表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章
109/205

92 遭遇

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


祝 300,000pt突破!


お陰様で、300,000ptに到達いたしました。

うろ覚えですが、「聖女~」を投稿し始めた頃の累計1位や2位のポイント数がこの辺りだったような気がします。

そんなところまで来ちゃったのねと、とても感慨深いです。

ここまで応援していただき、本当にありがとうございます!

今後も楽しんでいただければ幸いです。


 ザイデラから皇子様が来て、半月。

 学園にも慣れたと思われる頃、研究所への視察が始まった。

 薬用植物研究所への視察は、一番目ではないけど、それほど遅くもない順番だった。


 テンユウ殿下の訪問が予定されている日は王宮に籠った。

 急な予定変更にも対応できるよう、当日だけでなく、前後二日も含めて。

 その甲斐あってか、テンユウ殿下と遭遇することもなく、薬用植物研究所の視察は無事に終わった。


 視察が終わり、少しだけ心の余裕が出てきた頃、研究所に戻った。

 戻ったといっても、仕事をする間だけ。

 御一行はまだ暫くこの国に滞在するので、気は抜けない。

 けれども、視察が終わった今、少しなら研究所にいても大丈夫だろうという判断からだ。


 今日は数日留守にしていた薬草畑の様子を見ることにした。

 いなかった間も特に問題は起こらなかったようで、実験的に植えている薬草達はどれも順調に育っている。

 そのことに、よしよしと頷いていると、ジュードが側に来た。

 水遣りを手伝いに来てくれたらしい。

 そして、視察のときの様子を教えてくれた。

 不在だった私の代わりに、テンユウ殿下のことを注視してくれたのだ。


 リズからの前情報通り、テンユウ殿下は植物についても造詣が深かったようだ。

 対応した所長曰く、明日から研究員になっても問題なく働けるくらいには薬草の知識があったとか。

 ということは、学園で披露していたよりも多くの知識があったということ。

 当然のように、ポーションにも詳しかったそうだ。



「状態異常回復用のポーションの材料も色々知ってたよ」

「それはすごいわね」



 HPやMP回復用のポーションと異なり、状態異常回復用のポーションの材料は多岐に渡る。

 毒を解毒する場合はこれ、麻痺を解除するためにはこれといった風に、状態異常の種類毎に使用するポーションが異なるからだ。

 そのため一口に状態異常回復用のポーションといっても、沢山の種類がある。

 もちろん、ポーションを作るのに必要な材料もそれぞれ異なるので、それを知っているということは、かなりの知識があると思われた。



「色々質問してたけど、質問されてるこっちも色々勉強になったよ」

「へー、どんな?」

「国によって同じポーションでも材料や作る工程が異なったりするのかとか、同じ名前のポーションでも効能が異なったりするのかとか」

「そうなんだ」



 留学してきてるからか、殿下は国によって異なることがないのかというのが非常に気になっているようだ。

 リズもそんな話をしていたもの。

 ジュードにも、その話を伝えると納得したように頷いた。



「あー、でも、所長はなんか難しい顔してたよ」

「所長が?」

「そうそう。質問の意図が気になるとかって。殿下が帰った後に聞いたら、そんなこと言ってた」



 話している間に水遣りも終わり、ついでだからジュードの畑にも水遣りに行こうとすると、ふと思い出したようにジュードが呟いた。

 質問の意図ね。

 恐らく、テンユウ殿下は他にも色々と質問したんだと思う。

 でも、取り敢えずジュードの印象に残っていた質問に焦点を当ててみた。


 単純に考えると国毎の違いを気にしているように聞こえるけど、実は違うということだろうか?

 とすれば、どういう目的でそういう質問をしたのか。



「違い、違い……」

「どうしたの?」

「んー、ちょっと待って、今何か思い出しそうで……、あっ!」



 テンユウ殿下がしたという質問に既視感を覚えて記憶を辿れば、かつての自分が同じようなことを考えていたことを思い出した。

 思い出した途端に、冷や汗が流れる。



「ねぇ、覚えてる? 前に同じようなことを私達も考えてたことがあったわよね」

「そうだっけ?」

「ほら、私が作ったポーションの性能がおかしかったのに気付いたとき」

「あっ!」



 ジュードも思い出したようで、目を大きく見開いた後、掌にポンと拳を打ち付けた。

 しかし、その後嫌なことにも気付いたようで、サッと顔色を悪くする。

 うん、私もその可能性に思い当たったわ。



「セイ、所長が言ってたテンユウ殿下の目的って、まさか……」

「ジュードもそこに行き着いた?」

「うん」



 互いに行き着いたのは、モルゲンハーフェンでセイランさんに渡したポーションだ。

 ザイデラ繋がりで考えると、そこに行き着いてしまった。

 自己満足のために自作のポーションを使ってしまったと、どこか疚しい気持ちがあったために結びつけてしまった点と点かもしれない。

 だから、その可能性は低いのではないかとも思うのだけど、その考えもまた希望的観測の気がする。



「でも、テンユウ殿下はどうやってポーションのことを知ったのかしら?」

「うーん、噂話とか?」

「上級HPポーションだと思われてるなら、噂になるほどのことじゃないと思うんだけど」

「どうかな? 上級HPポーションも研究所でもなければ、そうそう見れるものじゃないからね。すごいポーションを貰ったって噂にはなるんじゃないかな?」



 ジュードの説明には一理ある。

 けれども、それなら噂がテンユウ殿下の耳に入ったとしても、気にされるほどではない気がする。

 ならば、思い当たったテンユウ殿下の目的が間違っているのだろうか?


