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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
193/205

舞台裏26-2_優先するのは

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

(護衛として共に立たれていたのは確か騎士団の団長だ。第二か第三騎士団のだったか……)



 テンシャクと共に使節団を訪れた際には紹介を受けなかったが、応接室の中に立っていた騎士の中に見知った者がいることにテンユウは気付いた。

 目に付いたのは、スランタニア王国で第三騎士団の団長だと紹介を受けたアルベルトだ。

 先日訪れるまでの間に使節団では姿を見た覚えがなかったことから、ユーリと共にザイデラに来たのだと考えられた。

 事実、その通りだ。


 アルベルトもまたユーリと同様に、魔物の討伐においてはスランタニア王国内で屈指の実力を持っているとテンユウは聞いたことがあった。

 ユーリに続き二人目の実力者の来訪に、テンユウの疑念は益々高まる。



(実力者二人の来訪……。もしかして、ドレヴェス殿達の来訪も父上の(はかりごと)で引き起こされた?)



 テンユウの予想は当たらずとも遠からず。

 皇帝が直接命令した訳ではないが、テンシャクが動く原因となったのは間違いではない。

 点と点が繋がるように思い浮かぶ考えに、テンユウの表情が沈鬱なものに変わる。



(そうなると、彼女も巻き込まれたことになるのか……)



 使節団で再会した懐かしい顔。

 ザイデラの民とよく似た黒髪黒目の彼女――セイの姿を思い浮かべるとテンユウは悔いるように口元を引き締めた。


 テンユウに万能薬を齎したのは国王だが、国王が動くきっかけとなったのはセイだとテンユウは確信していた。

 根拠は、国王からの申し出以前にテンユウが母親のための薬を探しているのを伝えたスランタニア王国側の人間はセイしかいなかったからだ。


 薬を探していることを広めたくはなかったが、たとえセイが国王に報告していたとしてもテンユウにセイを責めるつもりはない。

 セイに口止めをしたことはなく、またセイが薬用植物研究所の研究員であることを考慮すれば、上司に報告したとしても仕方がないことだと考えていた。


 むしろセイには感謝していた。

 万能薬を手に入れるきっかけになったこともだが、それ以上に母親のために親身になって相談に乗ってくれたことが嬉しかったのだ。

 故にスランタニア王国の国王以上に、セイに恩義を感じていた。


 そんなセイも、今まで使節団では見掛けなかったことから、ユーリ達と共にザイデラを訪れたのだと考えられた。

 母親の薬について相談していた際に、ユーリと同じようにセイもザイデラ固有の薬用植物やポーションのレシピに興味を見せていた。

 そのことから、ザイデラの薬用植物について調べるために新たな人員として派遣されたのだとも思えた。

 しかし、テンシャクとテンユウが使節団を訪れた際に議事録を取っていたところを思い返すと、純粋に研究のためだけにザイデラに来たようには思えなかった。

 ユーリやアルベルトの来訪が何かしらの計略で引き起こされたものならば、セイも巻き込まれて来たのではないか?

 テンユウには、そう感じられたのだ。


 最も感謝していたセイに迷惑を掛けてしまった事実は、テンユウを酷く落ち込ませた。

 しかし、落ち込んでばかりもいられない。

 迷惑を掛けてしまったのなら、挽回しなければいけない。

 決意新たに、テンユウは再び考えを巡らす。



(父上の目的は何だろう? 万能薬だけが目的だとするには、あのとき問い質されなかったことに違和感がある。万能薬ではないとすると……)



 万能薬が欲しいのなら、献上した際に入手先について根掘り葉掘り聞かれたはずだ。

 けれども、色々と聞きたそうな側近達の様子に反し、皇帝は入手した経緯等を深掘りする様子を見せなかった。

 万能薬の話を聞いた最初こそ驚いた表情を見せたが、その後は静かな表情でテンユウの話す言葉に頷くだけだったのだ。

 その熱量を感じさせなかった皇帝の様子が、万能薬が目的だとすることに引っ掛かりを感じさせた。



(まさか、兄上も継承戦に参加されるのか?)



