118 団欒
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各領地に到着してからの行程というのは基本的に同じだ。
到着した時間にも寄るけど、余程こちらの体調が悪くない限り、到着日の夜は領主様一家と晩餐を共にする。
ホーク領でも、それは変わらない。
各自の部屋へと引き上げる際に、領主様から今夜の晩餐に招待された。
食堂に集まったのは五人。
領主様夫妻と団長さん、そして師団長様と私だ。
一同が揃うと、領主様の合図で食事が始まる。
供されたのは、ホーク領の特産品を使った料理だ。
特産品と聞くと、この間のパーティーのことを思い浮かべてしまうけど、目の前に並ぶのは、あのときの料理を元にした物ではない。
王都で流行っている薬草を使った料理でもない。
元からこの地で食べられていた料理だ。
「チーズがふんだんに使われているんですね」
「えぇ。我が領地ではチーズ作りが盛んで、色々なチーズをお作りしていますのよ」
チーズが使われた料理が何種類かあったので口にすると、領主夫人がにこやかに微笑みながら教えてくれた。
料理に使われているチーズは、それぞれ種類が異なっていたようだけど、全てホーク領で作られた物らしい。
「こちらの白ワインも飲みやすいですね。どの料理とも合って、とても美味しいです」
「それはよろしゅうございました。そちらのワインも我が領で作られている物ですの」
ホーク領の特産品としてチーズは知っていたけど、ワインも作られているのは初耳だ。
なるほど。
だから、ホーク領ではあの料理があるのか。
団長さんから聞いた、その料理はチーズフォンデュ。
温めた白ワインの中に複数のチーズを入れて混ぜ合わせて作る料理だ。
ホーク領ではパンに付けて食べるのが一般的らしいけど、ゆでた野菜や焼いたベーコン等を付けて食べるのも美味しい。
貴族の晩餐に出るような料理ではないから、今日の食卓には上がっていないけど、町中の食堂では食べられるとか。
また、チーズフォンデュの他にも、ラクレットやグラタンのような料理もあるらしい。
滞在中に一度は食べてみたいけど、討伐に忙しいからちょっと難しいかな。
残念。
晩餐の席に着いてからというもの、主に話すのは領主夫人だ。
領主様も団長さんも、偶に話に入ってくる程度だし、師団長様も相槌を打つくらい。
食堂に響くのは女性陣の声だけだ。
もしかして、ホーク家の男性は寡黙な人が多いのかしら?
いや、普段の団長さんやインテリ眼鏡様を思い出す限りそんなことはないはず。
同性同士の方が話が弾みやすいかもしれないということで、気を遣って貰っているのかもしれない。
「えっ!? 温泉があるんですか?」
「はい。この町から北に行った所に湖があるのですが、その畔に湧いている所があるのです」
そうして和気藹々と領主夫人とホーク領のことに話を咲かせていると、聞き逃せない単語を拾った。
温泉ですって!?
思わず興奮してしまうのは、仕方がない。
温泉とは、日本にいた頃から憧れた場所なのだから。
その実、日本にいたときも含めて、温泉に行った回数は数える位だ。
精々、家族旅行で行った位だろうか?
働き出してからは、偶にある休日は週に一日だけのことが多く、溜まった家事を消化するのが精一杯だったしね。
そんな訳で、私にとって温泉とは高嶺の花だった。
喚び出されてからは耳にすることがなかったから、てっきりないんだと思っていたんだけど、あったのね……。
日本にいたときよりも時間に余裕がある今なら、行けるだろうか?
行けそうな気がする。
問題は、現在仕事の真っ最中ってことよね。
問題が片付いたら、少し時間を取って行けるだろうか?
後で団長さんにこっそり聞いてみようかな?
