116 久しぶりの
ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!
肉体的疲労よりも精神的疲労の方が勝った討伐の後、三日程の休暇を貰った。
休暇といえど、やることは普段と大差がない。
所長から禁止されたため、休暇中にはポーション作製ができないくらいだ。
「セイ」
「ホーク様、こんにちは」
そんな訳で、薬草畑で日課の水遣りをし、薬草の様子を見ていると、団長さんがやって来た。
顔を合わせるのは久しぶりな気がする。
感じたことを言葉にすれば、昨日討伐から帰ってきたところだと答えが返ってきた。
パーティーの前から行っていたので、かなり遠方への遠征だったようだ。
それもあって、団長さんも今日から三日間お休みらしい。
何気にお揃いだ。
「帰ってきたばかりだったんですね。お疲れ様です」
「ありがとう。セイもパーティー大変だったろう。お疲れ様」
「ありがとうございます」
「今回のエスコート役はレイン殿下だったか?」
「そうですね。【聖女】関連の統括をしているからって、準備も色々と手伝っていただいたんですよ」
「そうか。あの方は優秀だから、そつなく準備は進んだろう?」
「はい。とても助かりました」
「私も助けになれれば良かったんだが……」
「いえいえ、ホーク様にはホーク様のお仕事がありますから」
「そうだな。ただ、エスコートは私がしたかったな……」
こ、この人はっ!
相変わらず、唐突に爆弾を落としてくるのは止めてほしい。
残念そうに、儚げに微笑みながら言われると、私が悪い訳ではないと分かっていても、罪悪感が半端ない。
慌ててフォローしようとしたら、団長さんは耐えきれないという風に声を殺して笑い出した。
待って、もしかして今の冗談?
また揶揄われた!?
全く、もうっ!
「揶揄わないでください」
「すまない。だが、エスコートしたかったのは本音だ」
「ソウデスカ。……、では、また機会があった時にでも」
「あぁ。その時は、喜んでエスコートさせてもらおう」
憮然とした顔で物申したら、追撃を喰らった。
ソウデスカ、ホンネデシタカ。
何だか恥ずかしくて、団長さんの目を見ることができない。
そっと視線を逸らしながら、次回のことを口にすれば、団長さんが破顔したような気がした。
「ところで、参加した者に聞いたんだが、新しい料理が数多く並んだらしいな」
「はい。半数以上は新作でしたね」
「討伐の予定がなかったら参加したんだが……。食べることができなくて残念だ」
「全部ではないんですけど、いくつかは食堂でも出すようになったんですよ」
「そうなのか?」
「はい。あっ! 確か今日のお昼のメニューもそうです! もしよろしかったら、お昼をご一緒しませんか?」
パーティーで出された料理のうち、いくつかは研究所の食堂で提供されるようになった。
そして今日の日替わりメニューも、パーティーで提供された料理だった。
そのことを思い出したので誘えば、団長さんは一も二もなく頷いた。
時刻も真昼ではないけど、ギリギリ昼食を摂っても良さそうな時間だ。
早速連れ立って、食堂へと移動した。
「綺麗な色だな。これは何ていう料理なんだ?」
「こちらはパエリアという米料理です」
「これがか。あぁ、綺麗な色の米料理があったという話を聞いたんだ」
「そうだったんですね」
本日のお昼のメニューは、パエリアと鶏肉のトマトソース煮込みに、サラダと野菜スープが付いていた。
パエリアの黄色にトマトソースの赤色、それからサラダの緑色と彩り鮮やかだ。
輸送の問題があり、パエリアには魚介ではなく豚肉が使われている。
豚肉に鶏肉と、本日のメニューは中々に肉々しい。
けれども、団長さんにとっては歓迎すべきことだったようだ。
料理を見つめる目は、とても輝いていた。
パーティーでの評判は良かったけど、団長さんにも当てはまるかは別問題だ。
慣れない米料理に、サフランという馴染みのない香辛料を使っていることから、団長さんの口に合うかが少し心配だった。
しかし、杞憂に終わったようだ。
洋風の味付けだったからか、団長さんは美味しいと言ってくれ、おかわりまでしたほどだった。
「そういえば、セイも昨日まで討伐に行ってたそうだな」
「はい。すぐ近くにですけど」
「どうだった?」
「んー、あまり魔物は出なかったので、討伐という感じはしませんでしたね」
「そうなのか?」
「はい。以前、南の森に行った時のような感じでした」
食事が終わり、食器も下げた後は、特にすることもなかったので、そのまま食堂でティータイムとなった。
お茶を飲みながら訊かれたのは、先日行った討伐についてだ。
王都近くでの討伐で、南の森のようだったと言うと、団長さんは諸々のことを察してくれたようだった。
口元に手を当てているけど、目が笑みの形を描いているので、笑いを堪えているのは筒抜けだ。
どうせ、南の森でのことを思い出したのだろう。
はいはい、私がいると弱い魔物は出ませんよね。
【聖女】がいるだけで周辺の瘴気は薄くなり、魔物が出なくなるっていう説は昔からあるもの。
何も言わずとも、口を尖らせただけで、私が何に拗ねているのかは通じたらしい。
堪えきれないとばかりに、団長さんは本格的に笑い出した。
「今回は第一騎士団と一緒だったと聞いたが」
「はい。初めて一緒に行ったんですけど……」
「何かあったのか?」
一頻り笑った後、団長さんは少し真面目な顔をして話題を変えた。
訊かれたのは同行者についてだ。
第三騎士団の長だからか、第一騎士団との討伐だったのは御存知だったようだ。
正直に言えば、非常に疲れる討伐だった。
主に気疲れで。
けれども、それをそのまま団長さんに伝えるのは少し悩ましかった。
それもあって言い淀むと、すぐさま団長さんの表情が心配で曇った。
「あ、いえ。何かあった訳じゃないんですけど、何だかキラキラしている人が多くて……」
「キラキラ?」
「第二騎士団の人達のようっていうか、あれはお姫様扱いって言うんでしょうか?」
慌てて取り繕えば、団長さんの表情が怪訝なものへと変わる。
流石に抽象的過ぎたか。
とはいえ、何と言えば通じるかと考えながら、第一騎士団との遣り取りをしどろもどろになりながら説明する。
思い返しても、お姫様扱いだったよなとは思うけど、この国の紳士のマナーとしては問題はなかったようにも思う。
普段、社交から離れているから知らないだけで、貴族としては普通の対応だったのだろうか?
