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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第四章
129/205

107 社交の始まり

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 リズとのお茶会から数日後。

 仕事中に所長に呼び出された。

 所長室へ向かえば、執務机に両手を組んで項垂れる所長がお出迎えしてくれた。



「お呼びだと聞いたんですけど……」

「あー、そうだ。まぁ、掛けてくれ」



 所長に促されて、応接セットのソファーに座ると、所長も執務机から移動してきた。

 手に持つのは、先程まで執務机の上にあった手紙だ。

 それを見た瞬間、先日のお茶会でリズが言っていたことが頭を過ぎり、嫌な予感がした。

 所長はソファーに腰掛けると、私の前にその手紙を置いた。

 手紙は内容が検められた後なのか、既に封が開いていた。



「あの、これは?」

「招待状だな」

「招待状……」



 予感というのは嫌なときほど当たるものだ。

 引き攣りながら目の前に置かれた手紙について問えば、予想通りの答えが返ってくる。

 なんてこったい。

 心の中で「うわぁ」と嫌そうな声を上げていると、表情にも現れていたようだ。

 所長も苦笑いしながら、ここまでの経緯を教えてくれた。


 お披露目が終わったことで、いよいよ【聖女】の社交が解禁されたと貴族の人達は判断した。

 そう判断した人達の次の行動は決まっている。

 自家への招待だ。

 そのため、窓口となっている王宮に【聖女】宛のお茶会や夜会の招待状がわんさかと届いたそうだ。



「そんなに沢山来たんですか?」

「あぁ。半数以上の家から届いていたらしいぞ」



 そうか、半数以上か。

 それって、討伐で会ったことがない家のほぼ全部とか言わないですよね?

