139 恋愛:Lv.4
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団長さんと出掛けることになった日は、雲一つない青空が広がった。
公園といえども社交場に出掛けるということで、今日の格好は貴族らしいドレスだ。
それでも外での、で、デートなので、あまり華美ではない動きやすい物を、いつも着替えを手伝ってくれる侍女さん達に選んでもらった。
今日のお出掛けは、何故だか夕方からということで、きっと寒くなるだろうという助言により、縁に毛皮が付いているコートも羽織っている。
団長さんの方も心得たものだ。
約束の時間に、研究所の玄関に回してくれた馬車は目立つ物ではないけど、一目で貴族が乗る馬車だと分かる上質な物だった。
馬車から降りてきた団長さんの服装も、以前王都に行ったときとは異なり、貴族だと分かる華やかな刺繍が施された物だ。
イケメンというのは何を着ても似合うらしいけど、今日は予想以上だ。
貴族らしい格好をしている団長さんは、当社比1.5倍の眩しさを感じる。
遠目には見ることができても、近くでは恥ずかしくて直視できない。
馬車に乗る際にエスコートしてもらうときには、足元を見るふりをして視線を外して乗り切った。
公園は王都の中心地に近くにあった。
社交場というだけあって、馬車の発着場には他の貴族の馬車も沢山停まっている。
馬車を降りて周りを見回せば、他にも貴族らしい人達の姿が見えた。
ただ、時間が時間だからか、私達とは違って、これから帰るところのようだった。
「行こうか」
「はい」
団長さんにエスコートされたまま、公園内に足を踏み入れる。
貴族の人達が散歩に使うというだけあって、中は歩きやすいように整備されていた。
道は草が抜かれて丁寧に平され、側には綺麗に刈り込みをされた低木が植えられていた。
木が等間隔に植えられた並木道や、アクセントとして芝生が植えられている所もあった。
寒い季節にもかかわらず、色とりどりの花が植えてある花壇もあったわね。
王宮の庭園とはまた違った景色を楽しみながら、団長さんと庭の感想を言い合う。
春や夏のような花が盛りの季節ではないけど、冬の庭も中々の物だ。
そうして、奥へと進んでいくと、黒い鉄柵が目に入った。
側に守衛が立っている門らしき物もあるし、公園の端だろうか?
でも、鉄柵の向こうは森のように鬱蒼と木が茂っているから、端ではなさそうなのよね。
疑問に思っている間にも、団長さんは守衛さんの方へと足を進める。
「アルベルト・ホークだ」
「お伺いしております」
団長さんが名乗ると、守衛さんが門を開けてくれた。
ニッコリと微笑む守衛さんに軽く会釈をして、団長さんに連れられて門を潜った。
「閉じられていたようですけど、この先に何かあるんですか?」
「あぁ。鉄柵のこちら側は王家だけが使える場所なんだ」
「えっ!? そうなんですか?」
「セイのために、今回は許可を貰ったんだ」
「私のため!?」
聞いてびっくり。
鉄柵に囲まれたエリアは、王家専用の場所だった。
何でも、王家主催のパーティーの会場として使われたりするんだとか。
王宮にも庭園はあるけど、こちらはまた風情が違うから、いいらしい。
そういうものなのか。
納得できたような、できないような、微妙な感じがするけど、それよりも大事なことがある。
私のためというのは、どういうことだろうか?
もしかして、このデートのために国王陛下に許可を貰ったってこと?
こんな、ちょっとした私用に使わせてもらえるような場所なの?
まだまだ疑問は尽きなかったけど、森が途切れ、開けた視界に映った光景に、考えているどころではなくなった。
「わぁ!」
何これ、すごい!
歓声を上げてしまうくらい、幻想的な光景が目の前に広がった。
そこには何といえばいいのだろう、氷景色(?)が広がっていたのだ。
元からある木立は、氷漬けされた物へと変わり、沈み行く太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
いや、待って。
太陽だけじゃない。
よくよく見れば、所々枝から光る物も見える。
あの色の光って、もしかして魔法付与した核!?
え? 何で、そんな物が木に付けられてるの!?
