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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
147/205

123 打ち上げ

ブクマ&評価ありがとうございます!

【聖女の術】は何もかもを浄化したようだ。

 光が収まった後に辺りを確認しても、アンデッドドラゴンも黒い沼もなくなっていた。

 無事に浄化できたことに胸を撫で下ろし、私達は鉱山村へと戻った。


 やはりというか、一つ目の沼を浄化したときにはまだ出ていたアンデッド系の魔物は、二つ目の沼とアンデッドドラゴンを浄化した後は出なくなった。

 鉱山の浄化は完了したと思うけど、確認は必要だ。

 念のため、領都にはすぐに戻らず、数日間は鉱山村へ滞在し、魔物の湧きが減ったことを確認することになった。


 確認に当たるのは、騎士さんや宮廷魔道師さん達だ。

 私は鉱山村でお留守番となった。

 ただ待つだけなのもどうかと思ったので、鉱山村周辺の植物を採ることに没頭した。

【聖女】でもあるけど、本業は薬用植物研究所の研究員。

 植物採集も立派な仕事だと思っている。


 植物の採集に勤しんでいる間、団長さんが護衛として一緒にいてくれることになった。

 最初は付き合わせてしまって申し訳ない気持ちで一杯だったんだけど、周囲を警戒しつつも楽しそうに話に付き合ってくれる団長さんの姿を見て、その気持ちも徐々に薄れていった。

 薬草のことや、ホーク領のことを話しながらの作業は、とても楽しかった。


 師団長様?

 師団長様は安定の魔物狩り……、もとい、他の人達と一緒に周辺の調査に赴いたわ。

 調査から帰ってくる度に、師団長様と他の人達との様子の違いが浮き彫りになっていったわね。

 他の人達は疲れた感じだったのに、師団長様はとっても元気だったもの。

 肌の艶も日々良くなっていったような気がする。


 そうして、確認に出た人達が皆、もう大丈夫だと太鼓判を押したところで、領都へと戻った。

 領都では領主様夫妻と屋敷の使用人の方々が出迎えてくれた。



「お帰りなさいませ」

「ただいま戻りました」



 領主様夫妻が私の方を見ていたこともあり、部隊を代表して出迎えの挨拶に簡単に答える。

 先に黒い沼の浄化完了の連絡が入っていたのか、お二人の表情は晴れやかだ。

 嬉しそうな二人の様子に、私の顔にも自然と笑みが浮かぶ。



「討伐に移動とお疲れのことでしょう。お部屋の準備は整っておりますから、まずはどうぞゆっくりお休みください」

「ありがとうございます」

「簡単ではございますが、夜は宴席も用意しております。是非お楽しみくださいませ」



 柔かな領主夫人の口から出た「宴席」という単語に、以前のような晩餐会が思い浮かぶ。

 準備を手伝ってくれる侍女さん達からはドレスを勧められるだろうか?

 あまり疲れてはいないけど、可能ならローブを着たい。

 ローブの方が楽だし。

 そんな風に考えていると、団長さんが口を開いた。



「宴会というのは、いつものですか?」

「えぇ、そうよ」



 団長さんの問い掛けに、領主夫人が頷く。

 いつもの、というのはどういうことだろうか?

 不思議に思いながら団長さんを見上げると、視線に気付いた団長さんが教えてくれた。


 ホーク領では大掛かりな討伐から兵士達が帰ってくると、毎回領主様の屋敷で宴会を催すらしい。

 宴会は兵士達を労うためのもので、身分にかかわらず討伐に参加した人全員が参加する無礼講のものなのだそうだ。


 出てくる料理は庶民が普段から食べているような気軽な物が多く並ぶのだとか。

 それって、領主夫妻との晩餐会のときに聞いた、チーズフォンデュやラクレットのことだろうか?

 何それ、食べたい!


