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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
200/205

165 出発式

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

 ザイデラの人達との合同討伐の日。

 見上げれば空には雲一つなく、青空が広がっていた。

 絶好の討伐日和だ。


 使節団から今日の討伐に参加するのは、師団長様と団長さん、それから騎士さんと魔道師さん達、最後に私だ。

 人数としては、スランタニア王国での普段の討伐時の一班より少し多いかなといったところ。


 テンシャク殿下が招待したかったのは師団長様だけだと思う。

 けれども、護衛である団長さんと二人だけで行かせるのは体裁が悪い。

 そういう理由で、騎士さんや魔道師さん達も同行することになったのだ。


 集合場所である門の前に向かうと、既に多くの兵士さんが集まっていた。

 遅刻したかと不安になったけど、共に来た団長さんと師団長様を見れば、二人とも普段通り落ち着いている。

 良かった。

 遅刻はしてなそうね。


 こっそりと安堵していると、兵士さん達がいるのとは別の方向から数人の集団がこちらに向かっているのに気が付いた。

 見遣れば、先頭を歩いていたテンユウ殿下が微笑みを浮かべた。



「皆さん、おはようございます」

「「「おはようございます」」」



 テンユウ殿下の挨拶に、揃って挨拶を返す。

 ここに来たのは見送りだろうか?

 不思議に思っていると、テンユウ殿下が口を開いた。



「今日は私も一緒に行くことになりました」

「テンユウ殿下もですか?」



 テンユウ殿下の言葉に師団長様が首を傾げる。

 それも当然。

 テンユウ殿下は討伐のような荒事に向いているようには見えない。

 スランタニア王国にいたときも、魔物相手に戦えるとは聞いたことがないし。



「通訳が必要かと思いまして」



 なるほど、確かに通訳は必要だろう。

 私がいなければ。



「セイは見送りに来たのですか?」

「いえ、私も通訳として同行するのです」

「えっ!」



 微笑みながら小首を傾げるテンユウ殿下に自分も通訳として一緒に行くのだと告げると、目を丸くされた。

 スランタニア王国では討伐に行くことが当たり前になっていたから、驚かれるのは何だか新鮮だ。

 でも、よくよく考えてみれば、私も討伐に行くようには見えないかもしれない。

 いつも机に齧り付いてそうな研究職だしね。



「こう見えて、薬草の採集等で歩くのにも魔物にも慣れてるんですよ」

「そうでしたか」



 考えていることを何となく推測して言葉を返せば、テンユウ殿下は納得したように頷く。

 思えば、私と同様にテンユウ殿下も同じように薬草を求めて山野を歩き回っていたことがあるのかもしれない。

 以前は母親のために色々な薬を探していたし。



『揃っているな』



 そうして話していると、テンユウ殿下が来たのと同じ方向から今度はテンシャク殿下が側付きの人達と一緒にやって来た。

 一同でテンシャク殿下に向かって挨拶をすると、テンシャク殿下はスランタニア王国側の参加者を確認するように私達を見回した。

 そして、一点で視線が止まる。


 えっと……。

 そんなに見詰められると困るのですが?

 これは、やっぱり、あれだろうか?


