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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章
115/206

95 注意

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 次の休日。

 王宮でフランツさん達と会うことになった。

 元々は商会に行くつもりだったのだけど、フランツさんに連絡を取ったところ、王宮で会いたいと言われたからだ。

 商会の様子も見てみたかったから残念だったけど、強く希望されたので仕方ない。


 王宮の一室に向かうと、フランツさんとオスカーさんが待っていた。

 指定した時間通りに来たのだけど、少し待たせてしまったようで申し訳なく感じる。

 とはいえ、立場を考えると、私の方が後に来なければいけないので、仕方がない。

 未だに慣れないけどね。



「ザイデラの植物図鑑ですか?」

「はい」



 お互いに軽く挨拶をした後、ソファーへと座る。

 最近の商会の様子について少し雑談した後に伝えたのは本題だ。

 ザイデラの植物図鑑を取り寄せて欲しいとお願いすると、フランツさんは視線をテーブルの上に落とした。



「ザイデラの植物図鑑なんて何に使うの? ザイデラの食材を調べるため?」

「それもあるんだけど、ちょっと薬草について知りたくてね」

「薬草?」

「うん、今王宮にザイデラからお客さんが来てるんだけど」

「あー、何か皇子様が来てるらしいね」

「そうそう。それでね……」



 フランツさんが考え込んでいる間に、オスカーさんから声を掛けられた。

 植物図鑑を取り寄せたい理由について問われたので、経緯を話す。

 研究所で皇子様と話す機会があったこと、そのときに皇子様からザイデラ特有の材料を使ったポーションについて聞いたこと、それでザイデラの薬草に興味を持ったこと。

 そんなことを簡単に、順序立てて話すと、オスカーさんの興味を引いたのか、更に質問が飛んで来た。



「セイ様ってポーションに詳しかったよね? そんなセイ様の興味を引けるほど、皇子様はポーションに詳しかったの?」

「あれはかなり詳しいと思うわ。ポーションだけではなくて薬草にもね。私以外の人とも難しい話をしてたみたいだし」

「へー。セイ様はどんな話をしたの?」

「私からはそう話してないわね。質問されたことに返したくらいで」

「どんな質問?」

「そうね……。例えば、上級のポーションは作れるのかとか、HPやMPポーション以外のポーションは作らないのかとか」

「ふーん」

「それで状態異常のポーションの話になって、そこからザイデラの薬草の話になったのよね」

「そうなんだ」



 テンユウ殿下と話した内容を思い出しながら、オスカーさんに伝えると、オスカーさんは握った手を口元に持っていき、視線をテーブルへと落とした。

 フランツさんだけではなく、オスカーさんまで考え込んでしまったようだ。

 何か気になることでもあったのかしら?



「どうしたの?」

「んー、その皇子様って状態異常のポーションについても詳しかったの?」

「詳しいわね。状態異常のポーションって解除する症状毎に材料が違うんだけど、結構な種類のポーションの材料を知っていたわよ」



 そこまで話すと、オスカーさんとフランツさんは互いに顔を見合わせる。

 その後、二人揃って私の方を見ると、フランツさんが徐に話し出した。



「実は、少々気になることがありまして」

「気になることですか?」

「はい。それもあって、本日は王宮でお会いすることにしたのです」



 いつも浮かべている穏やかな笑みを消したフランツさんに、少しだけ不安を感じる。

 気になることというのは何だろう?

