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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章

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143/206

121 恋愛:Lv.2

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


 穴の向こうは急勾配の下り坂となっていた。



「いたたたたた……」



 どれくらい転がり落ちたのだろうか?

 暫く転がり落ち、漸く止まった所でどうにか体を起こす。

 目を開けているはずなのだけど、辺りは真っ暗で何の光も見えない。


 音もそうだ。

 耳が痛くなるほどの静寂が辺りを支配していて、自分の目も耳も悪くなってしまったんだろうかと不安になる。

 目も耳も痛くないから、その可能性は低いとは思うけど。


 そういえば、最後に団長さんの声が聞こえたわね。

 自分が落ちていくところを、団長さんは見ていたはずだ。

 恐らく心配を掛けているだろう。

 すぐに探そうとしてくれているかもしれない。

 ここにいると声を上げた方がいいのだろうか?


 そう思ったけど、息を吸ったところで止まった。

 黒い沼を浄化した後だけど、この鉱山には魔物がまだ出る。

 今は周りに何もいなさそうだけど、声を聞きつけた魔物が来たらどうしようか?

 自分だけで倒すことはできるのだろうか?

 ふと、そんな考えが浮かび、声を出すのを止めたのだ。


 魔物の討伐に特化した【聖女の術】が使えるとはいえ、攻撃に耐えながら術を発動できるかと言われると自信がない。

 基礎レベルが国内トップであることも間違いないけど、肉弾戦で倒すことは難しそうだ。

 ならば、大声を出すのは得策ではないだろう。


 これからどうしようか……。

 考えが途切れると、今度は痛みがぶり返してきた。

 最初は落ちた衝撃で彼方此方ぶつけた所が痛かったけど、その衝撃が去った今、じくじくと痛む場所があることに気付いたのだ。

 滑り落ちたときに、色々な所を擦り剥いてしまったようだ。

 一体、どれだけの怪我を負ったのかしら?

 確認しようにも真っ暗で、自分の姿も全く見えない。


 明かりを点けた方がいいだろうか?

 でも、音と同様に光も魔物を呼び寄せてしまいそうだ。

 けれども、このまま痛む体を放置して丸くなっているのも微妙な感じがする。


 もし今魔物が襲ってきたら、間違いなく正常なときよりも対処が取りにくい。

 どうせなら視界を確保して、怪我を治しておいた方が、同じ襲われるにしても生存率は高くなりそうだ。

 それに怪我を治すために魔法を使うなら、発動時に光るのだ。

 どっちみち注目を集めてしまうのならば、きちんと明かりを点けた方がいい。

 結局そう結論付けて、明かりを灯すことにした。


 ランタン……は持ってきていないのよね。

 とすれば、生活魔法の『ライト』か。

 いつもはランタンやランプを使っているけど、何度か『ライト』も使ったことがあるから、明かりを点けるのに問題はない。

 あっ、そうだ。

 前に師団長様が言っていたように、念じながら発動すれば、明るさを落とした状態で光を灯すこともできるんじゃないだろうか?

 明るさを落とせば、多少なりとも見つかりにくくなるかもしれないしね。

 よし、やってみよう。



「『ライト』」



 ぼんやりと光る球がふわりと浮かぶ。

 思った通り、浮かんだ球は鉱山の入り口で魔術師さんが出したものよりも明るくはない。

 それでも自身の状態を確認するには十分だった。



「あー」



 体を見下ろして、思わず落胆の声を漏らした。

 服は土や埃まみれで、どこかで引っかけたのか、所々破れていた。

 もちろん、破れた箇所は盛大に擦り剥いている。

 見ているだけで痛みが増した気がした。

 今はまだ色が変わっていないけど、そのうち青痣も沢山浮かび上がりそうだ。

 とっとと治してしまおう。



「『ヒール』」



 自分に向けて回復魔法を唱えると、体全体が白く発光する。

 いつも通り、白い光の中には金色の粒子も舞っていた。

 光が収まれば、擦り剥いていた箇所は綺麗に治り、痛みも治まった。


 不快感がなくなったことに安堵の溜息を吐き、改めて周りを見回す。

 今いる場所はT字路で、前後と左方向に道が続いている。

 前後は細く平坦な道だったけど、左側の道は急な上り坂となっていた。

 現状から考えるに、この左側の道から転がり落ちてきたのだろう。

 落ちている間は混乱していたので、あまり覚えてはいないけど、上の方を覗いても何の明かりも見えないことから、奥の方は曲がり道になっているかもしれない。


 さて、どうしようか。

 このまま一人で行動するよりは、元いた場所に戻った方がいいのは間違いない。

 しかし、その思惑はすぐに外されてしまった。

 試しに左側の道を進んでみたのだけど、坂道が急なせいで途中から上ることができなくなってしまったからだ。

 壁に何らかの持つ所があれば上れたのかもしれないけど、調べてみても手掛かりとなる所は見つからなかった。


 呆然と上を見上げながら、このまま立っていても事態は好転しないなと思った。

 戻るか。

 ここだと、魔物が来たら逃げ場もないしね。

 落ち込んだ気持ちを肺の中の空気と一緒に吐き出して、T字路まで戻った。



「はーーーーー」



 これからどうしよう。

 前後の道は続いているけど、この場所から移動するのは得策ではないような気がする。

 落ちた所を見られているのだ。

 向こうも何らかの予測を立てて探しに来るんじゃないかなと思う。

 そのときに私が移動していたら、見つかるものも見つからないだろう。

 そこまで考えて、私は壁際に膝を抱えて座り込んだ。


 見付けてもらえるまで、どれくらい掛かるのかしら?

