109 企画会議?
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周りの様子を眺めていると、アシュレイ侯爵夫人が話し掛けてきた。
「セイ様はお茶会は開かれませんの?」
「え? お茶会ですか?」
「セイが開くお茶会なら珍しい料理が並びそうですわね」
唐突な話題転換に、どうしたのかと戸惑っていると、アシュレイ侯爵夫人の言葉を補足するようにリズが話に加わった。
それでピンと来た。
リズが言う通り、もし私がお茶会を開くなら、日本で食べていたお菓子や食事を用意するだろう。
ということは、お茶会に招待された人達は、研究所の食堂で提供されているような料理を食べられるということだ。
アシュレイ侯爵夫人がお茶会開催について訊いてきたのは、ここにいる御婦人達にも食堂の料理を食べる機会を与えたいからかもしれない。
言葉の裏に隠されている意図を考えると、そう思えた。
「料理? でも、リズは食べたことがある物ばかりになるんじゃないかな?」
「そんなことはありませんわ。噂に聞く料理は食べたことがない物ばかりですもの」
「噂に聞く料理? お菓子ではなくて?」
「えぇ。薬用植物研究所の食堂で食べられると聞いている料理は、食べたことがない物ばかりですわ」
リズとのお茶会に、レシピを提供したお菓子を出してもらったことはある。
お菓子以外で出してもらったことがある物となると、サンドイッチくらいだ。
お茶会というと元の世界でいうアフタヌーンティーのイメージがあるのよね。
だから、お茶会で出そうな他の料理といえば、キッシュくらいしか思い浮かばない。
けれども、リズが食べたいのは食堂で出されるような料理のようだ。
それだと、お茶会よりは晩餐会を開いた方が良いような気がする。
ただ、晩餐会となると今度はリズの参加が難しい。
リズは未成年なため、夜の社交には出られないからね。
身内だけの集まりであれば大丈夫なのかもしれないけど、今話しているのはそういう会ではない。
どうせ開くなら、リズも参加できる会の方がいい。
「セイ様、いかがされました?」
「ごめんなさい。ちょっと考え事を」
「何を考えていらしたのですか?」
「開くなら、どういった会がいいかなと。食事が中心で、昼間に開けるものが良さそうなんですよね」
悩んでいるとアシュレイ侯爵夫人がどうしたのかと訊ねてきたので、考えていたことを伝えた。
開催に前向きな発言だったからか、途端に御婦人達が色めき立つ。
せっかくなので、考えを纏めるついでに、御婦人達の要望を訊いてみた。
昼間に開催するというのは、御婦人達にとっては問題ないようだ。
ただ、スランタニア王国での昼間の社交は女性が中心のものが多いため、男性は参加し難いかもという意見が出た。
もし男性にも参加して欲しいのであれば、少し考える必要があるみたいだ。
また、食事が中心にという話も歓迎はされたけど、工夫が必要になりそうだ。
話を聞いて皆が想像したのは晩餐会だったらしく、どの料理が食べられるかと盛り上がった。
そして、口々に色々な料理名が挙げられたのだけど、洋食に中華に和食と統一性がない。
晩餐会のようにコース仕立てにするのであれば、種類を統一させる必要があるだろう。
一品の量もそれなりにあるため、出せるのも二、三種類が限度だ。
とてもではないけど、ここにいる御婦人達の希望全てに応えることはできない。
でも、頻繁にパーティーを開くのは難しいので、可能な限り要望は叶えたいのよね。
一皿の量を減らして、種類を増やそうかしら?
んー、それも限度があるわよね。
だったら……、ビュッフェ?
