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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
180/205

151 ダダ漏れ

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

 与えられた部屋の中、机に向かい紙に書き綴るのは、今日聞いたお札のことだ。

 忘れる前に纏めてしまおうと、覚えている話を書き並べていると、部屋の外から声を掛けられた。

 同じく部屋の中にいたザーラさんが対応に向かう。


 戻って来たザーラさん曰く、夕食の準備が整ったそうだ。

 もうそんな時間か。

 気付けば結構な時間が経っていたようだ。

 肩を揉みながら立ち上がると、ザーラさんと連れ立って、食堂へ向かった。


 食堂には団長さんと師団長様に加え、カイル殿下がいた。

 入り口でザーラさんと別れ、私だけが中に入る。

 ザーラさんはオスカーさんやメイさんと一緒に別室で食べるそうだ。


 団長さんが引いてくれた椅子に座ると、全員が座ったのを合図に食事が運ばれてきた。

 今日はスランタニア王国の料理のようだ。

 このところ中華っぽい料理が続いていたので、気分が変わって、ちょっと嬉しい。


 食事をしながら話題に上るのは、今日行った札屋の話だ。

 カイル殿下も行ったことがあるようで、熱心に話す師団長様に的確な相槌を打っていた。

 食事の間は、そういった軽い話題で終始した。

 本題に入ったのは、食後のお茶が出されてからだった。



「それでは、そちらは何も問題なかったと」

「はい。見張りが付いていたくらいです」



 今日の外出先での報告を、団長さんが代表して(おこな)った。

 お屋敷を出てから戻るまで、私達は見張られていたようだ。

 馬車の中で話していた、師団長様達が感じた視線というのが、それなのだろう。


 見張りが付いているだけでも不審だと思うのだけど、団長さん達の感覚からすると、そうでもないようだ。

 カイル殿下の話によると、ザイデラに来てからは使節団もずっと見張られているらしいので、外国人への見張りというのは標準装備なのかもしれない。

 一緒にしてしまうのは問題がありそうだけど、テンユウ殿下がスランタニア王国に来たときにも見張りは付いていたしね。



「見張りは主にセイ様以外の者に注目していたようです」

「セイ様以外? 何故だ?」

「共に行った者の話では、容姿がザイデラの者に近いからではないかと」

「ふむ……。現地の者に間違えられたか?」

「その可能性はあります」



 ザーラさんが気付いた点についても報告された。

 私が注目を浴びなかったのは、容姿が現地の人に埋没しているからという説が有力だ。

 理由を告げられて、カイル殿下も何となく想像できたみたいね。



「こちらでは何か動きがありましたか?」

「あぁ。監視とは別に、中の様子を調べようとしていた者がいたらしい」



 うん? これは物騒な話なのかしら?

 カイル殿下は何でもないことのように話しているから、緊急事態ではなさそうだけど。

 不思議そうな顔をしていたからか、私の方を見たカイル殿下が補足してくれた。


 調べようとしていたと言っても、ちょっと話を聞きに来た人がいた程度のことらしい。

 日頃から出入りしている商会の人間を装って、お屋敷に勤めている人達から話を聞き出そうとした人がいたそうだ。


 聞き出そうとしていたのは、当然、私達のことだった。

 と言っても、特定の人物や万能薬について聞いて来た訳ではないらしい。

 新しく人が増えたみたいだねとか、どんな人だとか、そういう世間話のような質問だ。

 そして、この程度のことは日常茶飯事だそうだ。


 そういう訳で、今日の収穫は特になかった。

 まぁ、こういうことは一日で成果が出ることは稀なので、しばらく様子を見ようということで報告会は終わった。






 それから数日間は、変わり映えのない日が続いた。

 出国制限は相変わらず続いていて、手続きは止まったまま。

 当初聞いていた通り、制限の対象となるエリアは更に広がっていた。


 この間に、制限が掛けられた理由が判明した。

 引き続き情報収集に当たってくれていたテンユウ殿下から、カイル殿下に連絡があったそうだ。


 原因は、やはり盗難事件だった。

 制限が解除されていないということは、未だに盗まれた物は見つかっていないのだろう。


 手紙の差出人についても、これといった情報は得られていない。

 使節団周辺も普段通りの監視が付いているだけだ。

 結局、あの手紙はどういった意図で出されたのかしら?

