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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
169/205

141 発表

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

 ホーク家の皆さんとの顔合わせから少しして、王宮に呼び出されることが増えた。

 婚約にあたって、ホーク家との細かい遣り取りは国王陛下と宰相様が取り仕切ってくれるものの、私がしなければいけない作業もあったためだ。

 主なものは婚約に関する契約書へのサインだ。

 サインするからには契約書の内容もきちんと読まなければいけないため、時間が掛かった。


 予想以上に契約書の枚数が多かったのよね。

 それというのも商会や、商会で取り扱っている化粧品等についても、権利の所在をはっきりさせるためにホーク家と契約と取り交わす必要があったためだ。

 元々、私が持っていた権利だから、特に契約を交わさなくても大丈夫という訳にはいかなかったらしい。

 この辺りは、この国の法律が関わってくるらしいので仕方がない。


 一応、一通り目は通した。

 けれども、途中、非常に疲れていた時間帯に目を通した契約書に関しては、流し読みになってしまっていたのは秘密だ。

 日頃から良くしてくれる陛下と宰相様が用意してくれた契約書だ。

 変な内容の物はなかったはずだと、あの二人を信じたいと思う。


 そうやって、薬用植物研究所の仕事の合間に婚約に関する作業を進めていると、王宮から夜会の招待状が届いた。

 陛下が話していた、異常発生していた瘴気の問題が解決したことをお祝いする夜会だ。

 またの名を【聖女】の婚約披露会とも言う。

 当然、瘴気の問題を解決した中心人物で、婚約の披露も行う私に欠席の権利はない。


 例によって例の如く、【聖女】である私が夜会の会場へ入る順番は陛下と同時だ。

 陛下の後に続いて扉を潜ると、少し間を開けて会場がさざめいた。

 大きな声ではなかったけど、こういう場面で声が上がったことに、一定数の人達に動揺が走ったのがよく分かる。

 周りが驚いている理由に心当たりがあるせいで、思わず苦笑いを浮かべそうになったけど、脳裏にマナーの先生の怒った顔が浮かび、頑張って澄まし顔を維持した。



「魔物の氾濫が問題となり始めてから何年も経ったが、【聖女】殿の活躍により、最近では魔物の発生が落ち着いてきたことを皆も実感していることだろう」



 会場よりも一段高いところで陛下が話し始めると、驚いていた人達も口を(つぐ)んだ。

 陛下の口から語られたのは、先頃、最後の黒い沼の浄化が終わり、全国的に魔物の発生状況が通常時に戻ったことを確認したという話だ。

 最初に行ったクラウスナー領から始まり、要所での私の活躍も語られたけど、恥ずかしいので割愛する。



「ここに氾濫の終息を宣言する」



 陛下が言葉を切ると、会場中から一斉に拍手が沸き起こった。

 誰もが嬉しそうな笑みを浮かべているのを見ていると、遠征で各地に赴いたときのことが思い起こされる。

 初めて会った領主様達は表面上は笑顔だったけど、目の奥に険しさがあったり、縋るような眼差しだったりと、どことなく緊迫した雰囲気を帯びていることが多かった。

 しかし、今目の前にいる人達が纏っているのは純粋な喜び一色だ。

 ここに至るまで色々と大変なこともあったけど、こうして皆が喜べるようになった一助となれたのなら、苦労が報われた気がした。


 会場の人達の様子を見ながら、ほっこりしていると、拍手が落ち着いたところで再び陛下が口を開いた。



「今日は、もう一つ喜ばしい話がある」



 陛下の一言で、喜びの声で騒めいていた会場が一瞬にして静まり返り、一部の視線が私の方へと向けられる。

 視線の圧力と、ピンと張り詰めた空気に少し息苦しさを感じた。



「先日、【聖女】殿の婚約が整った。相手は第三騎士団団長のアルベルト・ホークだ」



 私の斜め後ろに控えていた団長さんは、一歩前に出て、私の隣に並ぶと、会場に向かってお辞儀した。

 普段であれば陛下と同じ壇上に団長さんが上がることはない。

