119 鉱山村
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晩餐会の翌日、領主様から今回の討伐についての話を聞いた。
魔物が増えている場所は領内にある、とある鉱山周辺だった。
温泉のある地域とは別の地域だ。
鉱山は領都からは離れた場所にあり、移動には数日掛かる見込みだ。
鉱山の近くには、鉱夫さんや護衛の兵士さん達が寝泊まりするための集落がある。
この集落は領都と比べると遙かに小さいものだ。
聞いた話によると、鉱夫さん達が寝泊まりする建物に、鉱夫さん達を管理する人が住む建物、そして集落にいる人達のための食堂しかない。
ずっと暮らすのには不便そうだけど、寝泊まりするだけならこれで事足りるそうだ。
鉱夫さん達がこのような集落に住んでいるのには理由がある。
鉱山は山の中にあり、周辺は魔物が多く、魔物に対処できる鉱夫さん達以外が定住するのは少々難しいからだ。
そのため、鉱夫さん達の家族はもう少し離れた場所にある村に皆住んでいるそうだ。
簡単に言うと、鉱夫さん達は単身赴任者ばかりということね。
村は平地にあるため魔物に脅かされることは少ない。
また、生活に必要な品々を売っている商店もあれば、歓楽街もある。
だから、鉱夫さん達は休みの日になると、家族がいる村に帰るらしい。
領都からのんびりと馬車に揺られること数日間。
目的地に到着した。
集落は木や石でできた壁に囲まれていた。
事前に聞いていたとおり、鉱夫さん達が過ごすための最低限の建物しかない。
ただ、護衛とは別に、魔物の討伐に来る兵士さん達用にちょっとした広場はある。
私達はこの広場に野営用のテントを張り、寝泊まりすることになった。
騎士さん達がテントを張っている間、私と団長さん、それから師団長様はこの集落の管理者さんに挨拶をした。
普段お目に掛かることのない重要人物、主に私がいることに恐縮しきりの管理者さんから、周辺の様子を聞く。
やはり、このところ魔物が多く出没するそうだ。
しかも、最近は今までとは違った種類の魔物が出るようになったとか。
「違う種類の魔物か……」
「は、はい。今までは生きているものばかりだったのですが……」
生きているもの?
管理者さんの言い方に、微妙に引っかかりを覚えた。
そう感じたのは私だけではなかったらしい。
団長さんがどういうことかと尋ねると、管理者さんは恐る恐る口を開いた。
「それが、その、生きてないんです」
「生きてない」
「はい……」
「……、それは死体が動いているということでしょうか?」
「っ……、はい」
死体が動くと聞いて、思わず眉を寄せてしまった。
あれかー、あれなのかー。
思い浮かべた魔物でまず間違いないだろう。
管理者さんは馴染みがないようで、実際にその魔物に遭遇した人達から話を聞いても半信半疑だったようだ。
それもあって、私達へ報告するのにもこわごわとしていたみたいね。
反対に、色々な所に討伐に行ったことがある団長さんや師団長様は、そういう魔物がいることを知っていた。
平然とした様子で、その魔物の種類を口にした。
「アンデッドか」
「そのようですね」
前に聖水の話をしたときに、師団長様から少しだけ話を聞いていたので、アンデッド系の魔物がこの世界に存在することは知っていた。
ただ、積極的に出会いたい魔物かというと、そんなことはない。
まず何と言っても見た目が問題だ。
日本のゲームの出てきたアンデッドにも、綺麗なものとそうでないものがいた。
師団長様から聞いた話では、この世界のアンデッドにも両タイプいるそうだ。
しかし、管理者さんが生きていないとはっきり口にする以上、見た目で分かるような状態である可能性は高い。
つまり、集落周辺に出る魔物は綺麗な状態ではないということだ。
そうなると、次に問題になるのは臭いだ。
死体の臭いなんて嗅いだことがないので想像するしかないんだけど、いい臭いではないことは確かだろう。
現に、アンデッドっぽいと口にした団長さんも師団長さんも微妙な顔をしている。
いや、臭いが嫌だから、そんな顔をしているとは限らないんだけど。
「その魔物が出るのは鉱山の中だけでしょうか? それとも、外にもいるのでしょうか?」
「鉱山の中で出くわす方が多かったようですが、外でも見掛けたという話もあります」
「そうですか……」
アンデッドの出現場所に偏りがあるか、師団長様は管理者さんに確認した。
返答を聞いた後、師団長様は顎に手を添えて考え込む。
「どうかしたんですか?」
「いえ、どの魔法を使って倒そうかと考えていまして」
何を考え込んでいるのか気になったので尋ねると、師団長様は使用する魔法について悩んでいたと言う。
何故、魔法の種類を気にするのかしら?
