142 報告会
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王宮の一角、気の置けない友人とのお茶会と言えばここ、と言えるほど定番の場所となった庭園のガゼボで、本日も女子会が開催されていた。
「本当にびっくりしたわよ。全然知らなかったもの」
「ごめんなさいね。内々に進められていたものですから」
「そうなんだ。じゃあ、アイラちゃんも知らなかったんだ」
「いえ。私は先輩達が噂しているのを聞いて、何となくそうなるのかなって思っていました」
始まってすぐに話題に上がったのは、レイン殿下とリズとのことだ。
祝勝会での二人の婚約発表は、私にとっては寝耳に水の出来事だったけど、アイラちゃんは知っていたらしい。
先輩達というのは、宮廷魔道師さん達のことだろう。
宮廷魔道師団で噂になっていたと言うのなら、貴族の間では既知の話だったのかもしれない。
あそこは貴族が多いからね。
薬用植物研究所にも、もちろん貴族はいる。
けれども、研究所で話題に上るのは薬草やポーションのことばかりで、社交に関しての話って、あまりしないのよね。
私だけが世間に疎い訳ではないと思いたい。
「もしかして、結構前から話が進んでた感じ?」
「えぇ。最近、環境が整いまして。ちょうど祝勝会が開催されるから、そのときに発表しましょうという話になりましたの」
「私と同じ流れだったのね」
「あら、セイもでしたの?」
「うん。大体同じ感じ」
考えてみれば、リズと第一王子であるカイル殿下との婚約が解消された頃から、レイン殿下との婚約は計画されていたのかもしれない。
婉曲的に確認してみれば、リズが頷く。
環境が整ったというのは、根回しをしていたということなんだろう。
そして、発表できる段階になったところで、折りしも祝勝会の企画が上がったという訳だ。
この流れ、私のときと同じだわ。
しかし、何故リズとカイル殿下との婚約が解消されたのだろうか?
ふと疑問が浮かんだけど、この疑問については確認することはなかった。
何となく理由が予測できたのと、もしその予測が正しいとしたら、尋ねても教えてはもらえないだろうと思ったからだ。
例えば、婚約解消の理由がカイル殿下の王位継承権がなくなったとかで、継承権を失った理由が【聖女】に不敬を働いたからだったとしたら?
多分、当事者である私には伝えないだろうと思うのよね。
私が気に病みそうだからという理由で。
リズは、そういう気遣いをする子だ。
「リズは祝勝会と兼ねちゃって良かったの? 普通は、きちんと婚約披露宴を開くものだって聞いたけど」
「問題ありませんわ。王族の婚約は、毎年開催される王家主催の夜会で発表されるのが一般的ですから」
「そうなんだ」
「何度も夜会を開くより、纏めてしまった方が手間も経費も省けますしね」
「もうリズったら」
以前から進められていた話ならば、婚約発表を祝勝会とは別に行うこともできたはず。
元の世界では婚約披露宴なんてなかったから、私は特に思い入れはなかったけど、リズは思い入れがあったんじゃないか?
何か他の話をしようと考えたときに、ふと思い付いた疑問を口にすると、リズは微笑みながら首を横に振った。
続けて口にしたのは、コストが削減できるからなんて妙に現実的な理由。
冗談めかして話してるけど、それが主な理由じゃないよね?
違うと思いたい。
「セイこそ、よろしかったんですの? セイなら個別に開いても問題はなかったと思いますけど」
「むしろありがたかったかな。私の後見も王家がしてくれているし、それに何度も夜会に出るのも面倒だもの」
今度はリズから、私の方こそ良かったのかと問い返されたけど、それこそ問題ない。
気の置けない友人しかいないこともあって、正直に答えると、鈴を転がすような笑い声が上がった。
「婚約が発表されましたし、これからは結婚式の準備をするんですか?」
「そうなるのかな?」
一通り笑った後、アイラちゃんがワクワクした顔で尋ねてきた。
婚約披露宴は終わったから、次は結婚式の準備に入るんだろうとは思うけど、周りから聞いていないだけで、他にも何かあるかもしれない。
質問に答えながらリズの方を見遣れば、思っていたことが伝わったのか、リズが答えてくれた。
「そうですわね。私も来年の春に結婚式を挙げる予定ですから、もう準備には取り掛かっていますわね」
「早くない!?」
来年の春のいつかは知らないけど、最短でも一年近く時間がある。
それなのに既に準備に取り掛かっていると言われて、思わずツッコむと、リズから呆れを含んだ視線が返される。
「何を仰っていますの? 会場の準備に、招待する方の調整や、衣装を作るのにも時間が掛かりますのよ?」
「それ、全部自分で決めないといけないのね……」
結婚式の準備なんてやったことがないので、どれくらい大変なのかはよく分からない。
けれども、何となく大変そうなのは理解できる。
会場の準備と一口に言っても、決めなければいけないことは多々あるはずだ。
元の世界では王族の結婚式となれば、国内外から多くの人が招待されていたけど、この世界でも似たようなものだろう。
それら大勢の人のスケジュールを調整するのは、日本の職場で複数部署の飲み会の幹事をやったとき以上に大変なことくらい想像できる。
衣装を作るのは……、正直なところ、よく分からない。
デザインを始めとした大凡のことは、いつもマリーさん達にお任せだしね。
私がすることと言えば、採寸と仮縫いの際に呼ばれて、付き合うことくらいだ。
でも、一日、二日でオーダーメイドのドレスが作れるとは思えないし、きっとそれなりの時間が掛かるのだろう。
しかも、今回作るのはウェディングドレスだ。
こちらの世界でも、女性にとっては憧れのドレスなので、今までのように全てお任せするということはできなさそうだ。
きっと、どのような物がいいか、あれやこれやと確認されるんじゃないかな?
とはいえ、聞かれたとしても答えられなさそうだけど。
日本にいたときは恋愛方面の事柄に縁がなかったこともあり、自分の結婚について考えたことはなかったから、ウェディングドレスや結婚式についても、こうしたいという希望を思い浮かべたこともなかったしね。
ちょっと面倒だけど、聞かれたときのために、今のうちに多少は要望を捻り出しておいた方がいいかな?
今後のことを考えて、少しげんなりとしていると、リズがクスクスと笑い声を上げた。
「一人で全て決める必要はありませんわ。私も周りに手伝っていただいていますもの」
「そうなの?」
「えぇ。ドレスのデザインや会場の設えについても助言をいただいておりますし、招待客については家と付き合いのある方もお呼びしますから、相談は必須ですわね」
「なるほどね」
完璧令嬢のリズでさえ周りに手伝ってもらっているという言葉を聞いて、少しだけ肩の荷が下りる。
そうよね。
ドレスと同じように、会場や招待客についても相談すればいいのよね。
それに「家と付き合いがある」という言葉で気付いたけど、結婚式は私だけのものではない。
団長さんにも関係あるものだ。
となると、ホーク家の方々とも相談した方が良さそうだ。
その後もリズから結婚式の話を聞きつつ、今後の予定を頭の中で描いた。
そして楽しい女子会の翌日、早速団長さんに相談しようと思っていたら、思わぬ事態が発生した。