163 断れないやつ
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使節団に戻った私達から話を聞いたカイル殿下は案の定頭を抱えた。
やはり突然【英雄】殿に鑑定魔法を使うのは少々問題があったようだ。
事前相談はあったものの、鑑定魔法の使用は話してなかったことから、師団長様はその部分について厳重注意を受けた。
今のところ皇宮から抗議は来ていないけど、来た場合の対応をカイル殿下と側近の人達で協議することになった。
また、師団長様が気になったことについても話を聞いた。
師団長様は【英雄】殿の基礎レベルが他の人よりも突出している理由が気になったそうだ。
単純に討伐した魔物の数が多いのか、それとも体質なのか、そこが気になるそうだ。
体質?
体質で基礎レベルが高くなったりするの?
疑問に思ったことを口に出せば、師団長様がとてもいい笑顔で私を見た。
「宮廷魔道師に一人いるのです。他の者よりも基礎レベルや属性魔法のレベルが上がりやすい者が」
「そうなんですね」
「セイ様もご存知の方ですよ」
「私が知ってる方ですか?」
「はい。アイラ・ミソノ。セイ様と同郷の方です」
他の人よりもレベルが上がりやすい宮廷魔道師。
名前を聞いて、色々と納得した。
道理で師団長様が含みのある笑顔で私を見る訳だ。
「セイ様、心当たりはありますか」
「えーっと、そうですね……」
心当たり……、心当たりはあるだろうか?
レベルが上がりやすいことなんてあったっけ?
うーん……。
「特にないです」
「本当に?」
「本当ですよ。製薬スキルのレベル上げをしてますけど、上がりやすいって感じたことありませんし」
師団長様から疑わしそうな目で見られたけど、本当に心当たりはない。
製薬スキルのレベルの高さに驚かれることはあったけど、それも地道なレベル上げのお陰だ。
そういえば、もうそんなに上がったのかって驚かれたこともあったっけ?
でも、あれも一日に作れるポーションの数が人の何倍もあったから上がるのが人より速かっただけだと思うし。
まさか作ったポーションの数に隠れて、実はアイラちゃんと同じように他の人よりレベルが上がりやすかったのも理由の一つだった、なんてことはないわよね?
……。
本当にないよね?
「聖属性魔法のレベルはいかがですか?」
続けて問われた内容に、何と答えるべきか悩む。
聖属性魔法のレベルかぁ……。
何てったって∞。
変わっていないというか、もう上がりようがないというべきか……。
今まで散々使っていたからスキルを持っていることはバレている。
レベルが高いこともバレているけど、数値まではバレていない。
聞かれたくなかったことだというのが一番大きな理由だけど、【英雄】殿との関わりも少なそうな現状、申し訳ないけどここは誤魔化させてもらおうか……。
「聖属性魔法のレベルも上がりやすいって感じたことはありません」
少し考えて答えると、師団長様はじっと私を見た。
対抗して私も師団長様の目を見つめる。
疚しさは多少あるけど、嘘は言っていない。
レベルが上がったことは一度としてないもの。
少しして、師団長様は「分かりました」と頷くと、口を閉じて考え込んだ。
今までの情報から考えを纏めているんだろうか?
皆で様子を窺っていると、師団長様はカイル殿下に向かって口を開いた。
「少し調べていただきたいことがあります」
「【英雄】殿の来歴か?」
「はい。魔法の開発に役立つかは分かりませんが、念のため生まれと育ちを調べていただきたく」
「分かった。調べてみる」
結局、【英雄】殿のことを調べることにしたようだ。
開発の手掛かりは未だ見つからないので、藁にも縋る思いなのかもしれない。
進まない研究にあるあるな話でもあるので、心境は想像に難くない。
そして、【英雄】殿の調査結果が揃うまでは、今まで通り皇宮で調査を続けることが決まった。
翌日。
閲覧室で調査をしていた私達の元に意外な人物――テンシャク殿下がお供と共にやって来た。
昨日の鑑定魔法の話が何処かから伝わったのだろうか?
