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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第一章
15/205

13 甘味

ブクマ&評価&感想ありがとうございます!


いつもありがとうございます&お待たせいたしました。

先週はお休みしてしまい、ごめんなさい。

ちょっと週末に急用が入ってしまい、その対応と書き直しで間に合いませんでした。


 所長室の扉をノックする。

 すぐに中から返事が返ってきたので、「失礼します」と挨拶をしてから中に入ると、所長は机で書類を読んでいた。



「すみません、ご相談があるんですけど、今お時間大丈夫ですか?」

「構わないが、何だ?」



 所長は書類から目を離し、こちらを向いてくれた。

 相談というのは、ちょっと欲しい物があり、それを取り寄せてもらえないかという話だ。



「こちらなんですけど、取り寄せることって可能でしょうか?」



 そう言いながら、所長にメモを渡す。

 その内容を読んだ所長は怪訝な顔した。

 それはそうよね。

 だって仕事には関係なさそうな物ばかりだもの。



「砂糖にはちみつ、あとレモンか、一体何に使うんだ?」

「お菓子を作ろうかと思いまして」

「菓子?」



 そう、メモに書かれているのはお菓子の材料。

 正直、こちらの世界に材料があるか心配だったけど、ジュードに確認したらちゃんとあったので、久しぶりに作ろうかと思ってね。

 学生だった頃は実家でしょっちゅう作ってたのよね。

 社会人になってからは、まったく作らなくなったのだけど。



「個人的に作ろうと思ってるので、費用はちゃんと出そうと思ってるんですけど、食堂用の食材と一緒に購入できないかなと思いまして」

「個人?お前だけで食べるのか?」



 今回作る予定の物は個人用のものなので、費用はちゃんと出すつもりだったのだけど、所長が引っかかったのはそこではなかったらしい。

 いや、自分だけで食べる予定ではないんですけどね。

 所長も食べたいんですか?

 そうですか。

 じゃあ、食堂の料理人さんにも手伝ってもらって、研究員達の分も作りましょうか。



「そうなると、材料がそのメモに書いてある分だけだと足らないですね」

「なら、必要な物を食堂用の食材の発注書に追加して持って来い」

「いいんですか?はちみつや砂糖なんかは高かったと思いますけど」

「費用なら大丈夫だ」

「私は自分の分しか出しませんよ?」

「誰がお前に払ってもらうと言った」

「まさか、研究費から……」

「そんなことある訳ないだろう」



 所長は呆れたように溜息を吐く。

 だって、はちみつや砂糖という甘味はこの世界では貴重な物でお値段も素敵だってジュードは言ってましたよ。

 そんな高級食材を、研究員達の分までとなると、それなりのお値段になると思うのよね。

 食堂で使える食材の予算ってのもあるだろうし、そっちに混ぜるのも無理だろうし、そうなると研究費からって考えてもおかしくないと思うんだけど。

 はっ!

 もしや所長の私財から?



「まぁ、そこは気にするな」



 材料購入費の出所を悩んでいた私の考えを見透かした様に、所長は苦笑すると、もう行けとでも言う様に、手をひらひらと振った。






 数日後、所長に頼んでいた材料は無事に届いた。

 休日に朝から厨房の片隅に陣取り、大量の材料を処理していく。

 もちろん研究員達の分まで一人で作るのは大変だったので、料理人さんと一緒に作った。

 以前、お菓子作りの話をしたときに、お菓子のレシピも是非教えてくださいと言われていたので丁度良かったかも。


 そうそう、食堂の料理人さんだけど、最初は一人だったのが、今では五人に増えた。

 五人全員がいつもいる感じじゃなくて、三人ずつローテーションが組まれているみたい。

 研究所の食堂が美味しいっていう噂が王宮の方にまで広がったらしくて、王宮の食堂から技術指導を受けるために派遣されてきたのよ。

 それもあって、朝から料理人さんと一緒にお菓子作りに精を出せたのよね。


 作ったのは簡単なクッキーと、はちみつとレモンのパウンドケーキ。

 レシピはうろ覚えだったけど、ちゃんと合ってたみたい。

 よかった、よかった。

 オーブンから出したパウンドケーキは、いい感じに焼けていた。

 丁度昼食の用意をしていた他の料理人さん達も一緒に試食したけど、好感触だったわ。

 オーブンからいい匂いが漂ってきてからというもの、昼食の準備をしていた料理人さん達ったらチラチラとこちらを様子見してたのよね。

 気になるようだったから、試食にお誘いしたという訳。

 試食の感触もばっちりだったので、残りを冷まして、小分けにし、バスケットに放り込んだら準備完了。

 所長や研究員達(やろうども)へ配るのは料理人さん達に任せて、私は目的の第三騎士団隊舎までレッツ・ゴー!






