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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
142/206

120 坑道

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 周辺の調査をした結果、鉱山の奥で黒い沼が見つかった。

 鉱山の外よりも中の方がアンデッド系の魔物が多く出ると鉱夫さん達が話していたこともあり、半ば予想していた通りではあった。

 発見の報告があった翌日に、すぐに私達は黒い沼の浄化に向かった。



「『ライト』」



 同行していた宮廷魔道師さんが生活魔法の『ライト』を唱えると、ぼんやりと光る球がふわりと浮かび上がり、辺りを照らした。


 この世界の人間であれば誰でも使える生活魔法だけど、使う際にはMPを消費する。

 一般の人はそれほどMPがないこともあり、常日頃は火を灯す普通のランプやランタンを使って生活している。

 鉱夫さん達が使う鉱山内の光源も普通のランタンが主だ。


 ただ、魔物の討伐の際にはランタンが壊れる可能性が高いため、MPに余裕がある人達は『ライト』を光源として使っていた。

 今回もそうだ。


 周囲が明るくなると、奥から羽音が聞こえた。

 徐々に姿が見えてきたのは、コウモリ型の魔物だ。

 鉱山と聞いたときからいそうだなと思ったけど、案の定いた。


 すぐに支援魔法を唱えて、皆の準備を整えると、騎士さん達が前へ出た。

 皆が連携して、危なげなく倒していく。

 そして、戦闘が終われば、再び鉱山の奥へと足を向けた。


 鉱山の中に出てくるのはコウモリ型の魔物だけではない。

 他にも、狼型やトカゲ型の魔物も出た。

 ただし、普通の個体ではなく、体が岩で覆われた物が多い。

 これまた鉱山の中ということで、土属性の魔物が多いようだ。


 奥へと行くにつれて、どんどんと遭遇する魔物の数が増えていった。

 黒い沼が近付いているからだろう。

 鉱山の中は森の中と違って開けていない分、魔物の密度が高く感じた。


 ただ、攻撃の方向も制限されるため、戦闘自体は少し楽かもしれない。

 しかも、鉱山の壁は土や岩ばかりで、森とは違って周囲が燃える危険性が少ない。

 そうなると、活躍するのは師団長様だ。

 師団長様が得意の火属性魔法を次々と繰り出し、サクサクと進むことができた。


 もちろん、土属性の魔物と遭遇したときは弱点である風属性魔法を駆使していたんだけどね。

 風属性魔法を使うのは、効率のためなんだと思われる。

 後は大抵火属性魔法で対応していた。


 暫く進むと、魔物の種類が変わりだした。

 途中からぽつりぽつりとアンデッド系の魔物が出るようになったのだ。

 出てきた魔物は動物型ではあるのだけど、体の所々が腐り落ちていた。


 そして、心配していたとおり臭いがやばかった。

 最初に遭遇したときは、思わず嘔吐(えず)いた。

 だから、アンデッド系の魔物と遭遇したときは、なるべく息をしないようにして戦った。

 けれども、物には限度がある。

 息を止めたまま戦闘を続けることは難しかったので、最終的に持っていた布で口元を覆った。

 ないよりはマシ程度だったけど、少しだけ臭いが緩和された。


 次に不快な臭いを発する魔物を討伐する時のためにも、防臭マスクのような物を開発した方がいいかもしれない。

 元の世界では、そういうマスクがあったような気がするけど、あれって一体どういう原理だったかしら?

 流石に専門外だから、さっぱり知らないのよね。

 そうなると一から開発するしかないのか。

 こんな感じの物って話だけしたら開発してくれる人、どこかにいないかな?

