85 お披露目
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日々はあっという間に過ぎ去り、お披露目会の日がやって来た。
前日より王宮の部屋に泊まり込んだ私のお肌は、つやっつやのぷるっぷるだ。
侍女さん達のマッサージが終わったすぐ後も、生まれ変わったようなその状態に驚いてはいた。
けれども、起きてからも、その状態が続いていることに更なる驚きを隠せない。
「いかがされましたか?」
「いえ、昨日もでしたけど、今日も肌の調子がいいなと思いまして」
「セイ様の化粧品を使わせていただきましたから」
「化粧品よりもマリーさん達のマッサージの腕前のお陰だと思います。ありがとうございます」
「恐れ入ります」
あの手技は本当にすごかった。
自分でしてもここまでの効果が出るか甚だ疑問だもの。
素晴らしい効果に、改めてお礼を言うと、侍女のマリーさん達は嬉しそうに笑ってくれた。
化粧が終わったら、次は衣装だ。
淑女の日と同じように、侍女さんの一人がローブを持って来て、見せてくれる。
「お披露目会の衣装はこちらになります」
「これ、ですか?」
白地に金糸で刺繍が施されたローブは、以前着た物よりも遥かに豪華だった。
まず、刺繍されている範囲が以前の物よりも広く、刺繍自体も複雑な図案になっている。
しかも、所々に透明な宝石が縫い付けられていて、それが光を反射してキラキラと輝いていた。
あまりの豪華さに、私の目が点になってしまったのも仕方ないわよね。
こんな豪華な物でなくていいと喉まで言葉が出掛かったけど、耐えたわ。
口に出してしまうと、更に豪華なローブが出て来そうだもの。
もっとも、口に出さなくても考えていることはお見通しなようで、別の侍女さんは私の様子を見て、困ったような笑みを浮かべていた。
「お似合いですわ」
「ありがとうございます」
そうして、以前見た聖女っぽい私、version 2が出来上がった。
似合ってる……のかな?
周りの侍女さん達が皆、にこやかに頷いていて、口々に褒めてくれるので、多分似合っているのよね?
衣装に着られている気がするけど、頑張ってくれた侍女さん達に申し訳ないので、気のせいってことにしておこう。
準備が整い、マリーさんが淹れてくれた紅茶を飲んで待っていると、部屋のドアがノックされた。
どうやらお迎えが来たらしい。
迎えに来てくれたのは見知らぬ騎士さんだった。
第一か第二騎士団の人だろうか。
軽く挨拶をして、お披露目会の会場に向かう。
先頭に一人、左右に二人、後ろに一人。
計四人の騎士さん達に囲まれて、王宮の廊下を歩く。
ちょっと物々しい。
それが気になって、笑みを浮かべようとしても、微妙な感じの笑みになっている気がしてならない。
マナーの先生からは、普段は口角を上げて、柔和な表情を浮かべているようにって言われているんだけどね。
暫く歩くと人が集まっている場所に到着した。
その中に、国王陛下と宰相様を見つける。
二人の側にいた騎士さんの一人が話し掛けると、揃ってこちらを向いた。
周りを取り囲んでいた人の輪が左右に分かれ、二人までの道ができる。
その中を騎士さんに先導されながら、二人の元まで歩いていった。
「今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。漸く貴女のお披露目が行えること、嬉しく思う」
注目を浴びて、緊張してしまい何を言えばいいのかが分からなくなる。
咄嗟に当たり障りのないことを言ったつもりだったのだけど、大丈夫だったかしら?
