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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章
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88 整える

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 王宮に呼ばれてから少しして、ザイデラの王子様がこの国に来ることが関係各所にも伝達された。

 王族が各研究所を視察するということも伝達され、各所で準備が進められる。

 どこの研究所でも、まず行われたのが研究室の整理整頓だというのには、乾いた笑いしか出ない。

 無論、他人事ではない。


 薬用植物研究所でも、同じように、総出で研究室の整理整頓を行うことになった。

 お偉いさんが視察に来るということで、綺麗にしておきたいというのは建前、他国の王族に見せてはいけない内容の書類を隠すためというのが本音だ。


 何せ、研究室の彼方此方に散らばっている書類の中には、他国の人には見せられない機密情報が書かれた書類も混ざっている。

 ここは国一番の研究機関。

 ちょっとした走り書きも、見る人が見れば、お宝であることが分かる。

 そんな物をうっかり拾われて、見られたら大変だ。

 そのことは研究員さん達も理解できるようで、普段は整理整頓に消極的な人達も積極的に動いていた。



「ねぇ、セイ」

「何?」

「来るのってザイデラの王子様なんだよね?」

「そうらしいわね」

「ザイデラって、モルゲンハーフェンで会った船長さん達の国じゃなかった?」

「そういえば、そうね」



 その辺に雑多に置いてあった書類を仕分けしていると、隣で同じように作業しているジュードから話しかけられた。

 ジュードが言うとおり、ザイデラは船長さん達の祖国だ。

 何となく後ろめたくて、今思い出したという風に返事をすると、ジュードは半目になりながら続けた。



「まさかとは思うけど、あの時セイが渡したポーションが……」

「言わないで……」



 ジュードに言われるまでもなく、王宮で聞かされた時にも、そうなんじゃないかという嫌な予感はあった。

 まだ、そうだと決まった訳ではない。

 そう思いつつも、心の中の冷静な部分が、その可能性は高いと囁いている。

 いや、でも、まだっ……。



「手が止まってるぞ」

「あ、すみません」



 背中に嫌な汗をかきながら考え込んでいると、手が止まっていたらしい。

 ちょうど、やって来た所長に指摘され、慌てて手を動かす。

 そのまま通り過ぎるだろうと思っていたのに、所長は何故かその場から動かない。

 どうしたのだろうと顔を上げると、所長は何とも言えない、微妙な表情を浮かべていた。



「それで、ポーションがどうしたんだ?」

「えーっと……」



 ジュードとの会話が聞こえていたらしい。

 全部は聞こえていなかったようだけど、肝心の部分はしっかりと聞かれていたようだ。

 隣のジュードに視線をやると、失敗を見つけられたというような、気まずい表情を浮かべていた。

 しかし、ここで誤魔化しても仕方がない。

 観念して、ジュードと話していた内容を伝えると。

 所長は深い溜息を吐くとともに、力なく笑った。



「俺もそうじゃないかと思ったんだ」

「所長もですか……」



 モルゲンハーフェンで起こった出来事は、所長にもきちんと伝えてある。

 食材を載せて来た船の関係者と知り合った馴れ初めも包み隠さずに。

 もちろん、自作のポーションを渡してしまったことも報告済みだ。

 非常に気が重かったけど、言わずに後で問題になるよりはいいだろうと思ったので、きちんと報告した。

 予想通り、所長には呆れられてしまったけど、最後には「仕方ないな」という風に笑って済ませてくれた。


 そこに今回の話である。

 所長にはいつも迷惑をかけてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。



「陛下達も同じように考えたんだろうな」

「陛下もですか?」

「あぁ。護衛に騎士が付いてただろう? 恐らく彼等から陛下達にも報告が上がっているはずだ」

「それも、そうですね」



 所長の言葉に、私もジュードも頷いた。

 モルゲンハーフェンについて来てくれたのは、普段から懇意にしている第三騎士団の人達だった。

 ただ、いくら仲が良いといっても、こんなところで忖度して、陛下に報告を上げないということはないだろう。

 特に口止めした訳でもないし。



「じゃあ、やっぱり王子様が来るときには、私は研究所にいない方が良さそうですね」

「まだ、お前のポーションが目当てだとは決まっていないがな。まぁ、相手は王族だ。ここに来るときには事前に連絡があるはずだから、その日はここに来なければいいんじゃないか?」

