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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
182/205

153 お手伝い

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

 インク改め、墨の工房に行った日の夜。

 札屋に行ったときと同様に、報告会が開かれた。

 何の報告会かって?

 もちろん、手紙の差出人の目的に結び付く動きがなかったかの報告会だ。


 例によって例の如く。

 残念ながら、期待していた動きは見当たらなかった。

 膠着状態を打開すべく再びお屋敷の外に出たものの、収穫は(ゼロ)だ。

 あったのは、元からの監視の目ばかり。


 何故、動きがないんだろう?

 もしかして、元からの監視の中に差出人もいたりするんだろうか?

 見ているだけで他の動きがないのは、相手も必要な情報を得られていないからかしら?

 要は、未だ動くときではないってこと?

 気になることが増えるばかりで、解決に至る道は未だ見えなかった。


 出国制限も相変わらず続く中、手紙に関する状況は変わらず。

 毎度外出を提言していた師団長様も、新しい玩具――墨の材料――を手に入れたからか、部屋に籠もって出てこない。

 こうなると、私も無理に外出するようなことはなく、再びお屋敷に籠もることになった。


 そうして、自室で書物を眺める日々を送っていると、師団長様に呼び出された。

 何やら手伝って欲しいことがあるらしい。

 内容は知らされなかったんだけど、何を手伝うのかしら?

 一緒について来てくれたザーラさんと首を傾げながら、指定された部屋に向かった。


 部屋に入って最初に目に付いたのは、大量の荷物だ。

 本やら大量の紙の束やら、何が入っているのか分からない木箱等、数多くの物が置かれていた。

 特筆すべきは、部屋の中央に置かれた大きなテーブルの上に置いてある物だろう。


 テーブルの中央から右側には色とりどりの粉が入った小瓶、液体が入った瓶、水に浸けられた(にかわ)、水差しと大小の鍋が置かれていた。

 鍋の隣に置かれている箱は何だろう?

 五徳っぽい物が備え付けられているから、コンロかしら?

 箱はともかく、その他の物は先日行った工房に置いてあった物達にそっくりだ。



「お呼び立てしてしまい申し訳ありません」

「いえ、構いません。部屋で本を読んでいるだけでしたし」



 机の上に置かれている物に目を奪われていると、師団長様に声を掛けられた。

 視線を外して、師団長様の方を向けば、麗しい笑みが出迎えてくれる。


 前回、引きこもっていた部屋から出てきたときよりも健康そうだ。

 何てったって、目の下にクマがない。

 少し疲れている感じはするものの、その美貌に陰りは見えなかった。



「手伝いが必要だと伺ったのですが、何をお手伝いすればいいんですか?」

「実験を行うので、その補助をしていただきたいのです」

「実験?」

「はい。札を作ってみようかと思いまして」



 どうやら師団長様は自分でお札を作りたいらしい。

 手伝うのは構わないのだけど、何を手伝えばいいんだろう?

 疑問に思ったことを確認すれば、インクを大量に消費するかもしれないので、インク作りをして欲しいと言われた。

 師団長様は、お札作りに集中したいらしい。


 インク作りと聞いて、視線がテーブルの上へと引き寄せられた。

 置いてあるのは、工房で見掛けた墨の材料だ。


 工房で説明を受けた師団長様も、墨とインクの違いは分かっているはずだ。

 それなのに、先程からずっとインクだと言い続けているのは何でだろう?

 混同している訳ではないわよね?



「インクですか? 墨ではなくて?」

「はい。作っていただきたいのはインクです」



 気になったので尋ねると、作るのはインクで合っていると言う。

 どういうことかと更に聞いてみたところ、ここ数日の研究成果が披露された。


 墨作りで最も重要な工程は、材料の塊を練りながら魔力を付与する工程だけど、最も重要な材料は鉱物の粉末らしい。

 この鉱物に付与されている魔力と、お札に描かれた模様がセットで、魔法付与の核と同じ効果を発揮するのだとか。

 膠は紙に鉱物を接着させるために使われているだけだそうだ。


 これらのことを考慮して、師団長様は墨が固体である必要はないのではと考えた。

 墨は保存しやすくするためか、一度乾燥させて固化させる。

 そのため、使う際には水を加えて硯で磨る必要があった。


 しかし、すぐ使うのであれば、固化させる必要はないのではないか?