 会場に入ったときに声が上がったのは、そんな団長さんが私の後ろから現れたからだろう。

 けれども、今日は特別だ。

 なんてたって、陛下が告げた通り、私のお、お相手、なの、だから……。


 そして、声が上がった理由はもう一つある。

 それは私の格好だ。


 今着ている服は夜会に相応しいドレスで、いつも通り、王宮が用意してくれた物である。

 スランタニア王国では、婚約者ができた後は社交の際に着るドレスやアクセサリー等は男性側が用意する物らしい。

 しかし、今回はドレスを一から作るには十分な時間がなかったため、予め王宮が用意していたドレスを着ることになったのだ。


 団長さんとお義母(かあ)様は自分達で用意できないことを非常に残念がっていた。

 その代わりに、アクセサリーはホーク家が代々受け継いできた、由緒ある物を着けることになったんだけどね。

 なくさないか、とても、とてーも心配だけど、お義母様の懇願には逆らえなかった。


 お義母様から貸してもらったのは、ブルーグレーの透明な石をメインとした、イヤリングとネックレス、それからブレスレットのセットだ。

 メインの石の周りには沢山の無色透明な石が飾られているんだけど、これやっぱりダイヤモンドかしら?

 博物館でしか、お目に掛かれないような代物であるのは間違いない。


 翻って、王宮側が用意してくれたドレスは、顔合わせの際に着ていた物と同じように薄いシフォン生地が幾重にも重ねられた物だった。

 夜会で着るのに相応しく、顔合わせのときのドレスよりは多くのレースや刺繍が施されているので、あちらよりも華やかだ。

 更に加えて言うなら、色はブルーグレーを基調としている。

 そう、ドレスもアクセサリーもホーク家の特徴である、団長さんの瞳の色と同じ色なのだ。


 加えて言うなら、スランタニア王国では、社交の際に婚約者がお互いの髪や瞳の色の服やアクセサリーを身に纏うのは一般的なことだ。

 ここまで言えば、会場に入った途端に声が上がった理由が分かるだろうか?

 今日の私の格好は、全身で団長さんの婚約者であることをアピールしているのである。

 入場前に王宮の部屋まで迎えに来てくれた団長さんが目を瞠って固まったほどの勢いでのアピールだ。

 しかも、その後、蕩けるような笑顔をいただいてしまったほどのね……。


 ドレスもアクセサリーもとても素敵で、恐れ多い気持ちもあるけど、身に付けられるのが嬉しくない訳ではない。

 団長さんに褒めてもらえたのも嬉しい。

 けれども、恥ずかしくないかと問われると……。

 クッ……!



「そして……」



 入場前からのことを思い出し、心の中で悶えていると、陛下が続けて何かを告げようとしていることに気付いた。

 あれ?

 今日は魔物の氾濫の終息宣言と、私の婚約を発表する場だったはずだ。

 他にも何かを発表するという話は聞いていない。

 何か緊急に話さなければいけないことでもできたのかしら?

 不思議に思って、陛下の方を向くと、続いた言葉に目が点になった。



「第二王子レインの婚約も整った。相手はアシュレイ家のエリザベスだ」



 陛下が言い終わった途端に、私の入場のとき以上の大きなどよめきが起こった。

 私だけでなく、多くの人にとっても予想外の発表だったようだ。


 いや、それよりも、レイン殿下のお相手って、アシュレイ家のエリザベス?

 エリザベス・アシュレイ?

 え?

 もしかして、リズ!?!?


 レイン殿下のお相手が親友であることが漸く理解でき、慌てて会場の方へ視線を向けてリズの姿を探す。

 すると、二人はすぐに見つかった。

 なんてことはない。

 壇のすぐ下に、いつの間にか二人揃って並んでいたのだ。


 陛下の言葉を受けたからか、会場にいる人達に向かって二人がお辞儀をすると、どこからともなく拍手が起こった。

 始めは数人だけだったが、徐々に会場中へと広がる。

 そして、周りからの祝福を受けた二人は顔を見合わせると、幸せそうに微笑んだ。

 私はというと、予想外のことに、ただただ呆然として二人を見詰めたのだった。


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