148 出国制限
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※本編147話の終わりに修正が入っております。
※お手数をおかけしますが、お時間があるときにでも読み直していただければ幸いです。
使節団の下へと着いた翌日。
移動疲れからか、普段起きる時間よりもかなり遅く目が覚めた。
そのため朝食と兼ねて昼食を摂ることになった。
ブランチというやつだ。
食堂にはザイデラ様式の大きな円卓が置かれ、皆が同じ卓で食事を摂ることになった。
ここでは無礼講ということで、団長さんと師団長様だけでなく、オスカーさんにザーラさん、メイさんも一緒だ。
その食事の場で、団長さんから予想だにしなかった話がもたらされた。
「出国できない?」
「あぁ。昼前に連絡があった」
団長さんから詳しい話を聞いたところ、どうやら私達が入国してきた港町で船の出入りが制限されているらしい。
カイル殿下の指示で、私達と一緒に来た文官さんが今朝から帰国の手続きを始めたのだけど、その最中に制限が掛けられた話が耳に入ったのだとか。
慌てて報告に来てくれたのが昼前のことだったそうだ。
制限がいつから始まったのかや、いつまでなのか等の詳しい情報はまだ入手できていないらしく、現在情報収集のために色々な人が動き回っているという話だ。
「カイル殿下の姿が見えないのも、そのせいですか?」
「そうだ。カイル殿下を中心に、使節団でも情報を集めてくれている」
私と一緒に来た人達だけでなく、元からいた使節団の人達も問題の解決に当たってくれているようだ。
元々は一緒に食事を摂る予定だったカイル殿下が不在なのも、そのせいみたいね。
何だか迷惑を掛けてしまって申し訳ない。
私が来ていなければ、ここまで大きな問題にはなっていなかっただろう。
心苦しく思うものの、私達が国に戻れないのは結構な問題であることは事実。
だから、現地の伝手も増えただろうカイル殿下が尽力してくれるのは、ありがたかった。
現地の伝手があった方が、早く解決できるだろうしね。
「早く出国できるようになるといいですね」
出国制限の理由が分からないので、制限が解除されるまで、どれくらい時間が掛かるかも不透明だ。
不安はあるけど、私にできることはない。
ザイデラの本は今晩には届けてくれるという話なので、大人しくそれを読んで待っていようと思った。
「私としては手紙の方が早く解決してほしいですねぇ」
どんな本が来るか考えを巡らせていると、師団長様がのんびりと口を開いた。
私と同じように、昼前に目覚めたらしい。
まだ少し眠そうにしている。
「手紙ですか?」
「はい。手紙が送られてきた目的が明らかになれば、私も動けるかと思いまして」
「どういうことですか?」
目的が分かったら、どうして師団長様が動けるようになるのかしら?
話の経緯が見えない。
魔法の講義では分かりやすく説明してくれるのに、今日は色々と端折られているようだ。
まだ眠そうにしているし、寝ぼけているのかもしれない。
尋ねて見れば簡単な話だった。
手紙の内容から推測するに、差出人の目的は万能薬か、回復魔法を使える人間の可能性が高い。
可能性が低いところでは、万能薬を作れる人も候補に入る。
これらのうち、万能薬が目的であるのなら、私達がお屋敷に引きこもる必要はなくなるため、市街散策ができるのではないかという話だった。
「万能薬が本命だとしても、お屋敷から出るのは難しいんじゃないですか?」
「そのための護衛ですよ。私とセイ様が離れなければいいだけの話でしょう」
「待て。私も行く」
「あぁ。……、二人体制が必須でしたね。失礼しました」
そうそう上手く行くものだろうか?
妙なことを企んでいる人がいるのであれば、外出は許されなさそうだけど。
そう口にすると、師団長様はしれっと護衛の話題を上げた。
すかさず団長さんが口を挟んだけど、内容はそれでいいのかしら?
そこは止めるべきじゃないでしょうか?
「それよりも、目的が分かったからと言って、許可が下りるとは限らないぞ」
良かった。
団長さんはちゃんと考えてくれていた。
ほっとしたのも束の間。
やはり師団長様が止まるはずもなかった。
「目的が万能薬なら、当初の予定通りに行動しても問題はないと思いますけどね。セイ様も散策したいでしょう?」
「えっ? いや、まぁ……」
したいかしたくないかで問われると、もちろんしたいけど、正直に答えるのは気が引けた。
だから言い淀んだものの、師団長様は気にならなかったようだ。
パンッと両手を合わせると、艶やかに微笑んだ。
「ふふふ、楽しみですねぇ。市街散策。色々と探したい物があるのです」
師団長様の心は既に市街散策へと飛んでいるようだった。
ウキウキと語られた言葉を聞いて、ふと引っかかりを覚えた。
色々?
