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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
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舞台裏20 謀の香り

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

 セイと宮廷魔道師団の師団長であるユーリが共に観劇に行ってから数日後。

 薬用植物研究所の所長であるヨハンの耳に、ある噂が届いた。

 社交界から遠ざかっているヨハンの耳に入るくらいだ。

 今、最も社交界を賑わせている噂であることは間違いない。


 その噂は、セイに関する物だった。

 セイと宮廷魔道師団の師団長であるユーリが急接近している。

 そんな噂が囁かれるようになったのは、数日前にセイが王都で公演されている劇を観に行ったことが発端だ。

 ユーリに誘われて、共に行った劇場で、セイとユーリが歓談している姿を目にした者達は、二人の仲についてあれこれと憶測を飛ばした。

 それに尾鰭が付いたものが噂として広まったのだ。


 単純に仲が良さげだったというものから、婚約まで秒読みではないかというものまで、広まっている噂の内容は幅広い。

 共通しているのは、セイとユーリは親密だという部分だ。


 それらの噂を耳にしたとき、ヨハンは「やっぱり、こうなったか」と思った。

 セイからユーリと観劇に行くという話を聞いたときに、こういう噂が出るだろうとヨハンは予想していたのだ。



(侯爵があの(・・)ドレヴェス殿に劇のチケットを譲ったってところから、不自然だったからな……)



 薬用植物研究所の所掌室で書類を書きながら、ヨハンは心の中で独言る。

 先程王宮の廊下で耳にした噂が呼び水となって思い返したのは、セイから劇を観に行くと聞いたときのことだ。

 家族が行けなくなってチケットが余っているからという理由で、ユーリから観劇に誘われた。

 そう聞いたヨハンが真っ先に抱いたのは、胡散臭いという疑心だ。


 ユーリは魔法にしか興味がなく、魔法が関係しない事柄には極力時間を使おうとしない。

 自由に魔法の研究を行うために必要な、宮廷魔道師団の師団長という地位に付属する書類仕事すら副師団長に押し付けるくらいだ。

 家族からチケットを譲られたからという理由だけで、観劇に行くような人物ではない。


 また、ドレヴェス侯爵は感情に流されることなく、効率を重視する合理的な人間として知られている。

 決して、王都で人気の劇のボックス席というプラチナチケットを無駄に消費するような人物ではない。


 けれども、ドレヴェス侯爵はチケットを無駄にする可能性が高いユーリにチケットを渡し、劇場には行きそうもないユーリがセイを観劇に誘った。

 可能性が低いことが二度も重なると、そこに何らかの思惑があるのではないかと疑ってしまうのも仕方がないことだろう。

 そして、ヨハンが思い浮かべたドレヴェス侯爵の思惑というのが、セイとユーリの噂を広めることだった。



(やはり侯爵はセイとドレヴェス殿を結婚させたいようだな)



 ドレヴェス侯爵が噂を広めた理由は、噂を広めることで引き起こされる事態を考えれば想像に容易い。


 セイは【聖女】という国王に並ぶ地位に就いていることもあり、結婚相手は王宮で吟味される。

 これは貴族の令嬢の結婚相手を親が吟味するのと同じだ。

 

 ただ、セイの場合は、セイの気持ちが最優先とされているため、セイと仲が良いかどうかが大きな指標となっている。

 当然、セイと親密であると噂になれば、結婚相手のリストの上位に名前が挙がるようになるだろう。

 実際に、現在リストの最上位にいる、第三騎士団の団長のアルベルトがそうだ。

 恐らく、ドレヴェス侯爵はアルベルトのときと同じように事を運ぼうとしているのだと、ヨハンは考えた。


 ユーリも養子とはいえ侯爵家の者であり、家柄は悪くない。

 宮廷魔道師団のトップである師団長の役職にも就いている。

 セイと年齢も近く、これで仲も良いとなれば、リストの最上位に躍り出ても、おかしくはない。



(まぁ、噂は噂に過ぎないがな。セイもその気はないようだし)



 もっとも、たとえユーリがリストの上位に躍り出たとしても、アルベルトの優位は変わらないだろうとヨハンは考えていた。

 何せ、セイが恋愛対象として意識しているのはアルベルト唯一人。

 セイからはっきりとしたことを聞いたことはないが、セイのアルベルトと彼以外に対する態度を見ていれば、そのことがよく理解できた。


 それに、観劇のときの顛末を、ヨハンはセイから聞いていた。

 周りから親密そうに見えても、セイとユーリの間には何も芽生えていないし、婚約の話も出てはいない。

 あくまで、周りが好き勝手に言っているだけだ。


 それでも、友人が噂を聞いてどういう心境でいるのかが気になった。



「すまない」

「お呼びでしょうか?」



 取り掛かっていた書類の最後の一枚を書き終えたヨハンは大きく息を吐いた。

 出来上がった書類を届け先毎に纏めると、従僕を呼び、書類を各所へ届けるよう依頼した。



「そちらの書類は?」

「あぁ、これはいい。自分で届ける」

「かしこまりました」



 ヨハンの手元にあるのは第三騎士団へ届ける書類だ。

 普段であれば従僕に届けさせる書類だったが、従僕の問い掛けをヨハンは遮った。

 第三騎士団に行くついでに、アルベルトの様子を見てこようと思い、自身で届けることにしたのだ。

 重要な書類はヨハンが届けることもあるため、従僕は納得したようにヨハンの言葉に頷くと、そのまま所長室を後にする。

 従僕の背を見送った後、ヨハンも書類を手に持ち、席を立った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


「聖女の魔力は万能です」の小説8巻の発売日を無事に迎えることができました。

小説の帯に記載されていました通り、「聖女の魔力は万能です」のアニメ二期の制作が決定いたしました!!!

これも偏に、応援してくださった皆様のお陰です。

本当にありがとうございます。

二期を期待してくださった皆様に、嬉しいお知らせをお届けすることができて、ほっとしております。


アニメ公式サイトやカドカワBOOKS様の特設サイトでも情報が公開されております。

アニメ公式サイトにはお祝いコメントやイラストも掲載されておりますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。


・アニメ公式サイト

 https://seijyonomaryoku.jp/


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・カドカワBOOKS様の特設サイト

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