 そこに着目した師団長様は、固化させない墨、所謂墨汁を自作し、試した。

 結果として、墨汁でも問題なくお札を作ることができたそうだ。



「それで墨ではなく、インクと仰ってたんですね」

「はい。作るのは液状の物ですからね」



 師団長様は固体の物は墨、液体の物はインクとして覚えたようだ。

 墨汁じゃないかと思うものの、今呼び方にこだわる必要はないだろう。

 そう思って、師団長様の言葉に頷いた。


 話が一区切りしたところで、次はインクの作り方についての説明が始まった。

 お札用のインクを試作する過程で、作り方も確立したらしい。


 鉱物の粉末と溶かした膠を、魔力を注ぎながら混ぜ合わせる。

 これだけ。


 非常にシンプルな作り方だけど、問題もある。

 作り置きが難しいため、大量に作っておくことができないらしい。

 そのため、私が呼ばれたようだ。



「それでは、始めましょうか。まずはこの辺りから行きましょう」



 師団長様の掛け声で、インク作りが始まった。


 数ある小瓶の中から師団長様が選んだのは、支援系の魔法付与を行う際に使われる鉱物の粉末が入った物だ。

 魔法付与を行うときと同様に、作れるインクの種類も作業者が持つ属性魔法スキルに依存するらしい。

 聖属性魔法スキルしか持たない私は、支援系の効果があるお札を作る際に使われるインクしか作れないそうだ。


 説明しながら、師団長様は鉱物の粉末を小皿に少し取り出し、そこに液体の入った瓶の中身を一匙入れた。

 瓶に入っている液体は膠を溶かした物らしい。

 膠はすぐには溶けないので、予め用意しておいたのだそうだ。

 足りなくなりそうなら、固形の膠も用意してあるので、追加で作るよう指示された。 


 小皿に入れた材料を指で練り合わせる。

 ここに魔力を注ぐのだけど、この魔力が曲者だった。

 インク作りの際に注ぐ魔力は、明確に聖属性の魔力でないといけなかったのだ。



「んー?」

「いかがされました?」

「何だか手応えを感じなくて。きちんと注げているんでしょうか?」

「注げてはいますが、聖属性の魔力ではありませんね」



 材料を練りながら魔力を注ぐも、魔法付与のときのように出来上がったという手応えを感じられなかった。

 これで合ってるのかと疑問に思っていると、師団長様にバッサリと切り捨てられた。

 ポーション作りのときと同じように魔力を注いでいたのだけど、聖属性の魔力ではなかったらしい。


 詳しく話を聞くと、聖属性の魔力は意識しないと注げないもののようだった。

 これは魔法付与を行うときと同じらしい。

 とはいえ、魔法付与を行うときに聖属性の魔力を注ごうと意識したことはないんだけどね。

 多分、核に魔力を照射する際に付与する効果を思い浮かべていたから、自然とできていたのだろう。

 ポーションを作るときと魔法付与を行うときとで注ぐ魔力が異なるなんて、初めて知ったわ。


 手応えはなかったけど、失敗したということで、今使っている材料は廃棄し、新たな材料で再挑戦した。

 今度はちゃんと聖属性の魔力が付与できるよう、イメージしながら魔力を注いだ。

 すると、指先が一瞬だけ仄かな熱を帯び、すぐに収まった。



「できました?」

「『鑑定』。今度はできましたね」



 小皿から指を離して覗き込むと、師団長様が鑑定魔法を使って確認してくれた。

 今度は問題なくインクが作れたようだ。



「では、セイ様はこの調子でインクを作っていただけますか?」

「分かりました」



 私がインクを作り上げたところを見届けて、師団長様は作り終わったインクを片手にテーブルの反対側へと移動した。

 テーブルの中央から左側に置かれているのは、何冊もの書物と、お札作りに必要な紙や筆等だ。

 師団長様は椅子に座って、書物を広げた。

 それを横目に、私もインク作りを再開したのだった。

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