説明の最後に団長さんに確認すると、団長さんは微妙に答えに窮した。
そうでもあるし、そうでもないと煮え切らない返答だ。
まぁ、世の中には色々な人がいるので、人によって異なると言うことなのかもしれない。
妙な空気を変えようと、今度は団長さんが行っていた討伐について尋ねてみた。
企みは成功したようで、団長さんも表情を戻して、討伐のことを話し始めた。
彼方此方で黒い沼を浄化して回ったお陰か、このところ全国的に魔物の湧きは落ち着いていた。
しかし、最近また魔物が増えてきた地域があるらしい。
団長さんの今回の遠征も、そういう地域での原因調査のためのものだったそうだ。
今回赴いたのは、王都からかなり離れた場所だった。
この国では、王都から離れるほどに強い魔物が出るらしい。
そのため、訪問先の魔物も王都周辺より強く、騎士さん達だけではなく団長さんも行くことになったのだとか。
「それで、魔物が増えた原因は判ったんですか?」
「いや、まだ判っていない。めぼしい場所は探したんだがな」
「魔物が増えている地域に何か共通点はありませんか?」
「それも調べたらしいが、特にないそうだ」
団長さんも参戦した討伐だったけど、結局原因は判明しなかったそうだ。
共通点もないと言う。
魔物の増加は国を揺るがす大事だから、その調査には多くの人手が割かれているはずだ。
それも、王宮で働けるような優秀な人達ばかり。
それでも原因が見つからないと言うのだから、複数の要因が複雑に絡まっているのだろうか?
それとも……。
そんな風に考えていると、ふと先日の光景が頭を過った。
「めぼしい場所ってどういう所なんですか?」
「まずは森の中だな。次は平原。後は湖等の水場があれば、その周辺だろうか」
「洞穴や洞窟の中は探されないんですか?」
「その辺りも調査対象に入っているが、まだ確認できていない所が多いな」
団長さんの話では、全ての候補地を一度に調査するには人員が足りていないらしい。
だから、効率を重視して、原因がある可能性が高く、調査しやすい所から調査しているんだそうだ。
思い付いたから口にしたけど、洞窟はともかく、小さな洞穴なんて存在が見つかっていない物もありそうだ。
どこにあるかも分からない洞穴を探して、更に調査してとなると、とてもじゃないが人数が足りないのは理解できる。
「もしかしたら、そういう所に黒い沼が発生していたりするかもしれませんね」
「あり得る話だな」
そう話していた翌日、王宮からお呼びが掛かった。
噂をすれば何とやら。
とある領地の洞窟で、黒い沼が見つかったそうだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
スピンオフ「聖女の魔力は万能です ~もう一人の聖女~」のコミック1巻が昨日(4/5)発売されました!
アイラちゃん主人公のお話ということで、本編では語られていないお話も入っております。
ご興味のある方はお手に取っていただけると幸いです。
それから、いよいよ今晩(4/6)から「聖女の魔力は万能です」のアニメが放送されます!
下記の放送局やサイトでご覧いただけますので、ご興味のある方は是非ご覧くださいませ。
・放映情報
AT-X:
4月6日より毎週火曜 23:30~
TOKYO MX:
4月6日より毎週火曜 24:30~
MBS:
4月6日より毎週火曜 27:00~
BS11:
4月7日より毎週水曜 24:00~
・配信情報(地上波先行・単独最速配信!)
ひかりTV:
4月6日より毎週火曜24:00~
dTVチャンネル:
4月10日より毎週土曜24:00~
よろしくお願いいたします!