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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
136/205

114 目標

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 パーティーが盛況のうちに終わった、二週間後。

 研究所の食堂に師団長様がやって来た。

 目的は米料理だ。


 沢山の人を招いたパーティーだったけど、生憎と師団長様は欠席だった。

 それというのも、少し前から、王都より離れた領地で魔物の討伐に勤しんでいたから。


 もちろん、私がパーティーを開くことを師団長様は知っていた。

 けれども、そのパーティーで米料理が提供されるとは思っていなかったらしい。

 そうね、材料であるお米自体が貴重だから、まさかパーティーで大盤振る舞いするとは思わないわよね。

 研究に使うという師団長様にだって、潤沢に行き渡る程は渡していないんだし。


 それに加えて、パーティーには新作の米料理が出されたのだ。

 米料理に取り憑かれている師団長様が、その話を聞いて地団駄を踏んで悔しがったのも仕方ない。

 うん、仕方がないとは思う。

 でもね、話を聞いた直後に、自分も食べたいと宮廷魔道師団で大騒ぎして、その足で「私にも食べさせてください!」って研究所にまで突撃してくるとは思わなかったよね。

 もっと穏便に、最初は魔法の講義のときにでも話を聞かれるんじゃないかなって思ってたわ。


 あぁ、宮廷魔道師団で大騒ぎした(くだり)を教えてくれたのは、師団長様の後を追って来た宮廷魔道師さんだ。

 きっと、インテリ眼鏡様に言われて、追いかけて来たんだと思う。

 申し訳ないと平謝りしながら、経緯を教えてくれた。

 最終的に、研究所の食堂で師団長様に米料理を食べさせることを約束したわ。

 そうしないと、師団長様、帰りそうになかったしね。


 そうして企画されたのが、研究所の食堂での新作料理発表会だ。

 というのも、パーティーに参加していないのは師団長様だけではなかったから。

 所長を始めとして、うちの研究員さん達は軒並み来ていなかった。

 だから、どうせ作るなら皆にも食べてもらうことにした。


 いつもは自分の好きな定食を選ぶ形なんだけど、この日はパーティーと同じようにビュッフェ形式にした。

 出すのはパーティーで出された料理の他に、ここだけの新作料理もある。

 ほとんど米料理だけどね。

 突撃して来たついでに、他にもないのかと師団長様に訊かれたので、可能そうな物を出すことにしたのだ。


 新作料理発表会の当日、時刻はお昼前。

 研究所の食堂には、いつもより多くの研究員さん達が集まっていた。

 今日の食堂では、先日のパーティーで並んだ珍しい料理も並ぶということで、普段であれば時間をずらしてくる人達も開始時間に一斉に集まってきたようだ。


 所長とジュード達に新しい料理の説明をしていると、師団長様もやって来た。

 てっきり宮廷魔道師さんも連れてくるかなと思っていたんだけど、予想に反してお一人のようだ。



「今日はよろしくお願いいたします。昨日から楽しみで待ちきれませんでした」

「こんにちは。本日はお一人ですか?」

「はい。どうかしましたか?」

「いえ、もしかしたら宮廷魔道師団の方も来られるかと思っていたので」

「希望者はいましたが、今日はこちらでの内々のお披露目会だと伺いましたので、私だけで参りました。米はそれほど量がある訳ではありませんしね」

「分かりました。それでは、どうぞお好きな料理をお取りになってお召し上がりください」



 今の挨拶で、何で師団長様が一人で来たかは大体把握できた。

 なるべく多くの米料理を食べるために、他の人は置いてきたようだ。


 鼻歌でも歌い出しそうな様子で、ニコニコとしながら挨拶をした師団長様は、私が返事をするやいなや米料理が置かれている辺りへと一直線に向かっていった。

 そんな師団長様の後ろ姿を苦笑しながら見たのは、私だけではない。

 師団長様の米料理に掛ける情熱を知っている研究員さん達もだ。


 師団長様は用意されている米料理から一番近い席に陣取ると、全ての米料理を自分の席へと持ってきた。

 先日のパエリアを筆頭に、おにぎり、混ぜ寿司、オムライスに炒飯等々、並べられたのは全て米料理だ。

 米料理しか食べる気はないと言わんばかり。


 そのまま食べ始めるかと思いきや、師団長様が最初に行ったのは料理の鑑定だ。

 使える人が少ない鑑定魔法を惜しげもなく使用し、次々と新作料理の効果を調べていく。

 ふむふむと頷きながら、どこからか取り出したメモ帳に鑑定結果をメモしているのだけど、珍しい効果がある物があったのか小さく歓声を上げることもあった。


 うん、安定の師団長様だね。

 師団長様も大概だけど、うちの研究員さん達も似たようなものだ。

 鑑定結果が気になるのか、何人かの研究員さんが師団長様に声を掛けて、メモを見せてもらっていた。

 中には、ついでとばかりに米料理以外の新作料理まで師団長様に鑑定させている強者もいた。

 そして、一通りの鑑定が終わった後、漸く師団長様は料理に口を付けたのだった。



「ふぅ。あ、セイ様。とても美味しかったです。ありがとうございます」

「いえ。何か新しい発見はありましたか?」

「えぇ! こちらのオムライスですが、もしかして以前食べた物と違う材料で作られていませんか?」

「そうですね……。中のチキンライスの具が変わってるかもしれません」

