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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
138/205

116 久しぶりの

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 肉体的疲労よりも精神的疲労の方が勝った討伐の後、三日程の休暇を貰った。

 休暇といえど、やることは普段と大差がない。

 所長から禁止されたため、休暇中にはポーション作製ができないくらいだ。



「セイ」

「ホーク様、こんにちは」



 そんな訳で、薬草畑で日課の水遣りをし、薬草の様子を見ていると、団長さんがやって来た。

 顔を合わせるのは久しぶりな気がする。

 感じたことを言葉にすれば、昨日討伐から帰ってきたところだと答えが返ってきた。

 パーティーの前から行っていたので、かなり遠方への遠征だったようだ。

 それもあって、団長さんも今日から三日間お休みらしい。

 何気にお揃いだ。



「帰ってきたばかりだったんですね。お疲れ様です」

「ありがとう。セイもパーティー大変だったろう。お疲れ様」

「ありがとうございます」

「今回のエスコート役はレイン殿下だったか?」

「そうですね。【聖女】関連の統括をしているからって、準備も色々と手伝っていただいたんですよ」

「そうか。あの方は優秀だから、そつなく準備は進んだろう?」

「はい。とても助かりました」

「私も助けになれれば良かったんだが……」

「いえいえ、ホーク様にはホーク様のお仕事がありますから」

「そうだな。ただ、エスコートは私がしたかったな……」



 こ、この人はっ!

 相変わらず、唐突に爆弾を落としてくるのは止めてほしい。

 残念そうに、儚げに微笑みながら言われると、私が悪い訳ではないと分かっていても、罪悪感が半端ない。


 慌ててフォローしようとしたら、団長さんは耐えきれないという風に声を殺して笑い出した。

 待って、もしかして今の冗談?

 また揶揄われた!?

 全く、もうっ!



