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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章

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119/206

99 判明

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


お読みいただき、ありがとうございます。

思うところがあり、前話(98話)の後半部分を修正しています。

もしよろしければ、前話の後半部分を読み返していただければ幸いです。

全体的な流れは変わっていませんので、このまま読み進めていただいても構いません。

ただ、後の話でちょっと違和感を感じる部分があるかもしれません。


 テンユウ殿下と薬草畑で話してから二週間。


 まずは、テンユウ殿下が言っていた、体が動かせなくなるという病気について調べた。

 ポーションではなく病気から調べ始めたのは、状態異常回復用のポーションの特色のせいだ。

 症状に合わせたものでないと、効果がないからね。


 テンユウ殿下から細かい話を聞いてから、調査に付き物の地道な作業を進める。

 王宮の図書室の関連書籍を片っ端から読んだり、研究員さん達に話を聞いたりしてね。

 コンピュータや検索サイトがあれば、もっと簡単に調べられたのかもしれないけど、ないんだから仕方がない。


 ただ、残念ながら、成果は思わしくない。

 記載されている本もなければ、そのような症状を抱えている人の噂を聞いたことがある人もいなかった。

 もしかして、そういう症状の人がいたとしても虚弱体質や老化だと思われて、見過ごされているのかしら?

 あまりにも情報がなくて、そんな可能性を考えてしまう。



「うーん、ないなぁ……」

「中々見つからないみたいだね」



 一通り目を通したけど、お目当ての記述を見つけられずに読み終わってしまった本を閉じる。

 残念に思いながら、つい独り言を呟けば、隣から声が掛けられた。

 見上げると、マグカップを片手に持ったジュードが立っていた。

 休憩中のようで、私が読んでいた本を横から眺めていたらしい。



「こうも見つからないと、その病気は存在するのか? って考えちゃうわよね」

「探してたのって、体が徐々に動かなくなるっていう症状だったっけ?」

「そうそう」

「それなら、違う書かれ方をしているとか?」

「違う書かれ方?」

「例えば、体が怠くて動けなくなるって書かれてたりとか」

「あー、その可能性もあるのか」

「セイは他のことを考えてた?」

「えぇ。本当は病気なんだけど、周りの人が病気だと思っていないから記録がないんじゃないかって思ってたの」

「そっか。そういうこともありそうだね」



 最近、私が病気について調べていることをジュードも知っている。

 だからか、調べ事が中々進まないことに愚痴を零せば、ジュードは助言をくれた。

 やっぱり、意見を交換できるのは、違った見方に気付けるから良い。

 ジュードの言う通り、症状が違う書かれ方をしている場合もありそうだ。

 となると、もう一度探し直さないとダメかしら?



