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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
137/205

115 第一騎士団

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 パーティーも終わり、研究所でのんびりと仕事をしていたある日、またまた国王陛下と宰相様に呼び出された。

 パーティーは無事に終わったと思っていたけど、何か問題があったんだろうか?

 不思議に思って、陛下達から言伝を預かってきた文官さんに呼ばれた理由を尋ねれば、討伐を依頼したいからだと言う。


 討伐依頼で呼び出されることは久しぶりだ。

 このところは黒い沼が見つかったという話も聞かなかったんだけど、もしかしてどこかで見つかったのだろうか?

 少しだけ不安に思いながら、所長と一緒に陛下の執務室へと向かった。


 執務室の中には、陛下と宰相様が揃っていた。

 陛下に勧められて応接セットのソファーに座ると、先日のパーティーについてのお礼を言われた。

 パーティーの評判は上々だったようで、ほっと一息吐く。

 そうして、陛下達に届いた参加者の感想を軽く聞いた後に、本題へと移った。


 今回討伐へ向かうのは、王都の隣の領地だ。

 クラウスナー領のように軍事物資の一大産地だとか、国全体の食を支えている大きな穀倉地帯だとか、そういう特色はない。

 ただ、割と大きな街道が通っていて、領都はその街道の要所の一つだった。

 今回の討伐では、その領地にある街道側の森に、第一騎士団と向かって欲しいという話だった。



「第一騎士団とですか?」

「はい。何か問題がありましたでしょうか?」

「いえ。第一騎士団と討伐に行くのは初めてだなと思いまして」



 これまで討伐に行く時は、第二か第三騎士団と一緒だった。

 それが第一騎士団だと言うので、つい聞き返す。

 第一騎士団には知り合いはいないので少しだけ不安だ。

 宮廷魔道師団の人達は一緒だろうか?

