102 ないのなら……
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宮廷魔道師団から届けられた書類を読む私の眉間には、現在盛大な皺が寄っている。
そんな顔をしてしまうのも、仕方がないわよね。
だって、全敗なんだもの。
ポーションが作れたところまでは良かったんだけどね……。
久しぶりに会った団長さんと話していたことを試してみたのよね。
試したのは蜂蜜でのポーション作製。
あのとき考えたように、薬草の代わりに蜂蜜を入れて、普段の手順でポーションを作った。
蜂蜜も一種類ではなく、色々な花から採れた蜂蜜を用意したわ。
結果は成功。
物凄く薄い、透明感のある黄色いポーションが出来上がった。
そして、師団長様に鑑定してもらおうとすぐさま依頼を出したところ、先程結果が返ってきたのだ。
ただ、鑑定結果については芳しくなかった。
「あっ、セイ。この間の鑑定依頼の結果、戻ってきたの?」
「うん……」
「その表情からすると、結果は良くなかったみたいだね」
「残念ながらね」
書類とにらめっこしていたところに、ジュードがやってきた。
ジュードはいつも何かと手伝ってくれるけど、蜂蜜からポーションを作るときも手伝ってくれた。
きちんと鑑定結果を報告した方がいいだろう。
そう思って、ジュードへと書類を手渡した。
内容に目を通したジュードは、「あー」と残念そうな声を上げる。
「一応、効能はあったんだね」
「えぇ、しかもちゃんと蜂蜜の種類ごとに効能が異なるみたいよ。でも、ねぇ……」
ある意味、予想通りだったのは喜ばしいことだ。
しかし、問題はその効能が非常に弱いということだった。
師団長様曰く、効能はあることにはあるけど、通常のポーションの量程度では効果が表れないらしい。
日本のコンビニで売っていた、ドリンク剤程度の効果だろうか?
いや、アレはまだ効果があったような気がするから、それ以下か。
「ダメだったか~」
「どうした?」
残念な結果に終わったことを嘆いていると、部屋の入り口の方から声を掛けられた。
ジュードと一緒に視線を向けると、所長が片手を上げているのが見えた。
「この間、依頼した鑑定の結果が返ってきたんですけど、結果が良くなくて」
「ほぅ、見せてくれ」
ジュードから書類を手渡された所長は、さっと目を通すと溜息を吐いた。
「着眼点は良かったが、結果は伴わずか」
「はい。結構、いい線行ったと思ったんですけど」
「そうだな。……、あっ!」
所長は何かを思い付いたらしい。
人差し指を立てると、その指をそのまま私に向けた。
何だろうかと首を傾げると、嬉しそうに笑いながら、思い付いたことを話してくれた。
「他の物と組み合わせるのはどうだ?」
「えっ? 他の物ですか?」
所長の言う通り、蜂蜜と他の何かを組み合わせたことはない。
元の世界でも、複数の薬を組み合わせて使うことはあったのだから、試してみる価値はある。
では、何と組み合わせようか?
普通に薬草と組み合わせてみるのもいいけど、全く別の物と組み合わせてみるのもいいかもしれない。
「今の時期、林檎って手に入りましたっけ?」
「林檎?」
別の物との組み合わせを考えて、真っ先に思い浮かんだのは林檎だった。
団長さんから貰った蜂蜜が林檎の花から採れた物だからというのもあったけど、理由はもう一つある。
林檎もまた万病に効くと言われている果物だからだ。
組み合わせる蜂蜜は、やはり林檎の蜂蜜がいいかしら?
同じ植物由来の物ならば、相性は悪くなさそうだ。
そこまで考えて思い出したのは、この世界の食糧事情だった。
保管技術が発達していた元の世界では、林檎はほぼ通年手に入れることができていた。
しかし、こちらの世界では収穫時期にならないと手に入れることはできない。
果たして今、林檎は手に入るだろうか?
「まだ林檎は出回ってないだろう」
「秋までお預けですか」
「そうだな」
「どうにか手に入りませんか? 寒い地域だと早めに収穫できたりはしないんでしょうか?」
「できるかもしれないが、ここに持ってくるまでに腐らないか?」
「そこは凍らせたりとか」
「それはそれで、ポーションにした後の効能に影響がありそうだな」
所長の答えは否だった。
残念だ。
非常に、残念だ。
何とか手に入れられないかと、思い付いた案を挙げてみたけど、所長の首は横に振られるばかり。
秋まで待つしかないのかな。
いっそ、魔法で成長を促進させたりとかできないかしら?
そんなことをしたら、やっぱりポーションにした際に影響がでるかな?
ん? 促進?
「所長」
「まだ何かあるのか?」
「林檎の苗木は手に入りませんか?」
「苗木? それなら手に入れられないことはないかと思うが、苗木の植え付け時期はいつ頃だ?」
「春先だったと思いますよ」
「時期は無視できると思います」
苗木の植え付けにも時期がある。
本来であれば、気を付けなければいけないのだけど、これからやろうとしていることを考えると無視しても大丈夫だと思う。
ダメだったら、そのときにまた考えればいい。
やろうとしているのは、林檎が収穫できるまでの成長促進だ。
所長が懸念する通り、魔法で成長させた林檎からポーションを作ると、効能に影響が出るかもしれない。
けれども、今回はその影響はむしろ歓迎できそうな気がする。
何てったって、成長促進のために使うのは【聖女】の術だ。
こんなことを思い付いたのも、前に同じようなことをしたことがあるからだ。
クラウスナー領でスライムの被害にあった森を再生したときも、【聖女】の術を使ったのよね。
あれも植物の成長促進には違いない。
林檎の成長を促すことも可能だろう。
魔法で林檎の成長を促す予定であることを説明すると、所長は頭痛を堪えるような表情で額を押さえた。
所長もクラウスナー領でのことを思い出したらしい。
「言われてみれば……。お前ならできるな」
「はい」
「分かった。林檎の苗木を探してみよう」
「ありがとうございます!」
力強い(?)言葉に笑顔でお礼を伝えると、所長はすぐさま行動に移してくれた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
お陰様で「聖女の魔力は万能です」のアニメ化が決定いたしました!!!
これも偏に、応援してくださった皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
念願叶うと、もう感謝の言葉しか出てきません……。
アニメ化決定に伴い、カドカワBOOKS様に特設サイトを作っていただきました。
これからも様々なことが決まり次第、こちらで情報が公開されると思います。
アニメ化に加えて、もう一つ素敵なおしらせがありますので、ご興味のある方はご覧いただけると幸いです。
・「聖女の魔力は万能です」特設サイト
https://kadokawabooks.jp/special/s53/
今後ともよろしくお願いいたします。