「タカナシ様は温泉に御興味がおありで?」
「はい。故郷にもあったのですが、中々行く機会がなくて、いつか行けるといいなと思っていたんです」
「そうでしたか。温泉が湧き出ている町には我が家の別荘もあります。もしよろしければ、是非御滞在ください」
「よろしいんですか?」
「もちろん」
温泉に思いを馳せていたら、領主様から素敵な提案をいただいた。
きっと期待で目が輝いていたのだろう、すぐさま団長さんから討伐の後に行ってみようかと、これまた嬉しい提案があった。
もちろん、嬉々として頷いた。
終わった後の御褒美を思えば、討伐にも身が入るというものだ。
団長さんの話では、温泉が湧いていると言っても観光地化されている訳ではないらしい。
利用者はホーク領の人達が主で、ホーク家が抱えている兵士さんや、傭兵さん達が魔物の討伐の疲れを癒やしたりするのに使っている程度だそうだ。
要は、貴族の人達が使うような豪華な施設はないとのこと。
高価な物が置いてある商店や、豪華な食べられるレストラン、お洒落なカフェなんかはないということだ。
私としては、温泉に浸かれて、のんびりできればいい。
けれども、少しだけもったいないとも思う。
今まで温泉という単語を聞いたことがなかったように、この国では温泉は珍しいものだと思うのよね。
きちんと整備して宣伝をすれば、かなりの人が観光に来てくれるんじゃないかな?
特に、あのお店があれば……。
団長さんの話を聞きながら、そんなことを考えていたからだろう。
ついうっかり口にしてしまったのだ。
「マッサージ屋さん……」
「マッサージ屋?」
ぽつりと零してしまった言葉は馴染みのないものだったようで、団長さんが怪訝な表情で尋ねてきた。
しまったと思いながら、慌てて取り繕う。
「あぁ、えっと、騎士さん達も温泉にって話でしたよね?」
「そうだが……」
「体を温めてからマッサージを受けると疲れがよく取れるんですよ! だから、温泉に入った後にマッサージしてもらえるお店があればいいのになって、思ってしまって……」
丁度、同行していた騎士さん達にも温泉施設を使わせて欲しいと、団長さんが領主様に話しているところだった。
ぼんやりと聞いていたことを思い出しながら、何とか話を繋げる。
最後の方は小さく尻すぼみになりながらも、それっぽいことを言えば、団長さんも領主様も納得してくれたようだ。
ただ、それで終わらないのが領主夫人だった。
「疲れがよく取れるだけなのでしょうか?」
「えーっと、どうでしょうか? あぁ! 後遺症の緩和にもいいかもしれませんね」
「後遺症の緩和というと?」
「ええっと、運動機能障害と言いますか、怪我をした後に手足が動かしにくくなってしまったりした症状を緩和したりとか」
にっこりと微笑む領主夫人の視線に怖いものが含まれている気がしたけど、耐えたよ。
頑張って耐えました。
ここで美容にも効果があるなんて言ってしまうと、後がどうなるかは何となく想像できたからね。
そして、領主夫人の追及から逃れるために例として挙げたのは、騎士さん達に身近な怪我の後遺症の緩和についてだった。
こちらは団長さんだけでなく、領主様も興味津々だった。
領内に多くの兵士を抱えているからだろう。
魔物の討伐に怪我は付き物だしね。
そこからは固くなった筋肉をほぐすためのマッサージについてや、マッサージの際に使うとより効果を発揮しそうなエッセンシャルオイルの話なんかもした。
エッセンシャルオイルの話をした際に、師団長様が興味を示したのは意外だった。
エッセンシャルオイルについて色々と質問してきたのよね。
もっとも、マッサージとエッセンシャルオイルで魔力操作の能力を上げることができるかっていう質問だったから、然もあらんって感じだったけど。
どうもマッサージで血流が良くなるという話から、そういう疑問に至ったようだ。
魔力と血液って関係あるのかしら?
機会があったら、師団長様に聞いてみよう。
ちなみに、領主夫人からも追撃を受けた。
温泉の後のマッサージは美容にもいいんじゃないですか? ってね。
マッサージに使われるエッセンシャルオイルは化粧品にも使われているので、美容と結びつけるのは簡単なことだ。
社交界という戦場の猛者である辺境伯夫人が気付かないはずがない。
二度目の期待を含む領主夫人からの視線には耐えきれず、討伐が終わった後に時間を設けて詳しくお話しすることになった。
その後もホーク領について色々と話を聞きながら、晩餐会は和やかな雰囲気で進んだ。
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