 そんな風に二人で考え込んでいると、ジュードの後ろから誰かの足音が聞こえた。

 音に気付いて振り返ったジュードの傍から顔を覗かせて見ると、そこには一人だけ供を連れたテンユウ殿下が僅かに口を開いて佇んでいた。


 突然のことに呆然とし、お互いに見つめあってしまったけど、それも一瞬。

 慌ててカーテシーをすると、それに気付いたジュードも急いで私に倣い、お辞儀をした。

 今は【聖女】として対峙している訳ではないし、目上の人への対応として間違ってはいないはず。



「貴方は、確か、薬用植物研究所の研究員でしたね」

「はい。殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」



 少しの間を置いて、口を開いたテンユウ殿下に対して、ジュードが答える。

 顔を覚えられているということは、ジュードは視察の際にテンユウ殿下の近くにでもいたのかしら?

 まさか、その日会った人の顔を全て覚えているって訳ではないわよね。


 それにしても、ジュードったら、貴賓への対応もできるのね。

 やっぱり、王立学園(アカデミー)で習ったのかしら?

 思わずそんな風に現実逃避をしてしまったのも、仕方ない。

 会わないように気を付けていたはずの人が目の前にいるのだから。


 視線を地面に落としているため、テンユウ殿下の表情は窺えない。

 何となく、こちらを見ているような気がする。

 それは気のせいではなかったようで、これまた少し間を空けてから、テンユウ殿下は言葉を発した。



「そちらの彼女も、研究員なのでしょうか?」



 えーっと、これにはどう答えたらいいのかしら?

 テンユウ殿下に会わないようにはしていたけど、会ってしまった場合については打ち合わせしていない。

 誰か代わりに答えてくれないかしら、という希望は残念ながら叶わなかった。

 ジュードも答えあぐねているようだ。

 これ以上質問に答えないのも失礼になりそうだったので、仕方なく肯定する。



「はい、薬用植物研究所で研究員をしております、セイと申します」

「私はザイデラより来たテンユウです。先日、こちらにも伺ったのですが、そのときはお会いしていませんよね?」

「はい、殿下がいらした日は別の場所で作業をしておりましたので……」



 一瞬、通りすがりの者だと言おうかと思ったけど、止めておいた。

 ここは王宮で、そんなに簡単に一般の人が入れる場所ではない。

 それに、下手に嘘をつくと、後で取り繕わなければいけなくなる場合もあるからだ。


 上手く取り繕うことができればいいけど、自分がそれほど器用でないことを知っている。

 それならば、最初から正直に答えた方がいいだろう。

 研究員だと答えるだけなら、何とかなりそうな気がしなくもない。

 再び、希望的観測じゃないかという心の声が聞こえた気がするけど、そこは耳を塞いでおいた。



「そうですか。ところで、そちらの薬草は貴女が育てているのですか?」

「はい」

「やはり研究所で育てているというだけあって、珍しい物が多いのですね」



 他にもっと興味を惹きそうな私の外見(もの)があるにもかかわらず、テンユウ殿下は私の足元にある薬草に目を止めた。

 丁度生えていたのは、クラウスナー領から送られてきた種から育てた物だった。

 比較的育てやすい種類の薬草だけど、王都周辺では自生していない物だ。


 一目見て、そのことに気付いたのだろうか?

 だとしたら、他の人が言っていた通り、テンユウ殿下は薬草に詳しいのだと思う。

 そして、その考えは正しかった。

 その後も周辺にある薬草についていくつか質問され、そのどれもが詳しくない人では思い付かないような内容ばかりだったからだ。

 つい、熱心に話し込んでしまい、気付けばそれなりの時間が経っていた。



「殿下、そろそろお時間です」

「そうか。珍しい薬草が興味深く、つい話し込んでしまいました。お話を聞かせてくださり、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、お引き留めしてしまい申し訳ありません」



 お供の人に促され、テンユウ殿下は元来た道を戻っていった。

 知らず緊張していたのか、テンユウ殿下の姿が遠ざかると、少しだけ強張っていた肩の力が抜けた。

 息を吐けば、同時に隣からも息を吐く音が聞こえる。

 ジュードを見上げると目が合い、お互いに苦笑いを浮かべた。


 取り敢えず、出会ってしまったものは仕方がない。

 ただ、このことは所長に報告した方がいいだろう。

 あー、何を言われるかしら。

 所長への報告も気が重いけど、きっと報告された所長の方が頭を抱えたくなるわよね。

 うん、素直に謝ろう……。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


PixiVision様より、インタビューをお受けいたしました。

人生初、インタビューです。

コミカライズ担当の藤小豆先生と一緒にお話しさせていただきました。

ご興味のある方は、下記のサイトをご覧ください。


・女性に共感されるヒロインは一緒に働きたい人?『聖女の魔力は万能です』インタビュー

 https://www.pixivision.net/ja/a/5459


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「聖女の魔力は万能です」のコミック10巻が1/17に発売されます!
ご興味のある方は、お手に取っていただけると幸いです。

【聖女の魔力は万能です】コミック10巻 書影

カドコミ「フロースコミック」にてコミカライズ版およびスピンオフコミックが公開中です!
「聖女の魔力は万能です」
「聖女の魔力は万能です ~もう一人の聖女~」
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