 そっちに知り合いがいれば、いいんだけど。


 隣に座る所長が苦い表情をしているのにも気付かず、そんな風に考えていると、宰相様が第一騎士団と一緒に行くことになった理由を説明してくれた。

 彼方此方の黒い沼を浄化したことにより、現在魔物の湧きは以前よりも少なくなっている。

 それでもまだ出る所には出るため、騎士団の中でも最も魔物の討伐に慣れている第三騎士団が各地へと遠征に出向いていた。

 第二騎士団も同様で、現在は出払っている。

 残ったのが第一騎士団だ。


 第一騎士団は普段は王都の治安維持を担当している部署らしい。

 魔物の討伐にはあまり行かないけど、今回の討伐にはうってつけだった。

 今回行く場所は、それほど強い魔物は出ず、王都からも近いからだ。


 話を聞く限り、緊迫した様子はない。

 以前、遠征に行った時と同様に、政治的な判断で向かうことになったのだろう。



「とまぁ、ここまでが建前でして」

「はい?」



 一通りの説明を聞いて、納得していると、宰相様が卓袱台をひっくり返した。

 もちろん、物理ではない、言葉でだ。



「先日パーティーを開催していただいたセイ様には、大変申し上げにくいことなのですが……」



 目を点にしていると、宰相様のぶっちゃけトークが始まった。

 結論から言うと、今回の討伐はお見合いなのだそうだ。

 発端となったのは先日のパーティーだ。


 宰相様の話によると、あのパーティーの招待客は各派閥満遍なく網羅するようにバランスを考えて選ばれていた。

 けれども、偏りがなかった訳ではない。

 所属部署はともかく、普段の作業内容を考えると文官寄りの人達が多かった。

 例えば、騎士団に所属していても、討伐には行かず、経理事務を専門に担当している人というように。


 招待客が文官寄りの人達ばかりになったのには、もちろん理由がある。

 一つは、私と関わりのある人間は薬用植物研究所か、討伐で一緒になる騎士団や宮廷魔道師団の人達が多く、必然的に武官ばかりに偏っているのを是正するため。

 普段、【聖女】と知り合う機会がない人達に機会を与えるためというもの。


 もう一つは、王都から離れた場所へ遠征していて、パーティーに参加することができなかった騎士団や宮廷魔道師団の人達が多かったからだ。

 実際に、第三騎士団の団長さんも、宮廷魔道師団の師団長様もパーティーの日は遠方にいたため、参加していない。

 パーティーに参加していたのは、御家族の方ばかりだった。


 それでも、第二、第三騎士団と宮廷魔道師団の人達は討伐で一緒になることが多いため、苦情は出なかった。

 パーティーで出た料理が食べられなかったことを残念がる声が聞こえてきた位だ。

 しかし、収まらなかったのが第一騎士団だ。


 今度は自分達だけが機会を与えられていないということで、第一騎士団が【聖女】との討伐を要請してきたのだそうだ。

 そうして、今に至る。



「そうですか。この討伐は政治的な判断で行くものということですね?」

「そういうことだ。すまない」



 確認するように問うと、申し訳なさそうな表情を浮かべた陛下が返事をしてくれた。

 陛下達が判断して決めたことなら、従っておいた方がいいだろう。

 絶対的な味方だとは思わないけど、今までもかなり配慮してくれていたのだ。

 それなりの信用はある。

 今回も、これが私にとっても最善だと思い、提案してくれているに違いない。

 討伐に了承の返事をすると、陛下と宰相様がほっとしたようにお礼を言ってくれた。






 そうして迎えた、第一騎士団との討伐。

 宰相様から聞いていた通り、出てくる魔物は弱く、道程は順調だった。

 そもそも魔物がほとんど出なかったのだ。

 原因は考えるまでもない。


 合間に挟まれた休憩時間のことを考えると、討伐というよりも、むしろピクニックといった方が正解かもしれない。

 第二や第三騎士団と行く際と同様に、休憩時間には食事や飲み物が振る舞われた。

 食事等を取りながら近くに座る騎士さん達と雑談をしたりして、交流を深めるのも同じだ。


 違うのは、周りの騎士さん達の行動だ。

 入れ替わり立ち替わり、色々な騎士さんが私の世話を焼きに来るのだ。

 それも一度に複数人。


 まず、休憩時間になると、用意された床几に騎士さんのエスコート付きで案内される。

 その騎士さんとは別にもう一人、反対側にも騎士さんはいて、席までの短い間は二人と話しながら移動となる。

 二人体制のエスコート、両手に花というやつだ。


 次に、食事や飲み物は随伴してきた従僕さんが準備してくれるのだけど、彼等が運んでくれるのは途中まで。

 従僕さんが近くまで運んできてくれた食事や飲み物を、私の側にいる騎士さんが受け取り、笑顔と共に、私へと手渡してくれる。

 この時の騎士さんは、席まで案内してくれた騎士さん達とは別の人だ。


 案内される席は円陣が組まれているんだけど、エスコートしてくれた騎士さんは大抵両隣に座る。

 その他の席に座るのは、配膳してくれた騎士さんを含めた四人の騎士さんだ。

 そして、飲食中は同席している騎士さん達と雑談をしながら過ごす。

 ちなみにメンバーは休憩時間毎に総入れ替えなので、毎回自己紹介から始まる。


 実は顔見知りの宮廷魔道師さんもこの討伐に同行してくれているのだけど、こちらの席には来てもらえない。

 最初の休憩の時に遠巻きに目が合ったんだけど、気の毒そうな表情をされただけ。

 何だか、売られていく子牛の気分になったわ。


 そういえば、第二騎士団との討伐も最初はこんな感じだったわね。

 あそこは第一騎士団よりも更に酷かったかもしれない。

 なんてったって、あそこの人達は【聖女】である私を神聖視しているから、正に傅かれていた。

 それが非常に気まずくて、二回目からは第三騎士団と同様に自分か、せめて従僕さんに準備してもらうように拝み倒したんだっけ?