いや、何処かからも何も、テンユウ殿下が報告したのだろう。
怒られるのかしら?
戦々恐々としながら、周りと合わせてテンシャク殿下にお辞儀をした。
頭を上げる許可が出た後、話はやはり昨日の鑑定魔法の話になった。
私と違って予想していたのか、対応する師団長様はいつも通りの態度だ。
『昨日、我が軍に対して鑑定魔法を使ったと聞いた』
「昨日、我が軍に対して鑑定魔法を使ったと聞きました」
「はい。盗まれた剣を探す魔法を開発するために【英雄】殿と何人かの兵のステータスを拝見させていただきました」
テンシャク殿下の言葉を通訳の人がスランタニア語に訳し、師団長様に伝える。
師団長様の答えは昨日テンユウ殿下にも伝えた通りだ。
通訳から話を聞いたテンシャク殿下は微かに頷く。
『どうして【英雄】に鑑定魔法を使ったのだ?』
「何故、【英雄】様に鑑定魔法を使ったのでしょうか?」
「調べたところ剣を下賜された人物は過去の【英雄】だったことが分かりまして、現在の【英雄】殿から何か開発の手掛かりが得られないかと思い調べさせていただきました」
次に聞かれたのは理由だ。
こちらも昨日伝えた通り。
テンユウ殿下は鑑定魔法が人物にも使えることに驚いていたけど、テンシャク殿下は驚いた様子がない。
これもテンユウ殿下から伝え聞いていたのだろうか?
問われることもなく話が続いている様子を見ると、その可能性は高そうだ。
「そうですか。それで、魔法の開発に使えそうな情報は分かりましたか?」
「いいえ。残念ですが、今のところ開発に役立ちそうな情報はありませんでした」
続く質問も想定内。
師団長様も昨日と同じ話を続けた。
しかし、ここからがテンシャク殿下の本題だったようだ。
「鑑定魔法で見られるステータスはどのようなものなのでしょうか?」
「生活魔法で見ることができるステータスと同様のものになります」
師団長様のあっさりとした返答を聞いて、テンシャク殿下は更に詳細な内容を求めた。
「ステータスと同様のものというと、名前と基礎レベルに職業、それから生命力量と魔力量、所持する戦闘スキルと生産スキル、それぞれのスキルレベルでしょうか?」
「その通りです」
聞き慣れない言葉があったけど、恐らく生命力量はHP、魔力量はMPのことだろう。
通訳さんが師団長様の返答を伝えるとテンシャク殿下は極僅かに表情を歪めた。
やはり無断で【英雄】殿のステータスを確認したのは、何かしら問題があったのかもしれない。
そう思った通り、テンシャク殿下から鑑定魔法の無断使用について苦言を呈された。
今回は目を瞑るけど、次回からは許可を取るようにとのお達しだ。
それに対して、師団長様一同、神妙に頷いた。
これで話は終わったかと思ったら、そうは問屋が卸さなかった。
続いて提案されたのは、【英雄】殿との共同作業。
合同での魔物の討伐だった。
「もしよろしければ【英雄】様と共に魔物の討伐に行かれませんか?」
「討伐にですか?」
「【英雄】様のことがお知りになりたいとのことですから、討伐で直接【英雄】様のお力を目にするのはいかがでしょうか? ステータスからだけでは分からないことも分かるかもしれませんよ?」
提案の形を取っているけど、これは断れない。
今までの話の流れからして、こちらには鑑定魔法の無断使用という瑕疵がある。
それに何より、師団長様がやる気だ。
これはアレだ。
進まない研究で溜まったストレスを解消する気だ。
師団長様の表情がすごく晴れ晴れとしたものに変わったもの。
超乗り気だ。
気配を察した団長さんが師団長様の脇を肘で突かなければそのまま了承していただろう。
結局、何とか返答は伸ばされ、取り敢えず使節団で検討してから返事をすることになった。
テンシャク殿下もそれで満足したようだ。
食い下がることなく、お供を引き連れて閲覧室を後にした。