 考えた末に思い付いた事柄に、テンユウは眉間に皺を寄せた。


 謀略が交錯する後宮で生き残るために、テンユウは積極的に情報を集めていた。

 集めていた中でも、皇位継承に関する噂は最も注意を払うものだ。

 何故なら、順位が低いとはいえテンユウも皇位継承権を持っており、争いに巻き込まれて命を落とす可能性が高かったからだ。


 そんなテンユウの耳にもここ最近の不穏な噂は届いていた。

 第四皇子が亡くなってから落ち着いていた皇位継承争いが、再燃しだしたという噂だ。

 目下、争っているのは第一皇子陣営と第二皇子陣営だ。


 しかし、どちらの皇子が皇帝となっても国が乱れるだろうと、テンユウもテンシャクと同様に考えていた。

 では、他に皇帝に相応しい皇子はいるのか?


 考えたときに真っ先に思い付いたのは、後ろ盾が強く、真面目な性格をしていると言われるテンシャクだった。

 恐らく父もその考えに至ったのだろう。

 テンユウはそう考えた。



(兄上を皇位に就けるなら、確かに万能薬は手っ取り早い力になる)



 テンシャクが皇位継承争いに参戦したことを前提に考えると、今までバラバラだった事柄が次々と結び付いていく。

 そして、テンシャクがユーリに興味を持った理由にも思い当たった。



(だけど、万能薬には限りがある。それで師団長殿に目を付けたのか……)



 万能薬はテンシャクが皇帝となるための強力な武器となる。

 けれども、作り方が失われているとされている以上、入手できても数に限りがあると思われた。

 ならば、万能薬よりも他国の優れた武力であるユーリを引き抜く方が長期に亘って影響力を持つことができる。

 故に、テンシャクもユーリを取り込む方に力を入れることにしたのだろうとテンユウは考えた。



(いい考えではあるけど、スタンタニア王国側からすると歓迎できない話だな)



 ザイデラのことを考えれば、テンシャクが皇帝になることは良いことだ。

 しかし、そのためにユーリが引き抜かれるのはスランタニア王国からすると悪いことなのは間違いない。

 引き抜きを発端として両国の関係が悪化するのは目に見えている。

 それはテンユウの望むところではない。



(目的が果たされるまで兄上が止まることはないだろう。なら、第三の手を考えて献策するしかないか?)



 伝え聞くテンシャクの性格を考慮すると、皇位継承が確定するまでテンシャクがユーリを諦めることはなさそうだ。

 諦めてもらうには、より良い方法を提示するしかない。

 テンユウはそう考えたが、そう簡単に良い方法は思い付くものではなかった。



(兄上に変な言質を取られないよう、まずは使節団の援助をしよう。下手を打てば、師団長殿だけでなくセイにも目を付けられかねない)



 時間が掛かりそうな献策のことは一旦脇に置き、テンユウは頭を切り替えた。

 当面の課題は、ユーリが引き抜かれないように立ち回ることだ。

 ユーリだけではなく、アルベルトとセイの引き抜きにも気を配らなければならない。


 未だテンシャクには知られてはいないが、アルベルトも実力者、それもザイデラでは魔道師より重きを置かれる騎士だ。

 テンユウは知らないが、その実力はザイデラでも最上位に食い込める。


 セイもまた薬用植物研究所に所属しており、ポーションの研究に従事している。

 テンユウに協力して状態異常回復用のポーションを研究していたと知られれば、万能薬を欲しているテンシャクのことだ、ユーリと同様に自陣営への引き入れを目論むだろう。

 再会した嬉しさに思わず声を掛けてしまったが、あれは失敗だったとテンユウは悔いた。


 三人をどうやって守っていくか。

 使節団と協力体制を敷くことを視野に入れて、テンユウはこれからの作戦を練るのだった。

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