 どこか遠い目をしながら語る所長を見て、一緒になって黄昏れる。


 とはいえ、実際に目の前に置かれた招待状は一通だけだ。

 何故かというと、王宮側の判断で間引いてくれた後の招待状だけが、私の元まで届けられているからだ。


 王宮には、かなりの量の招待状が届いたらしいのだけど、それらは全て王宮側が開封し、中身を確認してくれた。

 私宛の招待状を他人が開封するのはいいのかって話だけど、確認されたことについては気にしてはいない。

 今のところ私的な手紙については研究所に届けられていて、王宮に届けられる手紙はほとんど社交場への招待状だ。

 そんなダイレクトメールにも等しい内容の手紙を誰かに見られたとしても、特に思うことはない。

 そもそも、私的な手紙が届くことが滅多にないのよね。

 クラウスナー領のコリンナさんからか、商会から化粧品の売り上げなんかの報告書が届くくらいじゃないかしら。

 後は、地方の領主様達から魔物の討伐のお礼状が来るくらいだ。


 また、大量の招待状の送り主を確認して、参加の可否を判断するのも結構な労力だ。

 この国の貴族については王宮での講義でも習っているけど、送り主が所属する派閥や力関係等、政治的な部分を即座に判断するのはまだ難しい。

 特に今まで関わり合いがなかった家については。

 だから、王宮が間引いてくれる、この状況は非常にありがたかったりする。

 しかも、お断りの返事も王宮側が出してくれるので余計にね。



「でも、ここまで届いたのは一通だけなんですね」

「あぁ。その代わり、間違いなく参加は必須となるな」

「そうなんですか? 断ってもいいって聞いてますけど」

「どうしても断りたかったら、それでも構わないが。俺は参加しておいた方がいいと思うぞ」



 いつもであれば私の意思を尊重してくれる所長だけど、今回は珍しく参加をお勧めしてくる。

 どういうことかと眉根を寄せると、所長は「裏を見てみろ」と言う。

 手紙を裏返すと、見知った紋章の封蝋が目に入った。



「送ってきたのは文官の最大派閥を率いる家だ。普通ならまず断れない招待だな」

「確かそうでしたね。講義でも習いました」

「加えて、ここまで届いたってことは、王宮側も顔を繋いでおいた方がいいと判断したってことだろう」

「そうなりますね」

「どうせ断っても、またそのうち招待されるんだ。今受けておいた方がいいだろうな」



 所長の言う通りだ。

 改めて招待されるのであれば、今回受けてしまった方がいいだろう。

 特にお断りできるような理由もないし。


 それに、所長が言う王宮側の判断にも頷ける。

 派閥の分け方には色々あるけど、その家の人間がどういう職業の人材を多く輩出するかによって分けるものがある。

 その分け方で見ると、私の知り合いがいる家は武官系に偏っているのだ。

 何故なら、魔物の討伐で騎士団や宮廷魔道師団等の武官の人達と顔を合わせることが多いから。

 逆に、討伐以外は研究所に引き篭もっていることもあり、文官の知り合いは少ない。

 立場を考えれば、偏りがあるのは問題なんだろう。

 忖度するならば、これを機に偏りをなくせということかもしれない。



「なら、こちらの招待を受けたいと思います」

「中を見なくていいのか?」

「あ、そうでした」



 うっかり、中を見ないまま返事をするところだった。

 所長の指摘を受け、招待状の中身を確認する。

 招待されたのは、昼のお茶会。

 基本に則ったものであるなら、参加者は女性だけだと思われる。


 問題は送り主だ。

 知っている人の家ではあるが、送り主は知人の家族である。

 これがどういうことを指すのか。

 考えてもこれだという理由が思いつかなかったので、すぐに考えることを諦めた。



「何か注意することはないか? ドレスコードとか」

「特にはないようです。普通の昼間のお茶会みたいですね」

「そうか。なら王宮側に出席する旨を伝えておこう」

「ありがとうございます」



 お断りのときと同じく、王宮側で返事を出してくれるようだ。

 返事の手紙一つをとっても、色々と決まり事があるので、その配慮はとても助かる。

 所長の言葉に甘えて、後のことは全て王宮側にお任せした。






 二週間後、招待されたお茶会へと足を運んだ。


 本日のドレスは白地に小花柄の生地のものだ。

 襟ぐりや袖口には、白のフリルに水色のリボンが縫い付けられている。

 帽子や手袋等の小物もドレスに合わせた色合いの物だ。


 これらは全て王宮の侍女さん達が選んでくれた。

 社交場のドレスコードについても講義で習ってはいるんだけど、侍女さん達に選んでもらった方が間違いがないので、お任せしてしまった。

 嬉々として選んでくれたので、お任せして良かったんだと思う。

 決してドレスを選ぶのが苦手だからサボった、なんていうことはない。 


 衣装の選択に頭を悩ますことはなかったけど、だからといって疲れないという訳ではない。

 準備をするだけでも体力を使う。

 今日も朝から王宮で格闘し、馬車に乗り込む頃には既に精神力を使い果たしていた。

 けれども、本番はこれから。

 目的地に到着するまでに少しでも回復しようと、馬車の中ではグッタリとさせてもらった。


 暫くして、王宮ではないけど離宮の一つだと言われても納得してしまいそうな御屋敷の前に馬車は停まった。

 高さは三階建てだから、まだいい。

 横がとにかく広い。

 恐らく奥行きも。

 これが文官の最大派閥を率いる家の御屋敷か。

 一般的には、領地持ちの貴族の御屋敷は王都にある物は領地にある物よりも小さいって聞いているけど、これより大きい御屋敷って一体どんな御屋敷よ。

 そう思うほど、目の前のお屋敷は広大だった。


 馬車の扉が開かれたのを見て、一呼吸置いてから外へと一歩踏み出す。

 横から出されたエスコートの手に、手を添えて馬車を降りれば、玄関の前にずらりと並んだ人々の姿が見えた。

 並んでいる人の人数は多く、その圧に思わず腰が引けそうになる。


 左右に並ぶのは、この屋敷の使用人さん達だろう。

 そして、正面中央には金髪碧眼の華やかな迫力美女と、その美女によく似た美少女が待ち構えていた。



「ようこそお越しくださいました、【聖女】様」



 中央の美女が挨拶と共にカーテシーするのに合わせて、美少女、並びに使用人さん達も一斉にお辞儀をした。

 ひくりと頬に力が入ってしまったけど、何とか引き攣らないよう注意する。

 そうして、マナーの講義で鍛えた淑女の笑みで、彼女等の挨拶に答えた。



「御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます。アンジェリカ・アシュレイでございます」

「セイ・タカナシです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」



 そう、今日お招きされたのは、リズの家でもあるアシュレイ侯爵邸だ。

 お茶会の主催者は、リズのお母さんのアシュレイ侯爵夫人。

 王妃不在のこの国で、【聖女】を除けば、最も位の高い女性の一人である。


 そんな彼女から頭を下げたままの非常に丁寧な挨拶を貰うが、私の心は小市民。

 アシュレイ侯爵夫人含め、これほど多くの人に頭を下げさせたままなのは、非常に心苦しい。

 なので、挨拶の後すぐに頭を上げてもらうようお願いした。



「漸く我が家にお招きできて、とても嬉しいですわ」

「こちらこそ。今日はよろしくね」



 使用人さんを含めた一同が顔を上げると、次に、私の性格をよく知る美少女が声を掛けてくれた。

 その美少女――リズに私も笑みを返す。


 そこで挨拶は終了となり、アシュレイ侯爵夫人の先導で屋敷の中へと招かれた。

 一先ず第一関門は潜り抜けたと、ほっとしたのも束の間。

 この後、会場にて参加者一同から再び挨拶を受けて固まることになるまでは、もう少し。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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