91 入荷
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リズとのお茶会が開催されたのと同じ頃。
商会に米や味噌が届いたという連絡を受けた。
皇子様御一行と一緒に来た商船が運んで来たらしい。
モルゲンハーフェンに行った際に買い求めた物は既になくなっていたので、ありがたい報せだ。
モルゲンハーフェンで、あれこれと興味を示したからか、フランツさん達は米や味噌以外にも色々な食料を仕入れてくれたらしい。
一度、商会に見に来ないかと誘われたので、報せを受けた翌日に早速商会へと足を運んだ。
「どうかな? 前回よりも多く仕入れたんだけど」
「これだけあれば暫くは持つと思うわ。ただ、次の入荷まで在庫がもつかは微妙ね……」
商会の倉庫に積み上げられた米袋を見上げながら、オスカーさんの問い掛けに答える。
正直なところ、恐らく在庫はすぐになくなるだろう。
何せ、あの師団長様が米を気に入っている。
実験に協力してもらった後も、研究室の食堂で米料理が提供される日には毎回食べに来ていたくらいだ。
あの熱意から考えると、米が入荷したという話が伝われば、自分でも手に入れようとしそうだ。
「まだ足りないかぁ……」
「えぇ。それに、宮廷魔道師団のドレヴェス様からもお米について問い合わせが来ていない?」
「あー、来てるね」
案の定、師団長様から商会へと問い合わせが来ていた。
それもあって、オスカーさんは今回の入荷量で足りるかどうかを気にしていたらしい。
余剰分を師団長様へと回そうとしていたそうだ。
ちなみに、最初、師団長様はザイデラの商船の方へ問い合わせたらしい。
けれども、積んでいた米は全て売約済みだった。
そこで、買い手であるうちの商会を探し出し、分けてもらえないか、こちらへと問い合わせて来たようだ。
安定の執念である。
「どうする? セイ様が全部欲しいって言うなら断るけど」
「うーん、そうね……」
さて、どうしよう?
師団長様が独自にお米の入手に動いたということは、お米を食べる頻度を上げたいか、または米料理の研究をしたいかということだと思う。
他の目的は思い付かない。
お米を食べる頻度を上げたいだけであれば、研究所の食堂で米料理を出す頻度を上げれば、師団長様にお米を回す必要はない。
しかし、米料理の研究をしたいという話であれば、回した方がいいだろう。
私も米料理の効果について実験したい気持ちはあるのだけど、他の研究もあるため手が回っていない。
師団長様が調べてくれるというのであれば、米料理についてはあちらに任せてしまった方が効率はいいと思う。
よし。
まずは、師団長様がどういうつもりでお米を入手しようとしていたかを確認しよう。
「ドレヴェス様が何でお米を必要としてるかは知ってる?」
「いや、理由は聞いてないよ。どうして?」
「んー、場合によっては、ドレヴェス様に分けてもいいかと思って」
「そう。じゃあ、ちょっと確認してみるよ」
「ありがとう」
理由については、オスカーさんが確認してくれるというので、ありがたくお願いした。
商会に問い合わせがあったものを、私が師団長様に使い道を聞くのも問題がある気がするしね。
後日、お米の使い道については師団長様から直接聞くことになった。
商会から理由を問われた師団長様は、既に決まっている米の卸し先にピンと来たらしい。
商会へは卸し先に直接交渉しに行くという手紙を送付し、同時に、米の卸し先=私のところへと理由を告げに来た。
手紙を受け取ったオスカーさんが慌てて研究所まで来てくれたけど、時すでに遅かったのは言うまでもない。
ご足労いただいたのに、申し訳ない。
そして予想通り、師団長様の目的は研究の方だった。
混ぜ寿司以外の米料理については、きちんと効果を確認していなかったので、それらの効果を検証したいらしい。
そういう訳で、検証結果を教えてもらうのと引き換えに、師団長様にもお米を分けることになった。
また、米料理のレシピについては、食堂の料理人さん達から聞いてもらうことにした。
閑話休題。