 肩から掛けている鞄の中には、ポーションや簡易の救急セットの他に、食料と水も入っているから、少しの間なら持ち堪えられるだろう。

 幸いなことに、ポーションの瓶も水筒も無事だったので、まだ使える。

 でも、団長さん達と落ち合うまで何日も掛かってしまったら……?


 こんな状況だから、やらなければいけないことを考えている方が落ち着くかと思って考えてみた。

 けれども、周りが暗いからか、それとも一人だからか、気を抜くと考えが暗い方向へと伸びる。

 良くないわね。

 悪い考えを追い出すように、頭を左右に振った。


 とはいえ、何も考えなければ考えないで、余計に暗い影が忍び寄ってくる気がしてしまう。

 うーん。

 やらなければいけないことでも、討伐が終わってからのことを考えた方がいいだろうか?



「別のこと考えよ」



 気持ちを切り替えるために、態と口に出しながら、王都に帰ってからのことを考える。

 例えば、討伐に出掛けるまで研究所でやっていた仕事のことや、特産品を使った料理を各領地のレストランやカフェで出すための事前準備のこと。

 あぁ、忘れちゃいけない。

 第一騎士団に卸すポーションも作らないと。

 そこまで考えて、意識せず溜息を吐いた。


 第一騎士団と一緒に討伐に行った後、第一騎士団からも研究所にポーションの注文が来るようになった。

 ポーションを作るのは研究の合間のいい気分転換になるし、注文された量も第三騎士団よりは少ないため苦ではない。

 ただ、第一騎士団の隊舎に持って行くのが少し気が重いのよね。


 理由は第一騎士団に所属する騎士さん達の態度だ。

 決して悪いものではなく、むしろ良くしてくれている。

 私がちやほやされるのを苦手としていることに気付いたのか、討伐のときのように、お姫様扱いされることもない。

 誰もが非常に良い距離感で接してくれていると思う。


 でも、接していると妙に背中がむずむずしてしまうのよね。

 話していても何だか落ち着かないというか、逃げ出したくなるというか。

 一体どうしてなのかは分からないけど、そういう理由であまり行きたくないのだ。


 同じように接してくれる団長さんは平気なんだけどな。

 いや、偶に揶揄われて非常に落ち着かなくされるときはあるし、逃げ出したくなるときもある。

 しかし、それは一時のことで、避けたくなるような感じではない。



「何でだろう?」



 口にしたけど理由は分かっている。

 自分が少なくない好意を団長さんに持っているからだ。


 恋をしていると言っていいかどうかは微妙な所ではある。

 今まで恋愛経験がなかったから確信できないのだ。

 日本で読んだり見たりした本や映画の中に描かれていたように、一緒にいるだけで胸が苦しくなったり、浮き足立ってしまったり、一日中団長さんのことで頭が一杯になったりなんていうほど激しいものではないからね。

 一緒にいて楽しいと感じても、他の人と団長さんとでは少し違うように感じるくらいで。

 あぁ、でも……。



「セイ!」



 あれ? 幻聴?

 団長さんのことを考えていたからだろうか?

 団長さんが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。


 色々と考え込んでいる間に抱え込んだ膝の間に埋めていた顔をノロノロと上げる。

 辺りを見回しても変わった所はない。

 となると、上か?

 転がり落ちてきた坂道を覗き込もうと、ゆっくりと立ち上がったら、その坂道から団長さんが飛び出てきた。



「セイ! 無事だったか」

「あっ、ホークさ……」



 最後まで言わせてもらえなかった。

 団長さんに抱きしめられたからだ。


 最初は何が起きたのか分からなかった。

 団長さんが素早く視線を巡らし、私が無事であることを確認したのは分かった。

 険しい顔をしていた団長さんがほっとした表情を浮かべたのも見えた。

 その後、凄い勢いで近付いてきたと思ったら、上半身が温かいものに包まれた。

 抱きしめられたのだと認識したのは、その三秒後だ。



「良かった……」



 良くない。

 いや、生きてたことは良かったのか?

 うん、良かったことだね。

 耳元で聞こえた団長さんの声に、心の中で返事をする。


 しかし、どうしたらいいのだろう。

 人間驚き過ぎると一周回って冷静になるって話を聞いたことはあるけど、私には当てはまらないようだ。

 頭の中は真っ白で、どう反応したらいいのかも全く思い浮かばない。

 唯々只管、顔が熱くて仕方がない。


 えーっと、これ、本当にどうしたらいいの?

 こういうとき、友なら逞しい胸筋を堪能するんだろうけど。

 いや、ちょっと待って!

 何考えてるの!?

 堪能って何!?

 落ち着こう私!


TVアニメ「聖女の魔力は万能です」第2回キャスト生配信番組が5/23の19時から配信されます!

セイ役の石川由依さんと、団長さん役の櫻井孝宏さん、師団長様役の小林裕介さんが出演されます。

ご興味のある方は下記のサイトでご覧ください。


ただいま、皆様からのお便りを募集中だそうです。

よろしければ、アニメ公式Twitterへ、DMにてお送りいただければ幸いです。


・TVアニメ「聖女の魔力は万能です」キャスト生配信番組

 https://www.youtube.com/watch?v=onrOIrkO6LY


・アニメ公式Twitter

 https://twitter.com/seijyonoanime


それから、誤字の報告をしていただき、いつもありがとうございます。

現在ちょっと修正が間に合っていないため、一時的に誤字報告の機能をオフにさせていただいております。

修正が追いついたら、また機能をオンにしたいと思います。


よろしくお願いいたします!


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ご興味のある方は、お手に取っていただけると幸いです。

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