162 遂に明かされる?
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盗難された剣の伝来を調べた結果、皇帝から剣を下賜された人物は【英雄】だったことが分かった。
その【英雄】は生きていた頃は【剣聖】と呼ばれていて、もしかしたら【聖女】と同じような特殊な存在だったかもしれない。
団長さんと共に現時点で分かったことと、そこから導き出された推測を伝えると、案の定、師団長様は目を輝かせて興味を持った。
残念ながら、持ち主が【英雄】だったことが魔法の開発に役立つかはすぐには分からないという話だ。
私の推測を含む不確定要素も多いので、そう判断されても仕方がないとは思う。
ただ、調べてみる価値はあるということで、師団長様は早速【英雄】について調べることにした。
思い立ったが吉日とばかりに、話が終わるとすぐさま師団長様はカイル殿下に会いに行ったのだ。
てっきり今までのように書物から調べるのかと思っていたので、どうしてカイル殿下の所に行ったのかは分からなかった。
師団長様の行動理由が解き明かされたのは、翌日の朝食のときだ。
「今の【英雄】に会いに行くんですか?」
「会いには行きませんよ。見るだけです。遠目からでも見られれば十分ですから」
主要メンツが揃った朝食の場で、師団長様が今日は【英雄】を見に行くと口にした。
唐突な話に鸚鵡返しに確認すると、師団長様から訂正が入る。
思い返せば、確かに「見に行く」と言われただけで、「会いに行く」とは言われていない。
「もちろん近くで見る方がより判断しやすいことは確かですが、生憎会いたいと言ってすぐに会えるような方ではないらしくて」
「【英雄】は軍の重要人物ですから。捜査協力のためと言っても、会える許可が下りるかは不明なのです」
師団長様の言葉を補足したのはカイル殿下だ。
想像するに、師団長様がカイル殿下のもとに向かったのは、現在の【英雄】に会う許可を貰うためだったようだ。
そして、カイル殿下が言う通り、【英雄】に会うのは難しく、取り敢えず遠目に見るだけでもという話に落ち着いたのだろう。
ということは……。
「覗き見?」
「そこまでは」
思い付いたことをポツリと呟くと、師団長様がニッコリと微笑みながら否定した。
ごめんなさい。
流石にそれはないですよね。
「【英雄】殿は定期的に皇都周辺の魔物の討伐に出掛けているそうで、その行き帰りの際に姿を拝見できないかと考えています」
例によってカイル殿下の補足によると、出発も帰着も皇宮からだそうで、行き先に近い門で待っていれば【英雄】の姿を見ることができるだろうという話だった。
「丁度良く現在遠征中で、二日後に戻ってくる予定だそうです」
「その様子を見られないか、テンユウ殿に聞いてみようと思います」
ワクワクしているのが堪えられない様子で、師団長様が予定を告げる。
続けてテンユウ殿下へ協力を要請すると口にしたのはカイル殿下だ。
うん、やっぱり何かしらザイデラ側に断る必要はありますよね。
そして私達は二日後に【英雄】達が戻ってくるという門へと……向かえませんでした。
依頼を快く受けてくれたテンユウ殿下の知らせによると、何やら彼方の予定が崩れた模様。
戻ってきたと連絡を受けて門に向かったのは、一日遅れの三日後のことだった。
「ああ、戻ってきましたね」
師団長様の声に私達は一斉に門の向こう側を見た。
何人かの歩兵が先頭を歩き、その後ろに馬に乗った男性がいる。
周りの人と比べて一回り大柄な感じがするけど、彼が【英雄】だろうか?
じっと見ているとテンユウ殿下が教えてくれた。
「彼方の騎乗している者が【英雄】です」
やはりそうだった。
鎧のせいで大きく見えるのかなとも思ったけど、それだけじゃないようだ。
顔が判別できない程度の距離はあるが、近付いてくれば元の体格もしっかりしていることが分かった。
けれども、重要なのは外見ではない。
中身だ。
ちらりと師団長様に視線を向けると、師団長様は顎に手を添えて【英雄】を観察していた。
そして次の瞬間、小さな声で唱えた。
「『鑑定』」
突然の魔法に私を含めた周囲の人間が一斉にギョッと師団長様を見た。
ここで魔法を使うなんて聞いていない!