 うん、テンション高いって?

 高くしてないと、向かえなかったからよ。

 今日、第三騎士団隊舎に来たのは、とある用事のため。

 団長さんに髪留めのお礼を渡そうと思ったのよ。

 この前、ジュードに教えてもらってから、ずっと悩んでたんだけど、やっぱり貰い過ぎだと思うのよね。

 いくら相手が私にこ、好意を持っていたとしてもね。

 そんなところに丁度良く、この間の魔法付与で核が貰えたので、それを使ってプレゼント用にアクセサリーを作った。


 色々悩んだけど、作ったのはネックレス。

 指輪は剣を握るのに邪魔かなと思ったし、イヤリングやピアスは着けてなかった気がするし、ネックレスなら邪魔にならないかなと思って。

 形はこの世界で一般的かどうかは分からないけど、男性が着けてもおかしくない様、ドッグタグにした。

 真ん中に十字架(クロス)型に彫りを入れ、その真ん中に核を埋め込んだ形。

 我ながら無難なデザインだと思うわ。

 流石にアクセサリーは自分では作れなかったので外注した。

 お店は所長に紹介してもらったわ。

 物凄くニヤニヤされたけどさっ。

 それで、ネックレスだけを持って行くのが何となく恥ずかしかったので、クッキーとパウンドケーキも追加した。

 バスケットごと渡してしまえば、いいかなと思って。


 そして、到着したのは団長さんの執務室。

 入り口に立っている騎士さんに、不審者に間違われること無く、にこやかに微笑まれてスムーズに取り次いでもらえたわ。

 声をかける間もなく取り次がれるってどういうことなのかしら?

 研究所から早馬で先触れを出した記憶も無いのだけど。

 きっとあれね、いつもの団長さんとの乗馬がいけないのよね。

 あまり良くないと分かっているけど、断るに断れなくて、未だに誘われたら乗ってしまうからね。

 うぅ……。



「失礼します」



 入り口で心の準備をする間もなく、騎士さんに扉を開かれて中に入ると、いつも通り執務机で団長さんが書類仕事をしていた。

 騎士団といっても、討伐や訓練ばかりじゃなくて、上の人達は沢山の書類仕事もしないといけないみたいね。



「今日はどうした?」

「ちょっとお菓子を作ったのでお裾分けに来ました」



 予め用意していた言葉を言うと、途端に団長さんの表情が甘くなる。

 うん、ごめん、直視できない。

 何でかって?

 聞かないでちょうだいっ!


 持って来たバスケットを団長さんに渡すと、団長さんは中が見えないようバスケットの上にかけていたクロスを取り除き、中を見た。

 ぱっと見は小分けにされたクッキーとパウンドケーキしか入っていないように見える。

 実は隅の方にネックレスが入った箱が突っ込んであるんだけど、それはクッキーに埋もれさせて見えなくしてある。



「美味しそうだ。早速いただこう」



 中のクッキーとパウンドケーキを確認した団長さんはバスケットを持って立ち上がる。

 丁度仕事の合間だったのかな?

 お邪魔をしてしまったのでなければいいんだけど。

 さて、バスケットも無事渡せたし、私は帰るとしましょうか。

 そう思って、退出の挨拶をしようとすると、それに被せるように「良ければお茶を飲んでいかないか?」というお言葉をいただいた。

 いえ、その、中のネックレスに気付かれる前に帰りたいんですけど……。


 ………………。


 いい笑顔の団長さんの期待の眼差しには勝てませんでした……。


 諦めて、勧められるまま応接用のソファーに座る。

 …………。

 あの、何で隣に座るんですか?

 向かいにもソファーありますよね?

 三人掛けのソファーに座ったのが不味かったのか、団長さんが隣に座った。

 距離の近さに戸惑うが、居たたまれない感じが前より緩和されてるのは、やはり乗馬での距離感に慣れたせいかしら?