 続きを促すと、オスカーさんが話し始めた。



「セイ様はモルゲンハーフェンで会ったセイラン船長のことを覚えてる?」

「セイラン船長? 覚えているけど、彼がどうかしたの?」

「今、彼もこの国に来てるんだけどさ。どうも、薬師を探してるみたいなんだよね」

「薬師……」



 薬師という単語に、思わず眉間に皺を寄せた。

 モルゲンハーフェンでのことを思い出せば、セイラン船長が何故薬師を探しているのかなんて、すぐに思い至る。



「それって、もしかしなくても、私が渡したポーションが原因かしら?」

「そのとおり」



 オスカーさんの力強い肯定に、頭を抱えて項垂れる。


 モルゲンハーフェンで、セイランさんに渡したポーションは、私が作ったポーションだ。

 それも、上級HPポーション。

 市販のポーションよりも効果が高いことに気付かれないか心配だったけど、もし気付かれても、上級のポーションだからと言い張ろうと思っていたのだ。

 それというのも、モルゲンハーフェンには中級のポーションしかなかったから。

 上級のポーションの効果の違いなんて分からないだろうから、その理由で押し通せると思っていたのよね。


 しかし、そこに落とし穴があったらしい。



「セイラン船長、勘違いしていたみたいなんだよね」

「勘違い?」

「そう、この国では市井に上級のポーションを作れる人がいると思っていたみたい」

「えぇ?」



 セイランさんと会ったとき、私は商人の娘に扮していた。

 オスカーさんの話では、それが勘違いを引き起こした原因だったらしい。

 そう言われて、何ともいえない表情を浮かべてしまう。

 そんな私をみて苦笑いを浮かべながら、オスカーさんはセイランさんの事情について更に説明してくれた。


 モルゲンハーフェンで会う前から、セイランさんは優秀な薬師を探していたそうだ。

 かなりの腕前の薬師を探していたらしく、今までお眼鏡に適う薬師は見つからなかったらしい。

 それはそうだろう。

 上級のポーションが作れるほどの薬師となると、大抵は国が抱えているものだからだ。


 そこに出てきたのが、あのポーション。

 しかも、持っていたのは庶民。

 セイランさんが、まだこの国に不案内なことを加味すると、求めていた薬師が街中にいると判断してもおかしくはない状況ではある。

 もしかしたら、中々見つからなかった状況が判断の後押しをしてしまったのかもしれない。


 細かいことは分からないけど、とにかく、希望を見出したセイランさんは、あのポーションを作った薬師を探し始めたようだ。

 ただ、やはり自力では見つけられなかった。

 それは仕方ない。

 実際には、スランタニア王国でも、市井に上級のポーションを作れる薬師なんて、ほとんどいない。

 しかも、作れる人は国か大手の商会が抱え込み、秘匿している。


 それでもセイランさんは諦めなかった。

 最終手段として、オスカーさんに直接問い合わせたのだ。



「もちろん、教えなかったけどね」

「ありがとう。それで、もしかしてフランツさんが今日は王宮で会おうっておっしゃったのも、それが原因ですか?」

「いえ、それもあるのですが、他にも理由がありまして」

「他にも?」



 貴族達に【聖女】がお披露目され、面が割れたこともあり、商会へは変装していくつもりだった。

 モルゲンハーフェンでそうしたように、変装には茶髪のウィッグと眼鏡を着けて。

 そうすると、セイランさんが見知った姿になる。


 商会まで薬師について問い合わせてきたセイランさんだ。

 薬師の出入りがないか、うちの商会を見張っている可能性もある。

 そんな中、商人の娘だという私がお店に来たら、声を掛けるかもしれない。

 フランツさん達から薬師のことを教えてもらえなかったこともあり、その可能性は高いと思うのよね。

 そういうことが予想できたから、フランツさんは王宮で会おうと提案したんだと思ったのだけど……。


 予想が外れ、首を傾げれば、フランツさんは他にもあるという理由を教えてくれた。

 それは、全く思い掛けない理由だった。



「理由というのは船長の雇い主についてなのです」 

「雇い主ですか?」

「はい。船長が薬師を探している様子が気になり、少し調べたところ分かったことなのですが……」



 モルゲンハーフェンでセイランさんと取引したため見落としていたのだけど、セイランさんには雇い主がいた。

 その雇い主というのが、ザイデラの商会で、本来の取引相手だ。

 うちの商会と同じように、そちらの商会にも会長がいて、なおかつ後ろ盾がいるらしい。

 フランツさん達が気にしていたのは、その後ろ盾だったようだ。



「どうも後ろ盾は現在王宮にいる皇子のようなのです」

「え?」

「状況から考えて、恐らく確定なんだよね」



 フランツさんの言葉に固まると、駄目押しのようにオスカーさんまで肯定する。