しかし、ことを起こした本人は涼しい顔のまま、同じように何度か鑑定魔法を使った。
え、えぇ~~~?
「ありがとうございます。用事は済みました」
「ドレヴェス殿、今のは?」
呆然としている間に、師団長様は用件を終えたようだ。
師団長様はテンユウ殿下にお礼を言ったけど、テンユウ殿下はそれどころではなさそうだ。
困惑した表情を隠すこともなく、師団長様に問い掛けた。
この様子を見るに、テンユウ殿下も師団長様がこの場で魔法を使うことを聞いていなかったのだろう。
「鑑定魔法です」
「それは分かりましたが……」
「取り敢えず、閲覧室で話しましょうか」
端的に答えた師団長様だったけど、聞きたいのはそこではない。
テンユウ殿下も同じだったらしく、尚も問い質そうとしていた。
けれども、師団長様は問い掛けを最後まで聞くことなく移動を促した。
そうして、その場から立ち去る私達の背中を一対の目が見ていたことには気付かなかった。
閲覧室に移動すると、師団長様はいつも陣取っている椅子に座った。
そんな師団長様の周りを各々が取り囲むように座る。
「それで、何故あの場で鑑定魔法を使われたのでしょうか?」
口火を切ったのはテンユウ殿下だ。
対して、師団長様は当然のことだという風に答えた。
「【英雄】殿を鑑定するためです」
「【英雄】殿を? 鑑定魔法は物の鑑定に使われる魔法だと思っていましたが……」
「えぇ。主に鑑定するのは物のことが多いですね。ですが、人の鑑定にも使えますよ」
「そのような話は初めて聞きました」
「人を鑑定できるようになるには、それなりのレベルが必要となりますから、話題に上がることが少ないのでしょう」
師団長様とテンユウ殿下の遣り取りを聞いていて思う。
テンユウ殿下は鑑定魔法で人物の鑑定ができることを知らなかったようだ。
スランタニア王国でも鑑定魔法を使える人は非常に限られている。
更に人物の鑑定ができる人となると、師団長様しかいない状況だ。
勤勉なテンユウ殿下すら、人物の鑑定ができることを知らなかったのだ。
魔法の研究があまり進んでいなそうなザイデラでは、人物の鑑定をできる人がいないのだろう。
「人を鑑定した場合、どのような情報を見ることができるのでしょうか?」
「生活魔法で自身のステータスを見ることができるのは御存じですか?」
「はい。我が国でもステータスを確認する魔法はよく使われています」
「鑑定魔法では、その魔法で確認できる情報を見ることができます」
「他者のをですか?」
「はい」
興味深いことだったのか、テンユウ殿下は続けて鑑定魔法の詳細を師団長様に尋ねていた。
対して師団長様は、かつて私も聞いたことがある説明を返す。
「そうですか……。今回は盗難品の捜索魔法を開発するために【英雄】殿の姿を見たいというお話でしたが、彼のステータスを確認する必要があったのですか?」
「はい。もし【英雄】殿のステータスに特筆すべき点があるなら、その点を利用して魔法の開発が行えないかと思いまして」
「特筆すべき点ですか?」
「調べたところ、盗難された剣を下賜された【英雄】には、驚くべき逸話が残されておりまして」
「あぁ、その話は私も知っています」
「それらの話が事実ならば、ステータスにも何らかの特異点があるのではと考えたのです」
先日内輪で話したことを、差し障りない程度に師団長様が伝えた。
特筆すべき点か……。
心当たりはある。
私で言えば、ステータスに表示される職業と聖属性魔法のレベルだ。
けれども、師団長様は私のステータスを見たことはないので、そのことは知らないはず。
……。
知らないよね?
