表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
134/205

112 薔薇のジュース

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


 会場に入り、まず向かうのは会場の最奥に作られた演壇だ。

 主催だから、開会の挨拶をしないといけないのよね。

 主催の挨拶なんてなくしてしまいたかったけど、区切りだということでなくせなかった。

 とても残念だ。


 何とか挨拶を終えると、招待客達は待ちきれないとばかりに、お目当てのテントへと向かう。

 狙い通りだ。

 招待状にも書いたけど、今日のパーティーの中心は料理。

 私との顔合わせは入り口で終わっているのだから、こちらのことは気にせず、是非とも料理を堪能していただきたい。


 招待客がテントに殺到するのを尻目に、レイン殿下を促して、国王陛下と宰相様がいるテントに向かった。

 お偉いさん用のテントは、演壇にほど近い、会場の一番奥に(しつら)えられていた。

 入り口には騎士さん達が控え、許可のない人は立ち入れないようになっている。


 こちらのテントは料理が置かれているテントとは異なり、入り口以外の三方は横幕で閉ざされている。

 テントの中には、屋外だというのに絨毯が敷かれ、その上に折り畳みができる大きなテーブルと、同様の肘掛け椅子が置かれていた。

 隅には水差し等が置かれた小さなテーブルもある。



「ご苦労様」

「料理もすぐに来るでしょう。それまでゆっくりしていてください」

「ありがとうございます」



 テントの中では、既に陛下と宰相様が寛いでいた。

 疲れた顔をしていたのだろう。

 中に入ってきた私の顔を見た陛下が、苦笑いを浮かべながら労ってくれた。

 陛下の隣に座っていた宰相様も同じような表情を浮かべている。

 それにお礼を返しながら、従僕さんが引いてくれた椅子へとぐったりと腰掛けた。


 侍女さんが用意してくれた紅茶に口を付けて、束の間寛いでいると、新たなお偉いさんがやってきた。

 従僕さんの取り次ぎでやって来たのは、先程もお会いしたアシュレイ侯爵だった。

 侯爵様お一人でいらしたようで、他の方々は見受けられない。


 その代わりという訳ではないだろうけど、侯爵様の後ろには銀のトレイを持った、別の従僕さんが続いていた。

 一瞬、どうしたのかと疑問に思ったけど、トレイの上に載っている物を見て納得した。



「国王陛下に置かれましては、御機嫌麗しく存じます」

「あぁ、堅苦しい挨拶はいい。どうした?」

「こちらを陛下に献上いたしたく、参りました」

「それはワインか?」

「いいえ。我が領の特産品である薔薇を使ったジュースでございます」



 侯爵様はトレイの上に載っていた瓶を手に取り、陛下へと差し出す。

 同じ瓶に詰められているため、陛下はワインだと思ったようだ。

 ただ、侯爵様が態々持ってきたことから、少し疑問に思ったらしい。

 陛下の問い掛けに対して侯爵様が回答すると、意外だったのか「ほう」と感心したような声を上げた。



「よろしければ、お食事と一緒にいかがかと思い、お持ちいたしました」

「そうか。ならば、折角だから、こちらで乾杯しようか」

「酒ではありませんが、よろしいので?」

「構わない。これもセイ殿が作られたのだろう?」

「あ、はい」

「本来、乾杯は酒で行う物だが、セイ殿が作った物であれば、そちらの方が相応しいだろう」



 陛下からの問い掛けに頷くと、ジュースは侯爵様から従僕さんへと手渡された。

 やっぱり、薔薇のジュースではなくてリキュールを作った方が良かったかしら?

 でも、リキュールは漬ける時間が必要で、パーティーには間に合わなかったのよね。

 まぁ、陛下がジュースでもいいって言ってるから問題はないか。


 少しすると、従僕さんがジュースの入ったグラスを配膳してくれた。

 ワインとは異なる色合い、元の薔薇の色がグラスに透けて、とても綺麗だ。

 皆も口々に色合いを褒めるから、侯爵様も満更でもなさそう。

 陛下の音頭で乾杯をした後、ジュースを口にすると、今度は香りについて感嘆の声が上がった。



「香りが素晴らしいですね」

「そうだな。これは女性に人気が出そうだ」

「えぇ。事前に家族で試しましたが、妻と娘が殊の外、気に入っていましたね」

「飲み物一つで、この出来か。この後の料理も期待が高まるな」

「恐れ入ります」



 陛下がこちらを見ながら、料理への期待を口にしたので、そっと頭を下げた。

 今日のパーティーの内容は、アシュレイ侯爵夫人のお茶会で話していたことを基に企画した。

 料理は御婦人方が食べたがっていた、元の世界で食べられていた物ばかりで、王国各地の特産品が使われている。

 料理の中には飲み物も含まれていて、侯爵様が献上した薔薇のジュースも、その一つだ。


 どの領地の特産品を使って、どういう料理を作るかは、全てレイン殿下と話し合って決めた。

 レイン殿下との話し合いで決まったことは、陛下や宰相様、文官さん等の関係者とも共有した。

 陛下がどこまで確認していたかは分からない。

 けれども、ジュースが特産品で作られていると聞いて、すぐにパーティーの料理と結び付いたんだろう。

 それで、作り方を提供したのが私だと考えたんだと思う。

 このタイミングで侯爵様が陛下へと献上したことも、その考えを後押ししたんじゃないかな。


 ちなみに、レイン殿下と話し合うことになった理由は、招待客の選定の時と同じだ。

 政治的なバランスに配慮してってやつだ。

 しかも、招待客の時よりも気を使う必要があった。


 この国の常識でいうと、自領の特産品が【聖女】様に選ばれたというだけでも名誉なことらしい。

 その上、その特産品を使った料理の評判が良ければ、この後非常に高い売れ行きが見込める。

 名誉と金銭が絡むのだから、選ばれたい人達は多いってことね。

 だからこそ、政治的なバランスを考えなければいけないんだとか。

 うん、面倒い!