 防臭マスクについてつらつらと考えながら進んでいると、遂に黒い沼に到着した。


 前もって聞いていた通り、沼の大きさはそれほど大きくはない。

 しかし、沼からは次々とアンデッド系の魔物が湧き出ていた。

 何となくだけど、布越しといえども臭気が酷くなったような気がする。

 早く終わらせて臭いをどうにかしたい。



「ここで止まるぞ。魔法を掛け直せ。HPとMPの残りにも気をつけろ」

「「「はい」」」

「じゃあ、魔法を掛けますね。『エリアヒール』、『エリアプロテクション』」

「「「ありがとうございます!」」」



 気は()くけど、そのまま突入したりはしない。

 沼の周囲には多くの魔物がいて、これから間違いなく連戦となる。

 戦闘を始める前に、一旦足を止めて準備を整えるのが定石だった。


 団長さんの掛け声で、沼近くにいる魔物から見つからない位置で立ち止まる。

 ポーションを飲んでHPやMPを回復したり、支援魔法を掛け直したり。

 ゲームでのボス戦の前のように、皆思い思いに準備を整えた。


 そうして、いざ行くぞと思ったとき、師団長様が顎に手を当てながら口を開いた。



「すみません、少し実験をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「実験ですか?」

「はい。私にも黒い沼を浄化できないか試してみたいのです」



 師団長様曰く、研究所での新作料理会の時に話したことがずっと気に掛かっていたらしい。


 一定以上の濃度の瘴気は魔物に変異するが、更に密な瘴気が変異した物が黒い沼ではないかと王宮では考えられている。

 このことから、魔物と同様に黒い沼も【聖女の術】以外の方法で浄化することが可能なのではないだろうかと師団長様は推測した。

 そう考えた師団長様は、まずは聖属性魔法で黒い沼が浄化できないか試してみたいという話だった。



「浄化までは行かなくとも、何らかの影響を与えられるかどうかを見てみたいのです」

「聖属性魔法を選ばれたのは【聖女の術】に近いからですか?」

「それもありますが……」



 師団長様としては、黒い沼の浄化に特化した魔法を開発し、試してみたかったそうだけど、残念ながらまだ開発できていないそうだ。

 そこで次善の策として聖属性魔法で試すことにしたんだとか。



「ここに来て実験か」

「はい。今回の沼はそれほど大きくありませんし、実験をするには手頃かと思いまして」

「だが、あの魔物の数を見ろ。ドレヴェス殿以外の人間で対応する場合、手一杯になりそうだが?」



 一通り説明が終わったところで、団長さんが難しい顔をしながら師団長様に声を掛けた。

 団長さんも師団長様も同じ地位にいるけど、今この隊を率いているのは団長さんだ。

 実験と聞いて、黙ってはいられなかったのだろう。


 団長さんの言う通り、師団長様が抜けた状態では、【聖女の術】が発動するまでの間、魔物を捌ききるのは一苦労だと思う。

 他の地で黒い沼を浄化したときも、それは大変だった。

 師団長様もそれは分かっているはずだ。

 それでも、師団長様は諦めなかった。



「ですが、試す価値はあります。もし聖属性魔法で浄化出来るのであれば、セイ様以外の者も対応できるようになるということですから」

「それは……。確かに、他の者でも対応できるとなればいいことだろうが……」

「最初の一発だけで構いません。お願いします」

「……、はーーー。分かった、いいだろう。ただし、試すのは最初の一発だけだ」

「ありがとうございます!」



 結局、団長さんは渋々とだけど師団長様の要求を飲んだ。

 戦術的にはまずくとも、戦略的には有効だと思ったのかもしれない。

 なんて、それっぽく言ってみたけど、合っているかどうかは謎だ。

 そして話し合いが終わった後、師団長様の合図で戦闘は始まった。



「では、行きますよ。『ホーリーアロー』」

「「「!!!」」」



 詠唱を聴いて、思わず師団長様の方に振り向いた。

 何てったって、『ホーリーアロー』なんて魔法名は今まで聞いたことも、本で見たこともない。

 周りの魔道師さん達も同じようにギョッとした表情を浮かべていたので、恐らく新しい魔法なのだろう。

 黒い沼の浄化に特化した魔法は開発できていなくても、聖属性の攻撃魔法という新しい魔法は開発済みだったようだ。

 新しい魔法の開発なんて一朝一夕(いっちょういっせき)ではできないのに。

 流石、師団長様である。



「影響はごく僅かなようですね。分かっただけでも良しとしましょう。後はセイ様お願いいたします」

「はい!」



 師団長様が放った『ホーリーアロー』は、一直線に沼へと吸い込まれた。

 沼の様子は変わらないように見えたけど、魔法に精通している師団長様から見るとそうではなかったようだ。

 しかし、師団長様に詳しい話を聞いている暇はなかった。

 魔法を放ったことで、こちらに気付いた魔物が一斉に向かって来たからだ。


 騎士さん達がどうにか魔物を押さえ込んでいる間に、後ろにいた魔道師さんが魔法で攻撃をする。

 いつも通り連携を取りながら、他の人達が魔物に対処してくれている間に、【聖女の術】の展開を始めた。


 このところ何度も発動させていることもあり、大分慣れた気はする。

 けれども、慣れるのと恥ずかしくなくなるのとは別問題だ。

