


 しかし、そんな心配は不要だった。

 なぜなら、その後は魔物が出なかったからだ。

 後には【英雄】殿の不満げな声が響くばかり。


 こうしてザイデラの人達との討伐は一部の人達が不満を残しつつも、無事に終えることができた。


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