 オスカーさんの言う状況というのは、セイランさんの船がテンユウ殿下の船と同時にモルゲンハーフェンの港に入港したことを指していた。


 更に、理解していない私のために、オスカーさんは詳細に説明してくれた。


 今回、テンユウ殿下は海を渡ってスランタニア王国まで来た。

 海には危険が沢山あり、何艘もの船が纏まった船団で移動するものらしい。

 船団は主要人物が乗る船と、その船を護衛する船で構成されるのだけど、更に他の船が加わることも多いそうだ。

 その他の船というのが、主要人物と懇意にしている人達の船なんだとか。

 今回で言えば、主要人物はテンユウ殿下で、懇意にしている人達というのは、学者だったり商人だったりする。


 そうしたことを踏まえて、セイランさんの雇い主はテンユウ殿下と懇意にしているのだろうと、フランツさん達は導き出した。

 そこから更に調べたところ、商会の後ろ盾にテンユウ殿下がいるところまで分かったのだそうだ。



「後ろ盾?」

「うちの商会でいうセイ様のような立場だね。もっとも、皇子様はセイ様みたいに商品を開発したりはしないだろうけど」



 私?

 私なんかが後ろ盾になるのだろうか?

 そういえば、身分だけは国王陛下と並んでたわね。

 話を聞きながら一人納得していると、考えていることを見透かしたのか、オスカーさんは面白そうに笑った。


 しかし、セイランさんの後ろにテンユウ殿下がいる、か……。

 ここまでの話を少し纏めよう。


 まず、フランツさん達は気になることがあったため、私と王宮で会うことにした。

 気になることの一つは、セイランさんが薬師を探していること。

 ただ、この国で探し始めた切っ掛けはモルゲンハーフェンで渡したポーションだけど、元々以前から優秀な薬師を探していた。

 そして、気になることのもう一つは、セイランさんの後ろにテンユウ殿下がいること。


 この二つのことを結びつけると、一つの仮説が浮かび上がる。

 セイランさんが薬師を探しているのはテンユウ殿下から頼まれたからではないだろうかという仮説だ。

 しかも、テンユウ殿下が薬草やポーションに詳しいという事実は、この仮説が正しいことを後押しするように感じられた。

 王宮で会うことにした理由の一つに、セイランさんの後ろ盾を挙げたことを考えると、フランツさん達も同じことを考えたのかもしれない。



「もしかして、薬師を探しているのはセイランさんではなくて、皇子なのでしょうか?」

「私共も、そうではないかと考えております」



 推測が正しいか確認すると、フランツさんは神妙な面持ちで頷いた。

 やっぱり、そうかー。

 嫌な予感が当たってしまったことに、半目になる。


 それにしても、テンユウ殿下は何で薬師を探しているのだろう?

 ここまでのことを考えると、単に優秀な人を探しているというだけではないような気がする。


 そんな風に考えを飛ばしていると、オスカーさんが話を続けた。



「それもあって、セイ様には暫く商会に来るのを止めてもらおうって話になったんだよ」

「そうなんだ」

「うん。相手がセイラン船長ならまだしも、皇子様だとねぇ。誤魔化しきれなさそうっていうか……」

「誤魔化す?」



 話を聞くと、オスカーさんが誤魔化したのは商会だった。

 モルゲンハーフェンでセイランさん達と取引する際に、オスカーさんは間に別の商会を挟んで取引をしてくれたらしい。

 取引を行ったのは、セイランさんにポーションを渡した後だったため、何となくそうした方がいい気がしたからだそうだ。

 後に、これが功を奏した。

 セイランさんは私やオスカーさんを、その間に入った商会の人間だと思ったようだ。

 薬師についての問い合わせも、その商会に来たんだとか。


 ただ、セイランさん達から買った品物は、最終的に【聖女】の商会に届けられている。

 もしも荷物の追跡をされていたならば、商会の繋がりがバレているかもしれない。

 そして、そこへ変装しているとはいえ私がノコノコと出向けば、どう思われるか……。



「変装してるセイ様と【聖女】様を結びつけられるかは分からないけどさ、念のためね」

「そうね……」



 結びつけられなかったとしても、商会に出入りしているところを見られれば、ポーションの出所がほぼ確定してしまう。

 無駄な足掻きかもしれないけど、それは避けたいので、暫くは商会に行くのはお休みだ。


 でもねぇ。

 色々と考えると、テンユウ殿下には既に素性がバレてそうな気がするのよね。

 今のところ、向こうからの働き掛けは、薬草やポーションについて聞かれることくらい。

 害はなさそうに見えるけど、このままでいいのか……。

 その日は答えが出ないまま、フランツさん達と別れることになった。


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