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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
146/205

閑話03 激震(後編)

ブクマ&評価ありがとうございます!


いつもお読みいただき、ありがとうございます、

長らくお待たせし、大変申し訳ありません。

更新を再開します。


何とかクリスマスに間に合って良かった……。

メリークリスマス!

「えーっと、次のステップはこうだったっけ?」

「いえ、次に踏み出すのは逆方向だったかと……」



 うろ覚えのステップを踏みながら確認してくるユーリに、相手をしているアイラは困ったように返した。

 どうして、こんなことになったんだろう。

 口には出さないが、アイラは内心頭を抱えていた。


 トップからの突然の通達により、宮廷魔道師団の隊舎でダンスの講習会が開かれることになった。

 もっとも、講習会といっても実態は自主練である。

 魔道師達が一斉に練習をするため、講習会と銘打っているに過ぎない。


 本来の業務ではないため、仕事が終わってからの開催となった。

 鬼の副師団長が仕事時間中の開催を断固として認めなかったためである。

 講習会を口実に書類仕事をさぼろうとしていた者(主に一名)がいたためだろう。


 偶々、本当に偶々。

 ユーリがダンスの練習を隊舎でやると言い出したときに、ユーリの近くに立っていたせいでアイラもダンスの練習に駆り出された。

 ポンと肩に手を置かれ、「それじゃ、パートナーよろしく」とユーリから声を掛けられてしまったのだ。

 その場で断っても問題はなかったのだが、相手が上司だったこともあり、アイラは断るのを躊躇した。

 そして、躊躇しているうちに、あれよあれよと話が進み、結局参加することになってしまったのだった。



「うわっ!」

「ごめんなさい!」



 ユーリのリードは少々強引だったため、アイラは引っ張られるように踊っていた。

 くるりとターンをしたときに、近くで踊っている者にぶつかりかけたのは、ユーリがまたしても進行方向を間違えたせいである。

 アイラが踊りながらも慌てて頭を下げると、そこでエアハルトからストップが掛かった。



「ほとんど覚えていないようだな」

「んー、元々ダンスに興味ないしね」

「一度教本を読んでから踊ったらどうだ?」

「えー」



 エアハルトの提案にユーリは嫌そうな顔を隠そうともしなかった。

 魔法以外のことに労力を取られるのはごめんだというばかりの態度だ。

 これ以上の譲歩をユーリから引き出すのは難しいと感じたのだろう。

 エアハルトは深いため息を吐いた後、歩み寄りを見せた。



「代われ。手本を見せてやるから、覚えろ」

「はーい」



 エアハルトの提案にユーリはあっさりと頷くと、アイラの手を離した。

 今日本を読むのは面倒なようだが、見て覚える分には問題はないらしい。

 もしかしたら、言われずともエアハルトの譲歩を感じ取ったからかもしれない。



(えっ……? えーーーーー!)



 ユーリは納得したようだが、真逆の反応を見せたのはアイラだ。

 とはいえ、表立っては目を丸くし、驚いた表情を浮かべたくらいだ。

 悲鳴を心の中だけに留められのは、王立学園(アカデミー)での淑女教育の賜物だろう。


 もちろん、突然の展開に驚いたのはアイラだけではない。

 周りにいた研究員達も、あまりのことにステップを踏む足を止めて、エアハルトを凝視したまま固まっていた。


 しかし、そんな周りをさておき、エアハルトはアイラに向けて手を差し出した。

 これは、手を取れということだろうか?

 一連の流れからすれば考えなくとも分かることだが、アイラは呆然とエアハルトの手を見詰めてしまった。

 それほど衝撃は大きかった。



「どうした?」

「い、いえ!」



 動かないアイラを不審に思ったエアハルトに声を掛けられ、アイラは漸く差し出された掌に自分の手を乗せた。

 そしてエアハルトのリードでダンスが始まった。


 エアハルトの珍しい姿を前に、その場にいた半分以上の者もエアハルトとアイラが踊る姿に釘付けとなった。

 練習を続けている者もいたが、先程までよりは集中力を欠いてしまった状態で、踊りながらも仕切りに二人に視線を向けてしまっていた。

 練習を止めてしまった者達は、二人が踊る姿を見ながら、感想を口々に述べる。



「副師団長が舞踏会に参加したなんて話、聞いたことなかったわよね?」

「あぁ。それで、あれだけ踊れるのか」

「学園の講師並じゃないか?」

「いや、流石にそれはないだろう。だが、覚えてるものなんだな」

「俺、あそこまで覚えてない」

「私もよ」

「伊達に副師団長をやってないよな」

「そこ関係あるのか?」



 噂では、エアハルトが社交場に出ることはまずないと聞いていた。

 最後に社交場でエアハルトを見たのは、十年以上前だという話もあったくらいだ。

 だからこそ、その場にいた者達は皆、優雅に足を滑らせるエアハルトの姿に驚きを隠せなかった。



(踊りやすい!)



 アイラにとって、エアハルトとのダンスは驚くほど踊りやすかった。

 手本を見せるとの言葉に間違いはなく、エアハルトが踏むステップは学園の教本通りの物だった。

 アイラは卒業してから踊っていなかったこともあり、微妙に忘れている部分もあったのだが、エアハルトの巧みなリードによって足は自然に動いた。

 体が覚えていたという感じだろうか?

 今までで一番踊りやすい気がした。


 何故こんなに踊りやすいのだろうか?

 先程までより余裕ができたこともあり、つい他のことを考えていると、上から声が落ちてきた。



「余裕そうだな」

「えっ?」



 驚いて顔を上げると、標準装備である無表情のエアハルトと目が合った。

 ブルーグレーの瞳をこれほど近くで見たのは初めてで、声を掛けられたことも忘れて、とても綺麗だなと見惚れる。

 そうしてアイラが言葉を返さなかったからか、エアハルトは再び口を開いた。



「何か考え事をしていただろう?」

「あっ、すみません!」



 返事を返していなかったことと、ダンスに集中していなかったこと。

 両方に思い至り、アイラの口から咄嗟に出たのは謝罪だった。

 何せ、相手は上司。

 自分からお願いした訳ではないが、業務以外のことに付き合わせてしまっている状況でのことだ。

 失礼な態度を取ってしまったとアイラが狼狽したのも無理はない。


 けれども、エアハルトがアイラを咎めることはなかった。

 その上、慌てるアイラの様子が可笑しかったのか、エアハルトの口元が僅かに弧を描いた。


 エアハルトが微笑むのは非常に、非常に珍しいことだ。

 そんな珍しい現象が起これば、当然、周りに与える衝撃は半端なものではない。

 エアハルトが笑みを浮かべた瞬間、外野からどよめきが起こった。

 もちろん、アイラも無事では済まなかった。



(わっ、笑った!)



 雪解けのような微かな笑みを間近で見てしまったアイラは心の中で悲鳴を上げた。

 普段見ないものを目にするのは、ここまで心臓に悪いのか?

 それとも、間近で見たのがいけなかったのか?

 ほんのりと熱い頬を隠すように俯いて、アイラは落ち着くためにダンスへと意識を集中させた。


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