「そうですね」



 王子様が来ている間、私はどうするかという話があったが、回答は保留していた。

 今の話からすると、陛下達から提案されたように、研究所にはいない方がいいようだ。

 王子様の目的がポーションではない可能性もあるけど、危ない橋は渡らないに越したことはない。


 そして、色々と考えた結果、住居を研究所から王宮へと移し、王宮から研究所へと通うことにした。

 自分の希望と陛下達からの要望を折半した形だ。


 所長が言うとおり、王子様が各研究を視察するにあたっては、前もって計画が立てられる。

 その計画に合わせて、王子様がいないときに研究所へと出勤する予定だ。

 この予定はあくまで王子様の留学期間中に限った話だ。

 今後ずっと王宮で暮らすつもりはない。


 こうすることによって、なるべく研究所の仕事に影響を与えないようにするつもりだ。

 魔物の討伐のときには仕方ないけど、それ以外で本業に穴を開けるのは嫌だったのよね。

 決して、育成中の珍しい薬草の成長過程を自分で見たかっただけではない……。






「ごきげんよう、セイ」

「あ、リズ。ごきげんよう」



 王子様の留学期間中の身の振り方が決まり、王宮へと方針を伝えた数日後。

 王宮の図書室で本を読んでいると、リズに会った。

 王宮でお茶会をするようになってからは、以前より会うようになったけど、図書室でリズに会うのは久しぶりな気がする。



「ここでお会いするのも久しぶりですわね」

「そうだね」



 そう思っていたのは私だけではなかったようだ。

 お互いに同じように感じていることが何となく嬉しくて、リズと顔を見合わせて笑った。



「そういえば、セイも聞きまして?」

「何を?」

「今度、ザイデラから留学生が来ることですわ」



 ザイデラから王子様が来ると言う話は、リズにも届いたらしい。

 留学期間中は王子様が王立学園(アカデミー)に滞在することもあり、学園の生徒会にも話が来たそうだ。



「学園って、生徒会があるの?」

「えぇ。基本的に最高学年の中にいる高位貴族が中心となって運営していますわ」

「そうなんだ」



 生徒会というものが存在していることに驚き、話が逸れるとは思いつつ尋ねると、リズは簡単に説明してくれた。

 基本的にってことは、王族がいる場合は学年関係なく王族が生徒会長になるのかしら?

 少し気になったけど、それは置いておいて、王子様のことに話を戻した。


 リズの話では、異国の王族が来るということで、学園の方でも王族が対応することになったらしい。

 その王族というのは、この国の第二王子であるレイン殿下だ。

 レイン殿下はちょうど最高学年に所属しており、生徒会長をしているらしい。


 そして、レイン殿下を中心として、生徒会で対応することになったのだそうだ。

 ちなみに、リズは副会長。

 レイン殿下の手足として細々と動く必要があり、色々な準備に追われているのだとか。



「大変なのね。お疲れ様」

「ありがとうございます。セイの方はいかがかしら? 研究所にも視察に来られるのでしょう?」

「そうみたいね。視察のために、研究所でも準備を進めているわ」



 準備が大変だという風に肩を竦めると、伝わったようで、リズが小さく笑う。

 当初、整理整頓と仕事の調整だけだと思われた準備は、それだけでは済まなかった。

 国外の貴賓が来訪するということで、研究所の外壁の塗り直しなどまで行われることになったのだ。

 修繕する箇所の選出や、予算の取り決めに、所長を筆頭に、関係者が慌ただしく動いている。


 その話をリズにすると、「どこも同じですのね」と返ってきた。

 学園でも同じように、建物の修繕等が進められているのだそうだ。

 研究所よりも広く、滞在時間が長くなる学園では、修繕する箇所も多いだろう。

 学園の関係者にも、お疲れ様と言いたい。



「どんな方がいらっしゃるんでしょうね?」

「真面目な人じゃない? 他国のことを勉強しに来るくらいだし」

「そうだといいですわ」

「違う場合があるの?」

「そうですわね……。例えば、問題を起こして本国にいるにいられず、一時的に外国に身を寄せる場合もありますわね」

「あー……」



 リズの例えを聞いて、納得する。

 そういう場合にも、他国に行くことってありそうだ。

 留学や視察は建前という訳だ。


 ただ、今回は真面目な人であって欲しい。

 そうでなければ、リズ達が苦労しそうだ。

 それに、そういう人の方がリズやレイン殿下と気が合うだろう。

 折角の機会なので、王子様とリズ達がいい関係を築けるといいなと思う。


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