 慣れって怖い。

 何ていうか、最近どんどん逃げ場がなくなってる気がするわ。


 暫くするとお茶が運ばれてきて、ふわりと紅茶の香りが漂う。

 入り口で取り次いでくれた騎士さんが気を利かせて侍女さんに頼んでくれていたみたいね。

 目の前に置かれた琥珀色の液体は、こちらに来てからは中々飲めない高級品だ。

 一口飲むと、渋みが程良く、とても飲みやすかった。

 さすが王宮の紅茶。

 いい茶葉を使ってるよね。

 何故か侍女さんが取り分け用のお皿も持ってきてくれたので、バスケットの中からクッキーとパウンドケーキを取り出して団長さんに渡した。

 入り口の騎士さん、私がお菓子を持って来たことに気付いていたのだろうか?

 あぁ、匂いで気付いたのかな。



「甘い物はあまり得意ではないが、これは美味いな」

「ありがとうございます」



 団長さんは甘さ控えめのクッキーをことのほか気に入ってくれたらしく、一口食べると口元を綻ばせてくれた。

 やっぱり、こうして喜んでもらえると嬉しいよね。

 それを見て、釣られて私も微笑むと、こちらを見た団長さんの笑みも深くなった。

 イケメンの微笑みの攻撃力は高い。

 ちょっとだけ顔が熱くなるのを感じた。

 いかんいかん、直視はまずい。



「ところで、先程から気になっていたのだが……」



 一通り食べ終えて、紅茶を飲んでいたところ、団長さんがバスケットの中からネックレスの箱を取り出した。

 思わず咽せたが、紅茶を噴出さなかった私を誰か褒めて欲しい。

 ちょっ、隠してたのに何で気付くのっ!?



「魔法付与された物のようだが、これは?」

「えーっと……」



 視線を彷徨わせて、どう説明しようか考える。

 うーーーーー。

 駄目だ、思いつかない。

 ちらりと団長さんを見ると、どこか嬉しそうな期待した眼差しでこちらを見ていた。



「それも差し上げます。髪留めのお礼です」



 考えても埒が明かなかったので、正直に答えた。

 伝えたとたん、団長さんの笑みが更に濃くなり、「開けてもいいか?」と聞かれたので頷く。



「この間、宮廷魔道師団に行ったときに魔法付与を行ったんです。その時にその核を作ったんですけど……」



 黙って団長さんが箱を開けるのを待っているのが辛かったので、核を自分が作ったことを話した。

 団長さんはというと箱を開けて中を見た途端に、目を瞠った。



「核には魔法抵抗が上がる効果が付与されてます。討伐の時にでも使っていただければと思って」



 説明しながら、顔に熱が集まるのが分かる。

 恥ずかしくて、団長さんから視線を外し、明後日の方向を見ていたせいで気付くのが遅れた。

 右手に触れられる感触を感じて視線を戻すと、団長さんがその手を持ち上げるところだった。

 殊更にゆっくりとした動作でもないのに、スローモーションの様に感じた。

 団長さんの伏せられた睫毛を見て、長いなぁとか暢気に思ってたのは、間違いなく現実逃避。

 その後に感じた、持ち上げられた指先に感じる柔らかい感触。

 私の指先から唇を離した団長さんの熱っぽい視線。

 覚えているのはそこまで。

 その後、どうやって研究室まで帰ったのか、あまり記憶に無い。


おまけ。



 とある宮廷魔道師団にて。

 いつもの様に書類の決裁を行っていた銀髪の魔道師は提出された書類の内容に、眉間に皺を寄せる。

 書類に付けられた請求書の内訳は小麦、砂糖、はちみつ、レモン等、凡そ魔法とは関係の無い物ばかり。

 この様な書類を提出する馬鹿は何処のどいつだと提出者のサインを見ると、そこにあったのは魔道師団の者の名ではなく、薬用植物研究所の所長のものだった。

 訝しむ様に書類をよく見ると、領収書とは別にメモ書きが付けられおり、そこにはこう書かれていた。


『この間の魔法付与の代金、ちゃんと請求した方がいいか? ヨハン』


 言外に込められた意味にインテリ眼鏡様が深い溜息を吐いたのは言うまでもない。

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