104 報せ
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「セイ、荷物が届いてるよ」
「ありがとう、ジュード」
研究所で騎士団へ卸すポーションを作っていると、箱を抱えたジュードが入り口からひょっこりと顔を覗かせた。
他にも行く所があるようで、私宛の荷物を入り口近くのテーブルに置くと、すぐに踵を返した。
後ろ姿にお礼を述べて、キリのいいところで手を止めて、荷物を開封する。
荷物の中には、見慣れない薬草と種、それから手紙が入っていた。
送り主はクラウスナー領の領主様お抱えの薬師であるコリンナさんだ。
時候の挨拶から始まる手紙を読み進めて行くと、驚くべきことが書かれていて、思わず「嘘っ!」と声を上げた。
その声を、丁度部屋の前を通り掛かった所長が耳にしたらしい。
足を止めて、こちらにやって来た。
「どうした?」
「あっ、コリンナさんが」
「コリンナって、クラウスナー領の薬師のか?」
「そうです」
「それで、彼女がどうしたって?」
「薬草の栽培に成功したって」
「薬草? これか? って、これはっ!」
興奮のあまり、要領を得ない返事をしてしまう私に、所長は手振りで落ち着けと示した。
それで少しだけ落ち着きを取り戻したけど、私が何に驚いていたのかを知ると、所長も目を丸くした。
手紙と一緒に届けられたのは、コリンナさんが栽培に成功したという薬草だった。
その薬草が非常に珍しい物であることは、所長も知っていたらしい。
目にした途端に、所長は言葉を失った。
それも仕方ない。
届けられたのは、自生しているのを見つけるのも非常に難しいと言われている薬草だ。
かつてはクラウスナー領で栽培されていたけど、いつしか育てられなくなってしまった薬草でもある。
今回、コリンナさんが栽培に成功したという薬草は、最上級HPポーションの材料だった。
「こ、これの栽培に成功したのか?」
「そうみたいです。私も挑戦はしてたんですけど、まだ上手くいかなくて」
「は? お前も?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「聞いて……たな……」
一瞬、聞いていないと言い掛けた所長は、途中で思い出したらしく、がっくりと肩を落とした。
このところ、所長は色々忙しくしていたので、私が栽培を開始すると報告をしたのを忘れていたのだろう。
てっきり、言うのを忘れていたかと、冷や汗をかいたのは内緒だ。
問題の薬草だけど、栽培条件自体はかつての【聖女】でもある【薬師様】が残してくれた書物に記述があった。
けれども、時を経たからか何なのか、同じ条件では再度の栽培はできなかったのだ。
そのため、コリンナさんと私の双方で条件を変えつつ再度の栽培に挑戦していたのよね。
「それにしても、これを栽培するかぁ……」
「凄いですよね。流石聖地の薬師」
所長が肩を落としているのは、疲れによるものだけではないだろう。
不可能だと思われていた薬草の栽培に自分以外の人間が成功したことが悔しいのもあると思う。
こう見えて、所長も薬草栽培のマニアだしね。
それに、悔しいのは私も同じだ。
けれども、反面嬉しくもある。
何故なら、栽培が成功したということは、これから量産ができるということでもあるからだ。
「お前は嬉しそうだな」
「えぇ。これで以前から狙っていたポーションが作れますしね」
「ポーション?」
「はい。最上級HPポーションです」
今までは纏まった量が手に入らなかったこともあり、作るに至らなかった最上級ポーション。
しかし、材料が量産できるのであれば、作ることも可能だろう。
作製に必要なもう一つの要素である製薬スキルのレベルは、既に最上級のポーションが作れる程度に上がっているしね。
「待て待て。作れるのか?」
「製薬スキルのレベルは足りているって、コリンナさんに言われましたよ」
製薬スキルのレベルは、そのレベルに応じた難易度の物を作らないと上げることはできない。
ただ、下級のポーションで上げられるところまでレベルを上げると、中級のポーションが作れるようになっている。
同様に、中級の上限まで上げれば上級の物が作れるようになるし、上級の上限まで上げれば最上級の物が作れるようになる。
そして、私は上級HPポーションで上限まで製薬スキルのレベルを上げていた。
だから、最上級のポーションも作れるようになっている。
しかし、そこで行き詰まってしまった。
上級HPポーション以上の難易度のポーションのレシピが見つからなかったからだ。
そこに現れたのが、クラウスナー領で教えてもらったコリンナさん秘伝のレシピ。
そのレシピのお陰で、一度は行き詰まっていた製薬スキルのレベル上げが進んだ。
ただ、それでも上限はあり、再び製薬スキルのレベル上げは行き詰まっていた。
そんな私にとって、今回の報せは非常に喜ばしいものだ。
最上級HPポーションが作れるようになれば、レベル上げが再開できるからね。
そこまで上げる必要があるのかって?
世の中何があるか分からないから、上げられるなら上げておいた方がいいでしょ。
やり込みたい性格をしているからというのも理由の一つだけど。
「そこまで上がってたのか……。いや、だが、材料が……」
「コリンナさんが送ってくれた分もありますし、それに研究所でも栽培しようかと思ってるんですけど」
「ここでって、まだ成功してないだろうが」
「それなんですけど、手紙に栽培条件が書かれてるんですよね……」
栽培が成功したことにも驚いたけど、それよりも驚いたのは栽培条件が書かれていたことだ。
クラウスナー領とは、気候も違えば、土も違う。
それでも、手紙に書かれている内容は、非常に有益な情報だ。
この情報がどれほどの価値を持つものなのかは、当然所長も理解している。
だから、またしても所長は言葉を失った。
「それで、研究に使うために、出来上がった最上級HPポーションが欲しいそうです」
「そ、そうか……」
「お渡ししても良いでしょうか?」
「そうだな……。今ある材料で、何本くらい作れそうなんだ?」
「それが不明なんですよね。作ったことがないので、成功率がどれくらいか分からなくて」
「なら、出来上がった物の三分の一を送ろうか。残りはうちでも研究に使いたいのと、王宮への献上用だな」
「王宮にもですか?」
「あぁ。最上級のポーションなんて久しく作られてないからな」
薬師の聖地に集った薬師さん達の中にも、最上級のポーションを作れる人はいない。
一体いつから作られなくなったのかは分からないけど、それが再度作れるようになったというのは、王宮に献上してもいいほどの快挙らしい。
薬草自体も貴重な物なので残す必要はある。
けれども、最上級HPポーションを作る許可は下りた。
どれくらいの量の薬草を残すかを所長と話していると、研究員さんの一人が部屋にやって来た。
所長に用があるようで、まっすぐにこちらに向かってくる。
「お話し中すみません。王宮から使いの者がやって来ました」
「王宮から? 用件は?」
「所長とセイの呼び出しのようです。詳細はお二人に直接話すと、応接室でお待ちです」
「分かった。すぐに向かう」
王宮からの呼び出し。
一体何だろう?
心当たりを考えても思い浮かばない。
それは、所長も同じようで首を傾げている。
ならば、後はもう使いの人に訊くしかない。
所長と二人、王宮からの使いの人が待っているという応接室へと向かった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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お買い上げくださった皆様、ありがとうございます。
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