「それです! 実は以前調査したときよりもMPの上昇率が上がっていまして……」



 食べ終わった師団長様にお茶を持って行くと、満面の笑みを浮かべた師団長様からお礼を言われた。

 私も例に漏れず、料理の鑑定結果が気になっていたので水を向けると、師団長様は勢いよく話し始めた。

 同じ料理でも、使う材料によって効果の高さが変わったりするのね。

 ポーションも同様なので当然か。

 とはいえ、師団長様には当たり前のことではなかったのか、今日の結果を踏まえた上での、これからの実験の方針を非常に興奮した様子で熱く語っていた。


 米料理について一通り語り終えた後は、お互いの近況報告となった。

 パーティーに師団長様と同じ名字の人が来ていたという話をしたのだけど、師団長様は全く関心がないようで「そうですか」と一言返しただけで話は終わってしまった。


 師団長様の方はというと、最近は魔物の討伐に精を出していたそうだ。

 討伐は宮廷魔道師団の主な仕事の一つだからというのもあるけど、基礎レベルを上げたいからという理由もあったのだとか。

 ただ、師団長様の基礎レベルは高く、王都周辺の魔物を討伐しても、中々レベルが上がらないらしい。

 そこで、王都から離れた、強い魔物がいる地方に態々遠征して、レベル上げを行っていたのだそうだ。

 その甲斐あって、出会った当初からは4レベル上がって、現在のレベルは49レベルなんだとか。



「後1レベルで50レベル。セイ様とのレベル差も5レベルまで縮みますね」

「私とのレベル差ですか?」



 嬉しそうに話す師団長様だったけど、唐突に私とのレベル差の話をするので気になった。

 どういうことかと確認すると、話は鑑定魔法のことに及んだ。

 どうも、私に鑑定魔法が弾かれたことが発端らしい。


 鑑定魔法は掛ける人よりも掛けられる人の方の基礎レベルが高いと弾かれることがある。

 前に私が師団長様の鑑定魔法を弾いてしまったのも、それが理由だ。

 それで、次の機会には鑑定魔法を弾かれないようにと、レベル上げを頑張っているらしい。



「次の機会? 以前は、別に鑑定しなくても良いというお話だったかと思いますが」

「それはですね……」

「それは?」

「セイ様の全てが知りたいからです」

「やめてください」



 多分、米料理と同様に【聖女の術】にも興味を持つ師団長様としては、【聖女】のステータスが見たいだけなのだと思う。

 ただ、聞き取り方によっては別の意味にも聞こえる。

 勿体付けてからの意味深な言葉に、分かっていても突っ込まざるを得なかった。



「あのー、大変申し訳ないのですが、私もレベルが上がっておりまして……」

「えっ!? そうなのですか?」



 追い付いたと思ったら、また離されていた現状に、師団長様は珍しく衝撃を受けた表情を見せた。

 期待を裏切って申し訳ないのだけど、師団長様の基礎レベルが上がったように、私の基礎レベルも上がっている。


 師団長様ですら上がり難いのに、更に高レベルな私のレベルが上がっているのは、恐らく黒い沼を浄化したせいだ。

 魔物が湧き出てくるだけあって、あの黒い沼を浄化すると沢山の経験値が入るっぽいのよね。

 きちんと調べた訳ではないから、あくまで私の感覚でだけど。


 でも、当たらずと雖も遠からずだと思う。

 だって、これだけ討伐に勤しんでいる師団長様が4レベル上げるうちに、私は2レベル上がっているもの。

 もしかしたら、他の理由もあるかもしれないけどね。

 例えば、私がこの世界とは別の世界から来ているからとか。

 現在のレベルと、それに伴うレベル上げの難易度を考えると、計算に合わないほどレベルが上がるのが早いし。



「そんな……」

「えーっと、最近は黒い沼の話も聞きませんし、そのうち追い付くと思いますよ」



 4レベル上げるための師団長様の努力を思うと、理不尽な話よね。

 いくら黒い沼の経験値が美味しいとしても、それを浄化できるのは今のところ私だけなんだもの。

 師団長様なら努力したらあるいは、似たような浄化の魔法を再現しかねないけど、それはそれで方向性が違うと思う。

 絶望とまではいかないけど、似たような表情を浮かべる師団長様に同情心が湧いた。


 推測した理由を説明しつつ、慰めると、「仕方がないですね」と少しだけ持ち直したようだ。

 この流れで、レベルが追い付いたら再鑑定させて欲しいとお願いされたら、断れないわよね。

 拗ねた表情の師団長様が続けて言ったお願いに、苦笑いを返しつつ、頷いた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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詳細を活動報告に載せましたので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。


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20日に見逃した方や、もう一度見たい方は是非ご覧くださいませ!


 3/27(土) 7:00~、22:00~ (2回放送されます)

 3/29(月) 29:30~

 4/3(土) 7:00~


・【AT-X】3月放送後半のWSBは「聖女の魔力は万能です」特集!

 https://www.youtube.com/watch?v=07EzRbsyD8w


よろしくお願いいたします!

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