ということは、野性の勘か。
いやいや、黒い沼の浄化で得た経験を元に論理的に考えて辿り着いただけだろう。
そう思いたい。
「なるほど……。それで、いかがでしたか?」
「残念ながら、これといった特異点は見受けられませんでした。ご協力いただいたのに申し訳ありません」
「いえ。こちらも迷惑を掛けていますから、気にしないでください。何か他にも手伝えることがありましたら遠慮なく声を掛けてください」
「ありがとうございます」
内心で冷や汗をかいている間にも話は進んでいた。
聞こえてくる話から推測するに、【英雄】殿のステータスを見ることはできたようだ。
ただ、特筆すべき点はなかったらしい。
もしも【英雄】殿のステータスに【英雄】とか【剣聖】とか表示されていたら、師団長様なら指摘しそうだ。
言わないってことは、表示された職業は一般的なものだったということか。
話の区切りが付いたところで、テンユウ殿下は結果を聞けて満足したのか、閲覧室を後にした。
テンユウ殿下を見送った後、元いた椅子に再度座ると、団長さんが師団長様に問い掛けた。
「それで、本当に特異点はなかったのか?」
「ありませんでした。強いて上げるなら基礎レベルが少々高かったですね」
「いくつだ?」
「50レベルです」
師団長様の回答に、団長さんの眉間に少し皺が寄った。
何を思ったのか正確には分からないけど、少なくとも驚きはありそうだ。
だって、スランタニア王国の騎士さん達の基礎レベルは30台が多く、団長クラスでも40台だと聞いている。
もっとも、黒い沼を浄化する旅で一緒に行った人達のレベルは上がっていそうだけどね。
私だって55から58まで上がったし。
「他の兵士達のレベルは?」
「先程見た者達は30台と40台前半でしたね」
「そうか……」
何度か鑑定魔法を使っていたのは、あの場にいた兵士さん達のステータスも確認するためだったようだ。
確かに、【英雄】殿の特異点を見つけるためには、比較対象が必要よね。
話を聞いた団長さんは何か考え込んでいるけど、聞いた感じではスランタニア王国の騎士さん達と強さは変わらなそうだ。
そう考えると、その中で基礎レベルが50というのはかなり高い方じゃないかしら?
師団長様も出会った当初は45レベル位だったしね。
「セイ様は何か気になることがありますか?」
団長さんとの会話が途切れたところで、師団長様は私に話し掛けた。
何で私に?
怪訝な表情を浮かべると、師団長様はニッコリと微笑んだ。
「セイ様なら何か心当たりがあるかと思いまして」
「心当たりですか?」
「はい。以前、ステータスを確認されることを殊の外遠慮されておられたので」
「うっ……!」
声を潜めて返された内容に、思わず口籠もる。
えぇ、その通りですね。
だって、一目瞭然ですから。
何てったって、職業欄に燦然と【聖女】って記載されてるもの。
「見ればすぐ分かるような事柄が表示されているのではありませんか?」
「えぇっと……」
そっと目を逸らすけど、今日は中々逃がしてもらえない。
うーん、どうしよう。
一連の黒い沼の浄化で、私が【聖女】だという事実は揺るぎないものとなった。
この状況でステータスについて隠し通すのは今更な気もする。
とはいえ、聖属性魔法のレベルについては公表するとどこかの師団長様が興奮して手が付けられなくなりそうな気がしなくもない。
なら、職業についてだけ話そうか。
職業だけなら、もう問題にはならない気がするし。
「そうですね、職業に表示されますね」
小声で告げると、周りから息を呑む音が聞こえた。
今まで固く口を閉ざしていた私が遂に話したことに驚いたのだろうか?
珍しく、団長さんも口を開き掛けたまま呆然としている。
それとも、口が重い私を慮って師団長様を止めようとしてくれたところだったのか?
分からないけど、団長さんなら後者なような気がした。
「それは、はっきりと記載されているということでしょうか?」
「えぇ。くっきりはっきり記載されてます」
流石と言うべきか、真っ先に意識を戻したのは師団長様だ。
変わらず小声のまま、詳細を確認してきたので頷いて返すと、情報を咀嚼するように顎に手を添えて考え込んでいた。
時々頷いているところを見ると、満足のいく答えだったようだ。
「では、尚のこと【英雄】殿は普通の人と変わりなさそうですね」
「基礎レベルが高いだけということか」
「はい。ただ、少し気になることもありますので、もう少し調べたいと思います」
「気になること? それは鑑定魔法では分からないことか」
「えぇ。詳細についてはカイル殿下も交えて話しましょう」
「分かった」
考えが纏まったのか、師団長様が口を開いた。
団長さんとの遣り取りを聞くに、今回の鑑定だけでは魔法の開発のきっかけは得られなかったようだ。
けれども、調べたいことがまだあるらしい。
一体何だろう?
気になったけど、師団長様はここで話を続けるつもりはないようだ。
今日の皇宮での調査はここまでとなり、私達は使節団へと戻った。
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