「書かれ方が違うってのはありそうだし、もう一度探し直しかな」

「諦めはしないんだ」

「まだね。だって、探し始めたばかりだし。それに、見つからないのも困るのよね」

「そうなの?」



 首を傾げるジュードに、見つからないと困る理由を説明する。


 何故困るかというと、テンユウ殿下には「聞いたことのある症状だ」と言ってしまっているからだ。

 一度言ってしまった手前、見つかりませんでしたと伝えると、嘘を吐いたような気がしてしまう。

 それに、どこで聞いたのかって訊かれても困るし。

 どこで聞いたのかは忘れたことにすればいいのかもしれないけど。


 そこまで考えても、嘘を吐くのを躊躇してしまうのは、聞いたことがあると言ったときのテンユウ殿下の表情が引っかかっているからかもしれない。

 天から降りてきた蜘蛛の糸を見つけたって感じの表情だったのよね。

 そう、諦めかけていたところに希望を見出したときのような。

 そうやって一度上げてしまってから落とすようなことを言わなければいけないのは非常に気が重い。



「でも、見つからないなら仕方ないよね」

「そうよね。見つかったって嘘を吐く訳にもいかないし」



 結局、ジュードに相談しても結論は変わらず。

 取り敢えず、何とか見つけられるよう祈りながら、次の本へと手を伸ばした。


 それから数日が経った。

 相変わらず、該当する記載は見つかっていない。

 ジュードが言っていた、違う記述かもしれないってことも念頭に置きつつ調べたんだけどね。


 そうしているうちに、テンユウ殿下が研究所に来るという連絡が来た。

 ついにこのときが来たかという感じだ。

 非常に気が重いけど、テンユウ殿下には正直に話した方がいいだろう。

 そして、判決を言い渡される罪人のような気持ちで、テンユウ殿下が来るのを待った。

 ギリギリの時間まで本を読みながら。



「早速で申し訳ないのですが、何か情報は見つかりましたか?」

「いえ、残念ながら……」

「そうですか。私の方でも調べてみましたが、新たな情報は見つけられていません」



 挨拶の後、前置きもなくテンユウ殿下は成果について訊いてきた。

 余程、気になっているのだろう。

 その様子を見て、今から悪い報告をしなければいけないことが申し訳ない。

 案の定、見つかっていないことを伝えると、テンユウ殿下は眉を下げた。



「すみません、その……、どこで症状を聞いたかを思い出せなくて……」

「そういうことはよくありますので、お気になさらないでください」



 申し訳ない気持ちで謝ると、テンユウ殿下は薄らと口の端を上げた。

 けれども、浮かべた笑みはすぐに消えてしまい、沈痛な面持ちで足元へと視線を落とした。



「あの……」

「あぁ。すみません」



 心配になり声を掛ければ、テンユウ殿下は先程と同じように笑みを浮かべる。


 研究にこういうことは付き物で、一つの成果を出すのに非常に多くの時間が掛かることもしばしばある。

 調査をしようと決めてから今までの期間で、何の成果も出ないなんてことも、ざらにある。

 それでも、一度希望を持ってしまったためか、テンユウ殿下の落胆は大きいようだ。


 ただ、テンユウ殿下は先程こういうことはよくあると言っていた。

 もし、結果を予測済みだったのだとしたら、浮かない表情をしているのは、他に何か気になることがあるからだろうか?


 何故、そんな顔をするのかちょっと気になる。

 果たして、聞いてしまってもいいものだろうか?

 少し悩んだけど、何となくそのままにしておくのも気詰まりだったので、恐る恐る問い掛けた。



「何か気になることがおありですか?」

「いえ……」

「あの、もし言いたくなければ構わないんですけど、教えていただけると今後の調査に役に立つのかもしれないので……」



 言い淀んだテンユウ殿下に、今後の調査のためにも教えて欲しいと、消極的に訴えた。

 すると、テンユウ殿下は逡巡した後に、ぽつりと零した。



「時間が、足りないかもしれないと……」

「時間ですか?」

「はい。もうあまり時間が残されていないと思うのです」



 時間が問題とは、どういうことかしら?

 その疑問は、続けられた話を聞くことによって解消した。

 そして、話を聞くにつれて、私の眉間にも皺が寄ってしまった。


 テンユウ殿下が話してくれた症状というのは、彼の母親である側室様が罹っているという病気の症状だった。

 いつ頃からかは不明だけど、以前は普通に歩けていた側室様がよく躓くようになり、そのうち筆も持てなくなったそうだ。

 その辺りで何かがおかしいと医師に診せたらしいのだけど、聞いたことのない症状に医師も判断できず。

 そうこうしているうちに、床から起き上がれなくなってしまったそうだ。


 症状が出始めたのがいつかははっきりとはしていない。

 けれども、最初に医師に診せてからは既に数年が経っているらしい。

 進行の早い病気ではないけど、既に寝たきりとなっていることを考えると、残された時間が少ないのではと心配する気持ちも分かる。



「そうですか。お母様が……」

「はい……」



 母親か……。

 あまりにも遠くに来てしまい、二度と会えないだろう母のことを思い出す。

 実家から通えないほど離れた所に就職したこともあり、帰省するのは年に一度程度。

 それに慣れていたからか、こちらの世界に喚び出されてからも、会えなくて寂しいと思うことは少なかった。

 ただ、それは生きているからこそだろう。

 もしも、側室様と同じように病気に罹り、明日をも知れぬ容態になったらと想像すると、しくりと胸が痛む。


 困ったわね。

 当初は状態異常回復用のポーションを作る予定だった。

 ポーションであればすぐに効果が出るので、治療に必要な時間を考えなくて済むから良いと思ったのよね。

 しかし、それでも間に合わないかもしれない。

 何せ、状態異常回復用のポーションは、ちょっとした症状の差異で効果が出なかったりする。

 合わなかったときは、また別のポーションを探さないといけない。


 症状に差異があっても、問題のないポーションとなると……。

 私は静かに心を決めた。

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