前に聞いた話では、アンデッド系の魔物に特化した魔法というのはなかったという話だった気がするのだけど。
更に聞くと、火属性魔法が使えるかが気になったそうだ。
なるほど。
師団長様は全属性の魔法を使えるらしいけど、その中でも火属性魔法が得意だという話だもんね。
そう考えたのは間違いではなかったらしい。
師団長様は最後に付け加えるように言った。
「火属性で倒す方が効率いいんですよね……」
小さな声で付け加えられた一言に、火属性魔法が得意だったことと同時に、師団長様は戦闘狂と呼ばれていることを思い出した。
管理者さんからの話を聞いた後は、騎士団のテントへと移動した。
今後の騎士団の方針としては、いつも通りだ。
いくつかの隊に分かれて、まずは周辺を調査し、その結果を持って次の行動を決定する。
それだけだ。
もっとも、私と師団長様は調査と銘打って別のことをすると思う。
師団長様は例によってレベル上げのために、周辺の魔物を掃討しに行くようだ。
私もやることは変わらない。
魔物の調査ももちろんするけど、周辺に生えている薬草の調査も行う予定だ。
念のため、団長さんに確認を取ったところ、いつも通りだなと笑われた。
ごめんなさい……。
翌日から周辺を見て回った。
所変われば品変わるという言葉があるように、王都周辺には自生していない薬草がちらほら見つかった。
図鑑の中でしか見掛けたことがない薬草もあり、見つけたときには胸が高鳴った。
それらを興奮しながら、丁寧に採集していく。
「それも薬草なのか?」
「いえ、分からないんですよね」
「分からない?」
「はい、見たことがない草なので。もしかしたら薬草かなと思って、念のために採集しておこうかと思ったんです」
摘んだ草を繁々と眺めていたら、一緒に来ていた団長さんに声を掛けられた。
団長さんに言った通り、手に取ったのは見覚えのない物だ。
もしかしたら薬効があるかもしれないからね。
標本にしておいて、王都に帰ったら図鑑と付き合わせて調べてみようと思ったのだ。
こういうとき鑑定魔法が使えるといいのになと思う。
使えるなら、その場で鑑定して取捨選択できるもの。
非常に残念なことに鑑定魔法は使えないので、地道に作業するのみだ。
あ、でも、後で師団長様に確認して貰おうかな?
折角一緒なんだし、聞くだけ聞いてみよう。
「セイ」
「はい」
肩から掛けている鞄に採集した草をしまっていると、ふいに団長さんが小さな声で名を呼んだ。
途端に、一緒にいた騎士さん達の空気も引き締まる。
少しして、団長さんが指さした方に目を凝らせば、遠目に猪型の魔物の姿が見えた。
先頭に立っていた騎士さんの合図で、一斉に魔物を攻撃する。
一匹目はすぐに終わったけど、見えない位置にも仲間がいたようで、戦闘はまだ終わらない。
とはいえ、こちらは歴戦の戦士ばかり。
全員、気を引き締めて順番に対処し、大怪我をする人が出ることなく戦闘は終わった。
「やっぱり、多いですね」
「そうだな。セイがいて、これだからな」
「どういう意味ですか?」
予想はしていたけど、出てくる魔物の数や頻度が多い。
そう言うと、側にいた騎士さんも頷いた。
だけど、一言多い。
思わず半眼で睨めば、騎士さんは声を殺して笑いながら、「すまんすまん」と謝ってきた。
全く、もう。
団長さんも一緒になって笑っていたけど、一頻り笑った後に表情を真面目なものに変えた。
「これだけ多いと、やはりありそうだな」
「そうですね……」
団長さんの一言に、騎士さん達も表情を引き締める。
口にしなくとも、皆考えることは同じだ。
これだけ魔物が出るとなると、予想していた通り、黒い沼がどこかにありそうだ。
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