 そんな風に考えていると、期待が表情に出たようだ。

 団長さんが小さく噴き出し、まずは屋敷の中に入るよう促される。

 領主様夫妻の方を見れば、お二人も微笑ましげにこちらを見ていた。

 領主様達にまで見られていたことが恥ずかしく、ほんのりと顔が熱くなる。

 うっ……、すみません、食い意地が張っていて……。

 心の中で謝罪しつつ、赤くなっているであろう顔を俯かせて、促されるままに、そそくさと屋敷の中へと移動した。






 宴は日が落ちて、外が暗くなり始めた頃に始まった。

 領主様の乾杯の挨拶と共に始まった宴は、聞いていた通り無礼講だった。

 何せ、領主様夫妻も挨拶が終わった後は騎士さん達に混ざって飲食していたくらいだ。

 当然、上長である団長さんや師団長様、そして私も同様。

 事前に聞いていたとはいえ、ここまで気を使わなくてもいいものだとは思わなかった。

 堅苦しくなく、純粋に料理が楽しめそうで、とてもありがたい。



「ん! 美味しい!」



 口にした料理が美味し過ぎて、思わず声を上げた。

 断面を火で炙って溶かした熱々のチーズが掛けられたジャガイモ、日本で言うところのラクレットなのだけど、こんなに美味しいとは思わなかった。

 チーズが違うのかしら?

 美味し過ぎて、考えている間にも料理を口に運ぶ手が止まらない。



「これはワインが進みますね」

「分かります」

「気に入ってもらえたようで良かった」



 隣に座る師団長様はワインを飲む手が止まらないようだ。

 ほんのりと頬を染めて微笑む姿は、壮絶に艶っぽい。

 相変わらずの顔面凶器っぷりだ。


 ワインが進むと言う意見には賛成だ。

 酔い過ぎてはいけないとは思うのだけど、私もおかわりをしたくて仕方がない。

 そんな私達の話を聞いて、団長さんが柔かに微笑む。



「こちらもお勧めですよ」

「「「「「おー!!!」」」」」



 後ろから声を掛けられたので振り向くと、恰幅の良い侍女さんが大皿をドンとテーブルに載せた。

 お皿の上に綺麗に盛り付けられている物を見て、酒呑み達が歓声を上げる。

 私の目もお皿に釘付けになった。



「これって」

「うちの領で作られている乾燥ソーセージです」



 大皿に盛られていた物の見た目は、まんまサラミだった。

 薄く輪切りにされた、赤身に点々と散らばる白い脂肪分が眩しい、あのサラミだ。

 久しぶりに見た食べ物に懐かしさが込み上げた。



「どうぞお召し上がりください」

「いただきます!」



 侍女さんに勧められて、勢い込んで手を伸ばす。

 小皿に取り分けた乾燥ソーセージは間近で見ても、サラミだった。

 嬉しさで緩んだ口に放り込めば、懐かしい味が口一杯に広がった。

 久しく食べていなかった味に「くぅ……」っと声が出そうになる。

 美味しさを噛み締めていると、団長さんが話し掛けてきた。



「気に入ったようだな」

「はい! とっても美味しいです!」

「まだ暫くここにいるし、また出すように言っておこう」

「ありがとうございます」

「あの……」



 団長さんのありがたい提案にお礼を言っていると、乾燥ソーセージを運んで来てくれた侍女さんから遠慮がちに声を掛けられた。

 団長さんと揃って侍女さんの方を向くと、侍女さんが素敵な提案をしてくれた。

 なんと、領都の市場にソーセージを作ったお店が出店しているらしい。

 お店には今日出て来たのとは違う種類のソーセージも置いてあったりするので、もし興味があれば行ってみてはどうかという話だった。



「セイが良かったら行くか?」

「いいんですか?」

「明日は皆休暇だ。一人で行かせる訳にはいかないが、一緒に行くなら問題ない」



 一緒に、ということは団長さんも来てくれるということだろうか?

 身分的に一人で出掛けられないのは仕方がないけど、団長さんを連れ出してしまってもいいんだろうか?

 団長さんも帰ってきたばかりだというのに。


 しかし、申し訳ない気持ちはありつつも、市場は非常に気になる。

 結局欲望に負けて、一緒に行ってもいいのか、休みは取らなくても大丈夫なのかと、再度恐る恐る尋ねれば、問題ないと頼もしい答えが返って来た。

 なら、ありがたく連れて行ってもらおう。

 そうして、翌日は団長さんと一緒に領都へと出掛けることになった。


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