 ほんのりと頬が熱くなるのを感じながら集中していると、胸元からふわりと魔力が湧き出てきた。


 止めることなく、そのままどんどんと魔力を溢れさせる。

 金色の靄が黒い沼を全て覆ったところを見届けて、術を発動させた。

 途端に周囲が真っ白に染め上げられる。

 少しして視界が戻ると、天井から金色の粒子がキラキラと舞い落ちるのが見えた。



「無事に浄化できたようですね」

「流石だな。お疲れ様」



 無事に黒い沼も、周囲の魔物も一掃できたようだ。

 魔物の姿は一匹もなく、黒い沼があった場所にも今まで通ってきた道と同様の地面が広がっていた。

 団長さんの労いの言葉にお礼を返しつつ、ほっと一息吐いた。


 後は戻るだけということで、少し休憩してから帰路に就いたのだけど……。



「えっ! なんで?」



 アンデッド系の魔物が現れたことに、思わず声を上げた。

 黒い沼の浄化直後は付近一帯の魔物も浄化されていることが多く、帰り道には魔物に遭遇しないなんてこともあった。

 けれども、全く出くわさないという訳ではない。


 また、浄化後暫くすると、やはり魔物は出るようにはなる。

 それでも、黒い沼が出現する前と同じ程度の湧きだ。

 黒い沼が出現する前の状態に戻るといった方が分かりやすいだろうか。


 だから、今回も元に戻ると思っていたのだ。

 それなのに、以前は出なかったと聞いていたアンデッド系の魔物が出たので、驚いたのだ。

 取り敢えず殲滅したものの、動揺は収まらない。



「アンデッド系の魔物は以前からいたものではないのですよね?」

「あぁ。ここで出るのは土属性の魔物が主だったはずだ」



 動揺とまではいかなくとも、疑問に思っているのは私だけではなかったようで、師団長様も団長さんに確認していた。

 団長さんも質問に答えながら、怪訝な表情を崩さない。


 まさか、黒い沼の出現を機に、この鉱山にアンデッド系のモンスターが湧くようになったなんてことはないわよね?

 ここと同じように、黒い沼を原因として新しい魔物が湧くようになった所はあった。

 けれども、どの地でも黒い沼の浄化後には新しい魔物は湧かなくなったのだ。

 前例のないことに、皆の間に不安が広がった。



「もしかして、他にも原因があるんでしょうか?」

「他にも?」



 何気なく口にしたことだけど、可能性としてはありそうな話だ。

 他の原因として真っ先に挙げられるとしたら……。

 考えていると、師団長様が話し始めた。



「考えられるとしたら、他にも黒い沼が存在しているかもしれないということでしょうか?」

「それが一番可能性が高そうだが……。この鉱山は全て捜索済みだが、他に黒い沼が見つかったという話は聞いていない」

「そうですか」



 師団長様も同じ考えに行き当たったらしい。

 けれども、鉱山内では第二の黒い沼の存在は確認されていないようだ。

 ということは、鉱山の外にあるのだろうか?


 暫く皆で考え込んでしまったけど、結局結論は出なかった。

 今後の方針を決めるにしても、まずは鉱山を出た方がいい。

 今の状況では、ここで考え込んでいる最中に魔物に襲いかかられるかもしれないしね。

 最終的に、考えるのは集落に戻ってからにしようという話になり、再び鉱山の入り口へと歩き始めた。


 そうして、道中出会う魔物を倒しながら歩いていると、いつの間にか足に違和感を感じた。

 どうやら、靴の中に小石が入り込んでしまったらしい。

 外に出るまでは我慢しようと思いつつも、歩く度に足の裏に当たり、地味に気になる。

 うーん、次の戦闘が終わったら、急いで靴を脱いで小石を取り除こうかしら?



「どうした?」

「あ、いえ、ちょっと靴の中に石が入ってしまったみたいで」

「あぁ。それは気になるな。今出してしまうといい」



 考えていると、私が妙な表情をしていることに気付いた団長さんが声を掛けてきた。

 大したことでもない個人的なことで皆の足を止めさせてしまうのは申し訳なかったのだけど、いい加減我慢の限界でもあった。

 ここは素直に、団長さんの言葉に甘えさせてもらおう。


 皆に頭を下げてから、靴を脱ぐために壁に手を付いたときだった。

 ぱきりと嫌な音がしたのと同時に、体が傾いた。



「えっ!」

「セイっ!!」



 慌てて壁の方を見れば、打ち付けられていた木の板が外れ、ぽっかりと穴が開いているのが見えた。

 そして、支えを失った体はそのまま真っ暗な空間へと投げ出された。


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もう、お手に取ってくださった方もいらっしゃるでしょうか?

私も拝見しましたが、色々なお話があって、とても楽しかったです。

(すみません、感想が小学生並みで…。でも、本当に素敵なお話ばかりで、ニコニコしながら読んでしまいました)

ご興味のある方は、是非お手に取っていただけると幸いです。


また、小説7巻が5/8に発売されます!

お待たせして、大変申し訳ありません。

何とか無事にお手元に届けることができそうです。

こちらも、ご興味のある方は是非、お手に取っていただけると嬉しいです。


よろしくお願いいたします!


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