「こちらは市販の御予定はあるのでしょうか?」

「はい。ただ、私の商会ではなく、別の商会にお任せしようかと思っています」

「おや、そうなのですか?」

「うちの商会は化粧品を取り扱うので精一杯で……」

「ははは……、なるほど。セイ様の化粧品は大人気ですから、仕方ありませんな」



 宰相様にお伝えした通り、薔薇のジュースの製作販売は侯爵様お抱えの商会にお任せすることになっている。

 今日のパーティーで供している物で、ジュースの様に個別に販売できる物についても同様だ。

 無論、タダではない。

 各領主様が推薦する商会と、作った数や期間等に応じて使用料を貰う、元の世界でいうライセンス契約はきちんと結んである。

 また、個別に販売できない料理については、希望があればパーティーの後に同じ様な契約を結び、指定されたレストランでのみ提供を許可する予定だ。


 この案もレイン殿下が考えてくれた。

 最初はうちの商会で取り扱う方向で話が進んでいた。

 けれども、化粧品に加えて食品まで取り扱うとなると、ちょっと商会の規模的に難しかったのよね。

 それをレイン殿下に相談したら、こういうのはどうですかって提案してくれたのだ。



「セイ様のお陰で、我が領もまた潤います。ありがたいことです」

「いえ。こちらこそ色々と協力していただき、ありがとうございます」

「その口振りでは、製造はアシュレイ侯爵の所で行うのかな?」

「えぇ。セイ様の御提案で、そうすることになりました」

「あ、いえ、案を考えてくれたのはレイン殿下なのです」

「そうでしたか。となると、もしや他の領も?」

「はい。希望した方と契約を結んで、製造販売は各御領主様にお任せしています」



 そんな風に話をしていると、会場で提供されている料理が運び込まれてきた。

 見た目を楽しむためか、料理は大皿に盛られた状態でテーブルの上に並べられた。

 食べたい物を侍女さんに伝えて、取り分けてもらう形式のようね。


 運ばれてきた料理は研究所の食堂でも提供していない物ばかりで、陛下達は期待した表情で料理を見ていた。

 食べる前から、この料理にはどこの特産品が使われているか等と話が盛り上がったくらいだ。

 それでも、テーブルの上に料理が揃うとほぼ同時に、陛下から「食べようか」と声が掛かった。

 余程楽しみにしていたらしい。


 陛下達の期待には応えられたようだ。

 食べ始めてからは、味や香りについても盛り上がった。

 陛下達が食べ慣れていない物が多かったけど、概ね好評だったので少しだけ肩の荷が下りた。



「そろそろ、一度会場を見てこようかと思います」

「そうか……。色々と大変だろうが、気を付けて」

「アリガトウゴザイマス。ガンバリマス」



 流石にずっと引きこもっている訳にもいかない。

 今後のためにも、そろそろ挨拶回りに行った方がいいだろう。

 ほどほどにお腹が満たされたところで、陛下に声を掛けた。


 含みを感じる陛下の返事に、渇いた笑みを浮かべながら頷く。

 大変っていうのは、アレですよね。

 色々な人に囲まれるってことですよね?


 心の中で泣きながら立ち上がると、レイン殿下も立ち上がった。

 露払いのために一緒に来てくれるらしい。

 輝く笑顔の殿下から、後光が射して見えた。

 レイン殿下は人あしらいも上手なので、一緒にいてもらえるのは非常に心強い。

 頼りになる味方と共に、僅かに軽くなった足で戦場(テントの外)へと向かった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


「聖女の魔力は万能です」のアニメに関するお知らせが3点あります。


まず1つ目、PVが新しく公開されました!

今回はメインキャラ達のセリフ付きです&結城アイラさんが歌うOPもチラリと流れております。

もしよろしければ、ご視聴いただけると幸いです。


・「聖女の魔力は万能です」新PV

 https://www.youtube.com/watch?v=UQgxvApPRXg


2つ目、キャスト第二陣も発表されました!

今回発表されたキャストの皆さんは下記の方々です。


アイラちゃん:市ノ瀬加那さん

カイル殿下:福山潤さん

リズ:上田麗奈さん

インテリ眼鏡様:梅原裕一郎さん


最後の3つ目、セイさんのねんどろいどが発売予定です!

放映前なのにフィギュア化が決定していて、ちょっと驚きました。

これも普段から読者の方々が応援してくださるお陰ですね。

ありがとうございます!

ねんどろいどには、様々なオプションパーツが付属する予定だそうです。

詳細が公開されましたら、こちらでもお知らせいたしますね。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「聖女の魔力は万能です」のコミック10巻が1/17に発売されます!
ご興味のある方は、お手に取っていただけると幸いです。

【聖女の魔力は万能です】コミック10巻 書影

カドコミ「フロースコミック」にてコミカライズ版およびスピンオフコミックが公開中です!
「聖女の魔力は万能です」
「聖女の魔力は万能です ~もう一人の聖女~」
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