てっきりお米の入手だけが目的かと思いきや、そうではないようだ。
「色々って、米だけじゃないんですか?」
「えぇ!」
同じ疑問をオスカーさんも抱いたようで、師団長様に尋ねていた。
元気良く頷いた師団長様を見て、珍しくオスカーさんの口元が引き攣ったように見えた。
「どの道、まだ行けるか分からないんだ。今はここに待機だ」
「仕方ありませんね」
オスカーさんを慮った訳ではないだろうけど、師団長様を宥めるように団長さんが口を挟んだ。
そこで漸く落ち着いてくれたようで、師団長様は残念そうに肩を竦めた。
「ドレヴェス師団長って……」
「メイ」
「はい」
そんな師団長様を見て、メイさんが何かを言い掛けたけど、ザーラさんが遮った。
いつも通りの柔らかな声だったけど、どことなく圧を感じる。
名前を呼ばれたメイさんも感じ取ったのだろう。
メイさんは神妙な顔で口を噤んだ。
食事の後は特にすることもなかったので、体力回復のためにのんびりと過ごしていた。
与えられた部屋で、使節団の人達から貰った市街の簡易な地図を眺める。
外出できなくても、地図を見て、あれこれ想像するのは楽しい。
もし行けるとしたら、どこに行こうかなんて考えていると、カイル殿下から一報が入ったと連絡を受けた。
連絡を届けてくれたのは団長さんだ。
カイル殿下はテンユウ殿下の所へ出掛けているらしい。
スランタニア王国に留学に来ていた関係で、テンユウ殿下は何かと使節団のことを気に掛けてくれているそうだ。
そのため、ザイデラに来たカイル殿下とも知り合ったのだとか。
もっとも、テンユウ殿下はあくまで外野だ。
使節団のための窓口は他にあり、普段はそちらの人達と遣り取りしているのだとか。
しかし、今回は事が事だけにテンユウ殿下のもとを訪ねたようだ。
「どうも制限が掛けられたのは急な話で、テンユウ殿下もカイル殿下から聞いて初めて知ったらしい」
「では、まだ詳しいことは何も分からないんですね」
団長さんの話では、カイル殿下から話を聞いたテンユウ殿下も情報収集に当たってくれることになったそうだ。
カイル殿下はテンユウ殿下の所に残っているそうで、もう少し情報が集まってから戻ってくるという話だった。
またカイル殿下からは、夕食までに戻れるか分からないので、食事は先に摂ってほしいという伝言もあったのだとか。
「物凄く迷惑を掛けてしまっていますね……」
「気にするな、と言っても難しいかもしれないが、セイが悪い訳ではない」
スランタニア王国では既に成人しているとはいえ、カイル殿下はまだ十代後半のはずだ。
それ程若い彼が夜遅くまで働く気でいることに、罪悪感が刺激される。
やっぱり来るべきじゃなかったかなと反省していると、団長さんが慰めてくれた。
「そうだ。カイル殿下が仰っていた本もそろそろ届く頃だ。届いたらすぐに持ってこよう」
「ありがとうございます」
しょんぼりとしていたからだろうか?
団長さんは本のことを口にした。
出国制限の情報収集に並行して、本も集めてくれていたようだ。
あまり気に病んでいても、周りに心配を掛けるだけか。
これ以上心配を掛けてしまうのも本意ではないので、気持ちを切り替えて、お礼を伝えた。
そうして話している所に、本も届いた。
使節団の人が私達の所に本を持ってきてくれたので、ありがたく受け取る。
届けられたのは植物図鑑、薬草図鑑、毒草図鑑等、等。
ポーションに関する本もあって、沈んでいた気分が浮上した。
そんな私の様子を見て、団長さんが安堵していたことには気付かなかった。
部屋に戻ってから届けられた本に目を通していると、あっという間に夕食の時間となった。
伝言にあった通り、カイル殿下は夕食の時間には間に合わなかったようだ。
夕食は恒例となった六人で済ませた。
そうして、食事が終わる頃にカイル殿下が戻ってきた。
事態は少しだけ進展を見せたようだった。
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