 その甲斐あって、三回目辺りから落ち着いて討伐に行けるようになったんだったか。



「ふぅ……」

「お疲れですか?」



 三度目の休憩を終えて、少しの間だけ騎士さん達から解放されたところで、思わず溜息を吐く。

 誰にも聞かれていないと思っていたんだけど、残念ながら聞かれてしまったらしい。

 後ろから、苦笑いを含んだ声が掛けられた。

 振り返ると、そこにいたのは第一騎士団の副団長様だった。


 第一騎士団の人達は皆上品で、物腰も優雅な人ばかりだ。

 しかし、万が一強引に距離を縮めようとする者が出てはいけないからと、妻帯者である副団長様が監督役として参加していた。



「少しだけ。でも、もう折り返し地点は過ぎてますし、後少し頑張ります」

「セイ様には御無理をさせてしまっていますね。うちの者達が大変申し訳ありません」



 副団長様の後半の台詞は、周りに聞こえないような小さな声で囁かれた。

 何に疲れているかは、まるっとお見通しのようだ。

 困ったように微笑む副団長様に、同じような笑みを返した。



「こちらこそ、申し訳ないです。あまりこういう扱いに慣れていないもので……」

「団長からも伺っております。うちの者達にも、あまり仰々しいことはしないように伝えてはいたのですが……」



 副団長様とコソコソと話しながら、再び移動を始める。

 人疲れしていると伝えたからか、そこからの道程では副団長様がほぼ隣にいた。

 副団長様と話している間は、何故だか他の騎士さん達は近寄ってこない。

 予め言い含められていたのかしら?

 お陰で少し緊張が解れた。


 行程も残り僅か。

 森の中を、円を描くように歩いて来たけど、最後は来た時と同じ道を通る。

 そこに差し掛かれば、森を出るまで後少しなので、魔物以外のことに気を回す余裕もできた。

 時折、道端に生えている薬草を見付けながら歩いていると、行きでは気付かなかった所に洞穴があるのを見付けた。


 ぽっかりと開いた洞穴は奥まで見通すことはできず、ここからでは暗闇があることしか分からない。

 その暗闇を見ていると、ふと日本でやっていたゲームの仕様を思い出した。

 ゲームでは平原よりも森、森よりも洞窟の方が魔物が多く出たのよね。

 そういえば、この世界の瘴気も森や洞窟等の暗い場所に溜まりやすいと学んだ覚えがある。

 とすれば、もしかしたら……。



「いかがされましたか?」

「あ、すみません」



 薬草に手を伸ばしたまま固まった私を心配して、副団長様が声を掛けてきた。

 道端に生えていた薬草を採ろうとしゃがんだところで洞穴を見付けてしまい、ついそのまま考え込んでしまった。

 考え事に集中すると、その姿勢のまま固まるなんて、悪い癖だ。

 副団長様に謝って、慌てて薬草を摘む。



「彼処に洞穴を見付けてしまって」

「あぁ、ありますね。事前調査で報告が上がっていました」

「ああいう所には瘴気が溜まりやすいと伺ったんですけど、今日は見に行かなくてもいいんですか?」

「はい。あの洞穴は浅いので、森の中とそれほど変わらないのですよ」



 立ち上がってから洞穴の方を指差すと、副団長様もそちらを向いた。

 私が聞いていなかっただけで、討伐の事前調査で洞穴の存在は報告に上がっていたようだ。

 中にも入って確認したようで、脅威度がそれほど高くないことから、今日の対象場所からは外されていたそうだ。

 行きましょうかと副団長様に促されたこともあり、その場を離れて再び歩き出す。

 でも、何となく後ろ髪を引かれた。


 あの洞穴は問題ないと副団長様が太鼓判を押してくれたけど、他の場所はどうなんだろう?

 考えると、ほんのりとした不安が胸を過ぎった。

 その不安が的中してしまうのは、王都に帰ってから少し経ってのことだった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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この後、13:20よりniconico様、YouTubeLive様にて配信されますので、ご興味のある方は下記のサイトでご覧ください。


・niconico様

 https://live.nicovideo.jp/watch/lv330871214


・YouTubeLive様

 https://www.youtube.com/watch?v=cKa2A_-hCUI


よろしくお願いいたします!


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