130 王都へ
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いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ごめんなさい、区切りの都合上、今回は少し短いです。
温泉、植物採集、市場調査に食べ歩き……。
こんなに遊んでいていいのだろうかと思うほど堪能した頃、ホーク領全域の魔物の調査が終わった。
魔物の湧きは無事に落ち着いたようだ。
おめでたい報告に皆が沸き上がり、改めてお祝いの宴が開かれた。
そして、宴が開かれた数日後、私達は王都へと戻ることになった。
「この度は本当にありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、色々と良くしてくださり、ありがとうございます」
王都に向かう馬車の前で、領主様と最後の挨拶をする。
領主様からは既に何度もお礼を言われている。
こう何度も頭を下げられてしまうと少々申し訳なく感じてしまうのは、日本人の性なのか。
未だに慣れないのよね。
穏やかな笑みを浮かべる領主様に、何とか笑顔を返しているけど、口元が引き攣っていないか心配だ。
「社交シーズンには私達も王都に行きますから、王都の屋敷にも遊びに来てくださると嬉しいわ」
「その頃には観光地化の草案もできていると思いますので、また御意見をいただければ」
領主様に続いて声を掛けてくれたのは領主夫人だ。
温泉から帰ってきた後も、領主夫人とはお茶をして、美容について語り合った。
温泉水から化粧品ができるという話ではかなり盛り上がったものの、残念ながらホーク領では作れそうにないことが分かった。
ホーク領で湧き出る温泉水は皮膚疾患には向かなかったのだ。
その代わりにと提案したのは、温泉が湧き出る村の開発についてだ。
以前、晩餐会でした話を領主夫人は覚えていたようで、故郷ではどのように利用されていたのかと訊ねられたのだ。
それに対して、日本にあったスーパー銭湯やスパの話をしたところ、領主夫人のテンションが鰻登りになった。
興奮する領主夫人を宥めながら、少しでも話題を逸らそうと、現在は領の兵士さん達だけが使っている温泉を、一般の人も使えるように施設を整えてはどうかと提案した。
兵士さん達には福利厚生の一つとして無料で、一般の人達からは使用料を取ればいいのではないか、なんてことも話した。
村で湧き出る温泉水は皮膚疾患には向かなかったけど、筋肉や関節の炎症や、呼吸器の治療に向いていたからね。
一般の人にも需要があるんじゃないかと思ったのよ。
そんな話をしていたら、領主夫人だけでなく領主様も興味を示したという訳だ。
そして、領主様にも訊ねられたので、日本にあった各種温泉施設の話をしたところ、領主様はあっという間にあの村を観光地化することを決めた。
流石と言うか何と言うか、決断はとても早かった。
「アル、貴方も偶にはいらっしゃい?」
「分かりました。王都に来られる際には連絡をください」
領主夫人からのお誘いに何て答えようかと考えている間に、話は団長さんのことへと移った。
親子らしい会話が何だか微笑ましい。
ほっこりとしながら眺めていると、私を王都の屋敷に招待する際には王宮を通すようにと、団長さんが領主夫妻に伝えてくれた。
私へのお茶会等への招待は王宮を通してもらっている。
貴族の派閥というか、家同士の関係に疎かった頃に、うっかり変な家からの招待を受けないように講じた対策だった。
最近は王宮での勉強も進んで、注意しなければいけない事柄も大分覚えたとは思うんだけどね。
お断りする場合に文面を考えたりするのが大変だから、止めることなく、そのままにしていたのだ。
ホーク家は先代に王女様が降嫁していて、王家とは近しい関係の家だ。
王宮に招待状が届けば、アシュレイ侯爵夫人からの招待状と同じく、恐らくそのまま私の所に届くと思う。
けれども、王宮を通さずに受けてしまってもいいのだろうかとも思ってしまって、先程のお誘いにどう答えたものか悩んでいたのだ。
そこに齎された団長さんのフォローは、非常にありがたかった。
私への招待状の送付先は王宮より各貴族家に通達されていたこともあり、領主夫妻は団長さんの言葉に分かっていると言うように頷いた。
「それでは、そろそろ行きます」
「えぇ。また会いましょう」
「タカナシ様、本当にありがとうございました。また王都でお目に掛かれることを楽しみにしております」
「はい。こちらこそ、ありがとうございます」
領主夫妻との話が一区切りついたところで、出立となった。
団長さんのエスコートで馬車に乗り込むと、一拍置いた後、馬車が動き出した。
窓から領主夫妻に軽く手を振った。
こうして黒い沼の浄化は終わり、【聖女】業は一区切りを迎えたのだった。