 テンシャク殿下が私を見て何を思ったのかを推測していると、数秒の静止から再起動したテンシャク殿下が口を開いた。



『彼女は?』

『彼女はスランタニア王国の通訳で、本日も同行するそうです』



 テンシャク殿下の言葉少ない疑問に答えたのはテンユウ殿下だ。


 予想通り、私がいるのは意外だったらしい。

 やはり私は討伐に行くようには見えないようだ。

 通訳として一緒に行くと聞いて、テンシャク殿下は怪訝な顔をしていた。



『今日は魔物も出る場所に行くのだが、大丈夫なのか?』

『山野を歩き慣れており、魔物にも慣れているそうで、大丈夫だと言っていました』

『そうか』



 ザイデラ語のみでの遣り取りに耳を澄ます。

 どうやら危険な場所に行くので心配されているようだ。

 テンユウ殿下から問題ないと伝えられても、少し考えこんでいた。

 それでも、最終的に私がついて行くことに理解を示してくれた。



「今日はテンシャク殿下もいらっしゃるのでしょうか?」



 テンユウ殿下とテンシャク殿下の話が一区切りついたところで口を挿んだのは師団長様だ。

 それは私もちょっと気になっていた。


 通訳された質問に対して、テンシャク殿下は首を横に振る。

 テンユウ殿下とは異なり、単純に見送りで来たそうだ。



『これはこれはテンシャク殿下。御機嫌麗しく』



 いつの間に近付いて来たのか、突然大きな声が響いた。

 声のした方を向けば、派手なザイデラ様式の鎧を着た大柄な男性が数名の兵士さん達を引き連れて立っていた。

 もしかして、この人は【英雄】殿だろうか?


 内心首を傾げていると、テンシャク殿下が紹介してくれた。

 予想通り、彼が今代の【英雄】だそうだ。

 お互いに紹介されて軽くお辞儀をし合った後、【英雄】殿は再びテンシャク殿下に声を掛けた。



『こちらにお越しになったということは、殿下も本日は御参加いただけるので?』

『いや。私は客人達の見送りだ』

『おや、そうなのですか? 今日行くのはシーシャンルーの辺りですから、殿下がお出でになるのにも問題ないかと思いましたが』



 言葉は丁寧だけど、【英雄】殿の口調や表情からテンシャク殿下への嘲りを感じる。

 テンシャク殿下の母親の実家は軍を取り纏めている家だと聞いた気がする。

 軍に所属する【英雄】殿はテンシャク殿下の派閥に入っているものだと思っていたけど、実は違うのだろうか?



『悪いが、今日は先約があり不参加だ』

『そうですか。殿下に私の力をお見せできないのは残念です。また次の機会に、御一緒できるのを楽しみにしております』

『ああ。今日はお前の希望でスランタニア王国からの客人も一緒だ。くれぐれも粗相(・・)がないように』

『承知いたしました』



【英雄】殿の言葉に、テンシャク殿下は冷たく返した。

 それでも口調を改めなかった【英雄】殿だったけど、念を押すように言われた「粗相」という言葉に表情を変えた。

 あからさまに気分を害したという表情を浮かべた後、【英雄】殿は慇懃に言葉を返した。


 やっぱり。

 目の前の様子を見る限り、テンシャク殿下と【英雄】殿はあまり仲が良いようには見えないわね。



「彼等は何と?」

「えーっと、激励……ですかね?」



 不穏だわ~と、テンシャク殿下達の様子を眺めていると、並んで立っていた団長さんから小声で問われた。

 一瞬、どう答えたものか悩んだけど、取り敢えず同じように声を顰めて、無難な回答を返す。

 まだ周りにザイデラの人達がいるし、詳しいことは後で伝えた方が良さそうよね。

 そんな風に考えたことが伝わったのか分からないけど、それ以上問われることはなかった。



『そろそろ時間だな。スランタニア王国の方々は彼方に並んでくれ』



 団長さんと話している間に、テンシャク殿下と【英雄】殿の遣り取りも終わったようだ。

 出発の時間が来たようで、テンシャク殿下から居並ぶ兵士さん達の隣に私達も並ぶように言われた。

 これから出発式が行われるようだ。



『今日は、ここにいるスランタニア王国の使節団の者達も参加する。共に力を合わせ、任務に当たって欲しい』



 出発式では、テンシャク殿下が私達を紹介した後、兵士さん達に激励の言葉を贈った。

 スランタニア王国での討伐のときと同じような感じで、皇子二人が参加している割には簡単な式だった。

 ザイデラでは、効率重視なのだろうか?

 いや、どちらかというと、テンシャク殿下が効率重視なのかもしれない。


 そして、テンシャク殿下の挨拶が終わると、私達は討伐予定地へと出発した。


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