「揶揄わないでください」

「すまない。だが、エスコートしたかったのは本音だ」

「ソウデスカ。……、では、また機会があった時にでも」

「あぁ。その時は、喜んでエスコートさせてもらおう」



 憮然とした顔で物申したら、追撃を喰らった。

 ソウデスカ、ホンネデシタカ。

 何だか恥ずかしくて、団長さんの目を見ることができない。

 そっと視線を逸らしながら、次回のことを口にすれば、団長さんが破顔したような気がした。



「ところで、参加した者に聞いたんだが、新しい料理が数多く並んだらしいな」

「はい。半数以上は新作でしたね」

「討伐の予定がなかったら参加したんだが……。食べることができなくて残念だ」

「全部ではないんですけど、いくつかは食堂でも出すようになったんですよ」

「そうなのか?」

「はい。あっ! 確か今日のお昼のメニューもそうです! もしよろしかったら、お昼をご一緒しませんか?」



 パーティーで出された料理のうち、いくつかは研究所の食堂で提供されるようになった。

 そして今日の日替わりメニューも、パーティーで提供された料理だった。

 そのことを思い出したので誘えば、団長さんは一も二もなく頷いた。


 時刻も真昼ではないけど、ギリギリ昼食を摂っても良さそうな時間だ。

 早速連れ立って、食堂へと移動した。



「綺麗な色だな。これは何ていう料理なんだ?」

「こちらはパエリアという米料理です」

「これがか。あぁ、綺麗な色の米料理があったという話を聞いたんだ」

「そうだったんですね」



 本日のお昼のメニューは、パエリアと鶏肉のトマトソース煮込みに、サラダと野菜スープが付いていた。

 パエリアの黄色にトマトソースの赤色、それからサラダの緑色と彩り鮮やかだ。


 輸送の問題があり、パエリアには魚介ではなく豚肉が使われている。

 豚肉に鶏肉と、本日のメニューは中々に肉々しい。

 けれども、団長さんにとっては歓迎すべきことだったようだ。

 料理を見つめる目は、とても輝いていた。


 パーティーでの評判は良かったけど、団長さんにも当てはまるかは別問題だ。

 慣れない米料理に、サフランという馴染みのない香辛料を使っていることから、団長さんの口に合うかが少し心配だった。

 しかし、杞憂に終わったようだ。

 洋風の味付けだったからか、団長さんは美味しいと言ってくれ、おかわりまでしたほどだった。



「そういえば、セイも昨日まで討伐に行ってたそうだな」

「はい。すぐ近くにですけど」

「どうだった?」

「んー、あまり魔物は出なかったので、討伐という感じはしませんでしたね」

「そうなのか?」

「はい。以前、南の森に行った時のような感じでした」



 食事が終わり、食器も下げた後は、特にすることもなかったので、そのまま食堂でティータイムとなった。

 お茶を飲みながら訊かれたのは、先日行った討伐についてだ。

 王都近くでの討伐で、南の森のようだったと言うと、団長さんは諸々のことを察してくれたようだった。


 口元に手を当てているけど、目が笑みの形を描いているので、笑いを堪えているのは筒抜けだ。

 どうせ、南の森でのことを思い出したのだろう。

 はいはい、私がいると弱い魔物は出ませんよね。

【聖女】がいるだけで周辺の瘴気は薄くなり、魔物が出なくなるっていう説は昔からあるもの。

 何も言わずとも、口を尖らせただけで、私が何に拗ねているのかは通じたらしい。

 堪えきれないとばかりに、団長さんは本格的に笑い出した。



「今回は第一騎士団と一緒だったと聞いたが」

「はい。初めて一緒に行ったんですけど……」

「何かあったのか?」



 一頻り笑った後、団長さんは少し真面目な顔をして話題を変えた。

 訊かれたのは同行者についてだ。

 第三騎士団の長だからか、第一騎士団との討伐だったのは御存知だったようだ。


 正直に言えば、非常に疲れる討伐だった。

 主に気疲れで。

 けれども、それをそのまま団長さんに伝えるのは少し悩ましかった。

 それもあって言い淀むと、すぐさま団長さんの表情が心配で曇った。



「あ、いえ。何かあった訳じゃないんですけど、何だかキラキラしている人が多くて……」

「キラキラ?」

「第二騎士団の人達のようっていうか、あれはお姫様扱いって言うんでしょうか?」



 慌てて取り繕えば、団長さんの表情が怪訝なものへと変わる。

 流石に抽象的過ぎたか。

 とはいえ、何と言えば通じるかと考えながら、第一騎士団との遣り取りをしどろもどろになりながら説明する。

 思い返しても、お姫様扱いだったよなとは思うけど、この国の紳士のマナーとしては問題はなかったようにも思う。

 普段、社交から離れているから知らないだけで、貴族としては普通の対応だったのだろうか?


 説明の最後に団長さんに確認すると、団長さんは微妙に答えに窮した。

 そうでもあるし、そうでもないと煮え切らない返答だ。

 まぁ、世の中には色々な人がいるので、人によって異なると言うことなのかもしれない。


 妙な空気を変えようと、今度は団長さんが行っていた討伐について尋ねてみた。

 企みは成功したようで、団長さんも表情を戻して、討伐のことを話し始めた。


 彼方此方で黒い沼を浄化して回ったお陰か、このところ全国的に魔物の湧きは落ち着いていた。

 しかし、最近また魔物が増えてきた地域があるらしい。

 団長さんの今回の遠征も、そういう地域での原因調査のためのものだったそうだ。


 今回赴いたのは、王都からかなり離れた場所だった。

 この国では、王都から離れるほどに強い魔物が出るらしい。

 そのため、訪問先の魔物も王都周辺より強く、騎士さん達だけではなく団長さんも行くことになったのだとか。



「それで、魔物が増えた原因は判ったんですか?」

「いや、まだ判っていない。めぼしい場所は探したんだがな」

「魔物が増えている地域に何か共通点はありませんか?」

「それも調べたらしいが、特にないそうだ」



 団長さんも参戦した討伐だったけど、結局原因は判明しなかったそうだ。

 共通点もないと言う。

 魔物の増加は国を揺るがす大事だから、その調査には多くの人手が割かれているはずだ。

 それも、王宮で働けるような優秀な人達ばかり。

 それでも原因が見つからないと言うのだから、複数の要因が複雑に絡まっているのだろうか?

 それとも……。


 そんな風に考えていると、ふと先日の光景が頭を過った。



「めぼしい場所ってどういう所なんですか?」

「まずは森の中だな。次は平原。後は湖等の水場があれば、その周辺だろうか」

「洞穴や洞窟の中は探されないんですか?」

「その辺りも調査対象に入っているが、まだ確認できていない所が多いな」



 団長さんの話では、全ての候補地を一度に調査するには人員が足りていないらしい。

 だから、効率を重視して、原因がある可能性が高く、調査しやすい所から調査しているんだそうだ。


 思い付いたから口にしたけど、洞窟はともかく、小さな洞穴なんて存在が見つかっていない物もありそうだ。

 どこにあるかも分からない洞穴を探して、更に調査してとなると、とてもじゃないが人数が足りないのは理解できる。



「もしかしたら、そういう所に黒い沼が発生していたりするかもしれませんね」

「あり得る話だな」



 そう話していた翌日、王宮からお呼びが掛かった。

 噂をすれば何とやら。

 とある領地の洞窟で、黒い沼が見つかったそうだ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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アイラちゃん主人公のお話ということで、本編では語られていないお話も入っております。

ご興味のある方はお手に取っていただけると幸いです。


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下記の放送局やサイトでご覧いただけますので、ご興味のある方は是非ご覧くださいませ。



・放映情報

 AT-X:

  4月6日より毎週火曜 23:30~

 TOKYO MX:

  4月6日より毎週火曜 24:30~

 MBS:

  4月6日より毎週火曜 27:00~

 BS11:

  4月7日より毎週水曜 24:00~


・配信情報(地上波先行・単独最速配信!)

 ひかりTV:

  4月6日より毎週火曜24:00~

 dTVチャンネル:

  4月10日より毎週土曜24:00~


よろしくお願いいたします!


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「聖女の魔力は万能です」のコミック10巻が1/17に発売されます!
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