つい最近、劇場で見た光と同じような色の光が木々の所々で輝いているのを見つけて、呆然とする。
どういうことなの?
目を丸くしていると、隣に立つ団長さんが解説してくれた。
「前にセイから聞いた話を再現してみたんだが、どうだろうか?」
「……もしかして、イルミネーションのことですか?」
「そうだ」
前に聞いた話という言葉と目の前の言葉から記憶を引っ張り出す。
いつだったか、団長さんに元の世界の話をしていたときに、イルミネーションの話をしたことがあったような気がする。
クリスマスのイルミネーションだったか。
確か、そうだ。
冬の寒い時期に毎年飾られるという話をした覚えがある。
「覚えててくださったんですか?」
「あぁ。こういう物だと思ったんだが、違っただろうか?」
「いいえ……。こんな感じです」
「良かった。毎年見ていたようだったから、こちらでも楽しんでもらえたらと思って用意したんだ」
「そうだったんですね。ありがとうございます。とても綺麗です」
用意したって……、この氷漬けの木は団長さんが作ったんだろうか?
団長さんは氷属性魔法が使えるから、あり得る。
何なら、核への魔法付与も自分で行っていそうだ。
とても手間がかかっている光景を、忘れないように目に刻む。
そして、改めてお礼を伝えようと団長さんの方を向くと、何故だが右手を取られた。
何かしら?
真意を問おうと見上げると、真剣な表情の団長さんと目が合った。
私の右手を両手で包むように掴んで、団長さんが口を開く。
「君が好きだ。どうか、私と結婚して欲しい」
団長さんの告白に、息が詰まった。
け、結婚?
いや、その前に、好きだって?
え? 団長さんが、私のことを?
随分と自分に都合のいい言葉が聞こえたような気がしたけど、空耳じゃないわよね?
確認するように団長さんの顔を注視しても、緊張を孕んだ真面目な表情のままだ。
瞳の奥にも、揶揄うような色はない。
本当に、今、私は、団長さんから告白をされてしまったのだろうか?
信じられない思いで見詰めていると、団長さんはそのままの姿勢で口を開いた。
「本当は、もっとゆっくり距離を詰めるつもりだったんだ」
「もっと、ゆっくり?」
「あぁ。セイはあまりこういうことには慣れていなさそうだったから」
団長さんの言葉に、思い当たることが沢山あり、ほんのりと頬が熱くなる。
はい、慣れていません。
思い返せば、手の甲にキスをされたり、頬に手を寄せられたり、あれらの揶揄うような行動は、実際には私がどの程度慣れているかを確認していたのだろうか?
ぼんやりと、どうでもいいことを考えていると、団長さんは表情を曇らせた。
「だが、ゆっくりもしていられなくなった。私の他にも、セイのことを狙う者が増えて来たから」
「それって……」
「ドレヴェス師団長との話を聞いて、落ち着いていられなくなった」
「あ……」
「君を他の者に取られたくなかった」
師団長様の名前が出て、やはり知られていたのだと呆然としてしまう。
けれども、心配していたようなことにはならなかった。
あの噂はかえって団長さんの競争心を煽ったらしい。
そのことに、不謹慎にもホッとしてしまう。
「もちろん、セイの気持ちを無視するつもりはない。だが、もし嫌でないのなら、私の手を取ってもらえないだろうか? 一生、大事にするから」
団長さんの真剣な目に見詰められて、足元からじわじわと何かが迫り上がってくる気がした。
嬉しい。
すごく嬉しい。
すぐにでも頷いてしまいそうだ。
けれども、自信のない私が顔を覗かせた。
「私でも、いいんですか?」
震える声で問いかけると、団長さんは力強い声で返してくれた。
「君がいい」
嬉しさからだろうか?
視界がじわじわと滲む。
喉も震えて、とても声を出せそうにない。
返事の代わりに、私の手を包む団長さんの手を握り返せば、団長さんはきちんと受け止めてくれた。
団長さんはパッと破顔すると、私を腕の中に引き入れ、ギュッと抱きしめる。
私も団長さんの背に腕を回し、そっと抱きしめ返した。