うん、ビュッフェ形式にするのは良いかもしれない。
ビュッフェ形式であれば、自分で食べる量を調整できるし、多くの種類の料理が提供できる。
好きな物を手に取れるので、参加者の好き嫌いを考慮する必要もない。
それに、この国のパーティーでも採用されている形式だから、参加者も慣れているだろうし、良い考えじゃないかな。
「何かいい案が浮かびましたの?」
「うん、ビュッフェ形式で食事を提供するパーティーはどうかなと思って。色々な種類が出せるし、自分で好きな量を取れるでしょ?」
「それは、いい案ですわ。でも、社交が中心になってしまって、料理は二の次になりそうですわね」
考えが纏まったところを見計らったかのように、リズが声を掛けてきた。
ビュッフェ形式にするという案は良かったようだ。
けれども、参加者が慣れている形式故の問題もあるようだ。
この国でビュッフェ形式の食事が提供されるのは主に舞踏会の時である。
舞踏会の会場とは別に、休憩室が設けられ、そこで軽く摘まめる物が提供されるのだ。
そして、リズが言う通り、この国の舞踏会では参加者が料理を口にすることはほとんどない。
舞踏会は社交の場だからというのが、その理由だ。
食事よりも仕事を優先させましょう、ということなのかもしれない。
「なら、始めから料理が中心のパーティーだって言っておくのはどう?」
「【聖女】様の料理を楽しむ会とでも銘打つといいかもしれませんわね」
「後は、そうねぇ……」
予め料理が中心だと参加者に伝えておくのは良さそうだ。
リズが言うように、会の名前にそれっぽいものを付けておくのは良い手だと思う。
しかし、リズの表情がもう一押し欲しいと訴えかけていた。
ならば、いっそ料理を食べることを仕事にしてしまえばいいかしら?
パーティーは顔繋ぎや情報収集、情報拡散の場でもある。
料理を食べることがそれらに結び付くのであれば、皆食べることを中心にしてくれそうだ。
そこまで考えて、ふと先程まで御婦人達と話していたことが思い浮かんだ。
頭に浮かんだのは特産品の話だ。
料理に特産品を使ってみるのはどうだろうか?
あまり人に知られていない特産品であれば、いい宣伝になるし、知られている特産品でも新たな使い道を提案できるかもしれない。
そう、例えば、少し前に話していたサフランのように。
サフランも薬草としては認知されているけど、香辛料としては認知されていないみたいだしね。
「各地の特産品を使った料理を披露するなら、どうかしら? 特産品の宣伝にもなるし」
これなら、参加者も料理に集中してくれるんじゃないかな? と続けようとして、言葉を飲み込んだ。
リズがどう思うかを知りたくて口にした言葉だったけど、リズの反応を見るまでもなく、周りの反応で察した。
いい案のようだ。
だって、周りに座っている御婦人方が途端に賑やかになったからね。
「特産品を使ったセイ様の料理ですか? 私も食べてみたいですわ!」
「もしかして、食堂の料理にも特産品が使われていたりしますの?」
「豚肉を使った料理はいかがでしょうか? 私の領地で育てている豚肉はとても美味しいと評判でしてよ」
「まぁ! イェルザレム様、抜け駆けはよろしくありませんわ。それなら、我が家のチーズも……」
特産品の売り込みがすごい。
一人が口火を切ると、次々に自分の領地の特産品が使えるかと御婦人達は問い掛けてきた。
思い返せば、各地に討伐に行った際も、このお茶会でも、紹介される特産品は食材ばかりだった。
今にして思えば、あれは私へのプレゼンテーションだったのかもしれない。
御婦人達への回答が間に合わず、まごついていると見かねたアシュレイ侯爵夫人が場を沈めてくれた。
たった一言、「皆様、落ち着いて」と言っただけだったんだけどね。
語り口は静かなのに、声がよく通ったからか、あっという間に御婦人達は落ち着いたのだ。
あれこそまさに、鶴の一声だったわね。
そこからはまた、取り留めもなく王都で流行っているものへと話題が移った。
そして楽しい時間は過ぎるのがあっという間で、気付けばお開きの時間となっていた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
お陰様で、小説7巻が4月10日に刊行されることになりました。
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コミック、スピンオフコミックに引き続いて、小説でもこのような限定版をお届けできることになったのは、皆様の応援のお陰です。
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