オスカーさんとお米について話した後は、味噌の確認に移った。
こちらは樽に詰められた状態で運ばれて来たようだ。
お米とは違って、味噌の在庫は次の入荷までもちそうだ。
最後に案内されたのは、新しく仕入れたという食料だ。
こちらは、驚きと感動の連続だった。
フランツさんの目利きで仕入れられた食材は、久しぶりに目にする物ばかりだったのだ。
餅米に小豆、茸や海産物の乾物、緑茶……。
極め付けは醤油だ。
そう、醤油。
味噌に似た香りがする黒い液体調味料を、もしかしたらと思って仕入れてくれたらしい。
思わずその場でガッツポーズをした。
感動のあまり叫び出さなかっただけ、自重できた方と思う。
もちろん、見せてもらった物は全て購入した。
輸入品ということで恐ろしい金額になったけど、手持ちのお金で買えたわ。
順調な化粧品の売れ行きに感謝だ。
また、購入品の一部は食堂に卸すので、研究所から資金が出るのもありがたかった。
ただ、引き続き買い続けるとなると、一度に買う量は抑えた方が良さそうだ。
本音を言えば一日一食は食べたいけど、買える量を考えれば、一週間に一、二食が限度だろう。
私だけでなく、他にお米を食べたい人もいるから、一食で消費する量も多いしね。
「いかがされました?」
「いえ……」
フランツさんの執務室で、購入品の一覧を眺めながら、考え込んでいると、フランツさんに話し掛けられた。
とはいえ、考えていたことをはっきりと伝えるのは気が引ける。
何故なら、一覧に記載されているのは仕入れ値に経費を加えただけの金額だと思われるから。
本来であれば、商会の利益も上乗せした金額でなければいけないのに、フランツさんの好意でこの金額となっているのだろう。
それを、働いてくれた人の前で高いと言ってしまうのは……。
けれども、フランツさんは私が考えていたこと等、お見通しだったようだ。
「やはり、高いですか?」
「そう、ですね……。輸入品だから仕方ありませんけど」
「そうですね。相手方とも値引き交渉はしたのですが、これが最低価格だそうです」
フランツさん達が交渉してくれたのだ。
彼等が最低価格というのなら、そうなのだろう。
これ以上、安くしようと思うなら自分で生産するしかない。
「稲を植えようかしら?」
「セイ様は栽培方法を知ってるの?」
「軽くだけどね」
ポツリとこぼした言葉に、同席していたオスカーさんが反応する。
稲の栽培については、軽くは知っている。
「でも、植えるにしても、土地がないわ」
「土地かぁ。そうだね」
オスカーさんにはそう言ったものの、土地については手に入れられなくもない。
国王陛下や宰相様にお願いすれば、褒賞として与えてもらえそうな気はする。
【聖女】業の褒賞として色々と融通してもらってきたけど、まだ少ないって言われてるしね。
前に褒賞として土地を提示されたときは、管理ができない等の理由で断った。
しかし、あの頃と比べて、少し気持ちがぐらついている部分はある。
何といっても、自由に好きな物を栽培できる土地というのは魅力的よね。
栽培したいのはお米だけではない。
コリンナさんからもらった薬草を筆頭に、育ててみたい植物が沢山ある。
研究所に実験用の自分の畑を持っているといっても、その広さには限度がある。
実をいうと、既に手狭になっているのよね。
ここ最近、栽培している薬草を増やしたせいで。
うーん、所長に相談してみようかしら。
いや、でも……。
そうやって、オスカーさん達の前でつい考え込んでしまったのだけど、その様子をジッと見つめられているのには、気付かなかった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
投稿ついでに、小話、閑話を別のところに移動しました。
小話、閑話の新しい投稿先は下記のとおりです。
また何か書けましたら、こちらにも投稿したいと思います。
よろしくお願いいたします。
・聖女の魔力は万能です ~ 番外編 ~
https://ncode.syosetu.com/n2791gd/