 何事もない日が続く中、再び気になってきたところで、師団長様が動いた。



「そろそろまた情報収集に動きませんか?」



 朝食の場で、師団長様は突然宣言した。

 師団長様と顔を合わせたのは数日ぶりだ。

 このところ姿を見なかったのは、師団長様が部屋に引きこもっていたせいだ。

 札屋で購入した大量のお札やインクを調べていたようで、自室から出てこなかったのよね。


 妙に色気が増しているように見えるのは、何でだろう?

 ちょっと退廃的な雰囲気があるからかしら?

 よく見ると目の下にうっすらとクマが見える。

 そういえば、ここ数日、師団長様の部屋は夜通し明かりがついているって誰かが言ってたわね。

 なるほど、寝不足か。



「動くというのは?」

「前回と同様に外に出て、周囲がどう動くのかを確認しようかと。相手の動きもないことですしね」



 師団長様の言う通り、手紙に関する追加の情報は得られていない。

 使節団の人達が頑張っても情報が得られないということから、高位の貴族が関わってそうだなんて推測をしていたくらいだ。


 私達があまり外に出ていないのも関係あるかもしれない。

 相手も私達の情報を得ようとしているけど、隙がないからできないって感じで、膠着状態に陥っているのかもしれないわね。

 先日、雑談していたときに、オスカーさんがそんなことを言っていた。


 師団長様もオスカーさんと同じように考えたのかもしれない。

 だから、動こうって言い出したんだと思う。

 もっとも、理由はそれだけではないと思うけど。



「出掛けるって、また札屋っすか?」

「今回は札に使うインクを作っているところに行こうかと思っています」



 パンを割りながらオスカーさんが行き先を聞いた。

 札屋を選択したあたり、オスカーさんも師団長様のことがよく分かっている。

 ただ、返ってきた答えは予期せぬものだったようだ。

 師団長様の返事を聞いて、うっかり藪を突いて蛇を出してしまったというような表情をしていた。


 それにしても、今回向かうのは札屋ではないらしい。

 何故、前回と違う場所に行くのか?

 何となく想像は付いたけど、試しに聞いてみた。

 建前が返ってくるかと思ったら、本音が返ってきた。


 ここ数日部屋に籠もっていたのは、やはりお札に関して調べていたかららしい。

 調べる過程で、お札に使われているインクの原料と、魔法付与に使われる核に同じ物があることに気付いたそうだ。



「同じ物ってことは、インクの原料は鉱物なんですか?」

「はい。それ以外の物も含まれているようですけどね」

「鉱物以外の物って何ですか?」

「他には(にかわ)が主な原材料のようですね。それ以外にもあるのですが、どういった物かが読み取れなくて」

「それでインクを見に行きたいと?」

「はい。インクを作っている工房に行けば、何が使われているか分かるでしょう?」

「それはそうですが……」



 師団長様の言う通り、工房に行けばどんな材料が使われているか分かるだろう。

 けれども、部外者に教えてもらえるものなのかしら?

 そういうのって秘密にされてそうだけど……。


 思うところはあるものの、師団長様の言葉にも一理あった。

 手紙の差出人の目的が分からないまま放置するのは問題だということは、団長さんもカイル殿下も認めるところだ。

 このまま(いたず)らに時間を消費するのは勿体ないということも理解できる。


 私としても出国制限がいつ解除されるか分からない中、目的不明のまま過ごすのは落ち着かない。

 それに、師団長様程ではないと思うけど、私も漠然と時間を消費していくのは勿体ないなと思ってしまう方だ。

 だから、つい動きたくなる気持ちも分かった。


 それぞれ意見はあったようだけど、協議の結果、今回も師団長様の案が採用された。

 そして、前回同様、安全を確保した上でインクの工房へと向かうことになった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


お陰様で、小説9巻が3月10日に刊行されることになりました。

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ご興味のある方は是非、お手に取っていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。


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