そんな私に、陛下は笑みを浮かべてくれた。
挨拶が終わると、すぐに時間になったようだ。
私達以外の参加者は既に広間に集まっているという。
広間は目の前にあるドアを潜った先だ。
陛下がドアの前に立ち、その後ろに並ぶ。
侍従さんがドアを開けると、ザワザワとしていた扉の向こうがシンと静まり返った。
背の高い陛下が壁になって、ドアの先は見えないけど、この先に多くの人がいると思うと緊張が高まる。
平常心、平常心。
深く息を吐いたところで、陛下が歩き出した。
陛下の背中だけを見つめて、広間の中に入る。
すぐに横に折れれば、数段高くなった台があり、陛下はその上に上がった。
私も後に続く。
台の真ん中で陛下が立ち止まり、正面へ向き直る。
私は陛下の左側、少し離れた位置で立ち止まって正面を向いた。
この辺りは、前日にリハーサルをした通りだ。
そうリハーサル。
文官さんにお願いして、前日にちゃんと行ったのよ。
陛下や宰相様はいなくても、当日どの位置に立てばいいのかや、何をすればいいのかを予め教えてもらっておいたのだ。
そうしないと、確実に右往左往してしまうことが予想できたからね。
行事の準備で忙しいのに、私の申し出を快く受けてくれた文官さん達には感謝しかない。
お陰様で、こうして何とか舞台の上には立てたわ。
「先に【聖女召喚の儀】を行い、【聖女】殿をお迎えした。今日は皆に【聖女】殿を紹介しよう」
陛下の言葉を受け、ローブを摘み、カーテシーを行う。
視線は足元に落としていたけど、私のお辞儀と同時に会場にいる人たちもお辞儀をする気配がした。
腰を上げると同時に視線を前に戻せば、皆の視線がこちらに集中しているのが分かり、ピシリと体が固まった。
緊張して吐きそう。
何とかしなくてはと、心を無にしてぼんやりと遠くを見るようにする。
隣では、陛下の話が続いていた。
話の内容は、魔物についてだ。
私が魔物の討伐のために地方を回り、成果を上げていることも話していた。
一部の人達は知っているけど、この場で改めて話したのは、魔物の脅威が落ち着いてきていることを全員に周知させるためだろう。
陛下の話を聞いて、会場にいる人達の表情が明るいものに変わっていった。
私はそれどころではなくて、さっぱり気付いていなかったんだけどね。
そうしていると奥の方に所長が立っているのに気付いた。
正装だからか、身に付けているのはいつもよりも華やかなジュストコールとベストだ。
所長が着飾っている姿、初めて見たなぁと思っていると、所長と視線が合った。
所長は片眉を上げてニヤリと笑うと、台に近い方を指差した。
指された方を見れば、騎士服に身を包んだ団長さんも見つけた。
団長さんは無表情で前を見ていたのに、こちらと視線が合うと、目元が少しだけ和らいだ。
その瞬間、自分の体からも力が抜け、自然に口角が上がった。
周りを見る余裕ができたので、団長さんの立っている付近を見回すと、他にも見知った顔を見つけることができた。
いつもよりも華やかなローブを纏った師団長様とインテリ眼鏡様だ。
私が見ていることに気付いた師団長様が小さく手を振り、師団長様の後ろに立っていたインテリ眼鏡様の眉間に盛大な皺が寄った。
それを見て、団長さんのお陰で浮かべられた自然な笑顔が、苦笑いに変わってしまったわ。
何やってるの、師団長様。
師団長様の行状に呆れつつ、更に視線を巡らせると、今度は意外な人物を見つけた。
リズだ。
あれ? 何で参加しているの?
目を丸くして見ていると、私の視線に気付いたリズが、浮かべていた笑みを深くする。
同様に笑みを深くすることでリズに応えながら、考えた。
てっきり、お披露目会には大人ばかりが参加するものだと思っていたけど、そうではなかったらしい。
よく見れば、リズ以外にも同じくらいの年齢の人達がちらほらいる。
思い返せば、舞踏会は成人のみって聞いたけど、お披露目会では聞かなかったわね。
だから、リズが来てくれたのかもしれない。
そうこうしているうちに陛下の話が終わり、会の解散が告げられる。
再び陛下の後について、広間の外に出た。
「ご苦労だった」
「いえ」
「疲れただろう。舞踏会まで部屋で少し休むといい」
「ありがとうございます」
「また夜に会おう」
ホッと一息吐くと、国王陛下から声を掛けられた。
体力的には問題ないけど、精神的には非常に疲れた。
そう長い時間ではなかったのにね。
陛下も分かってくださっているからか、話をすぐに切り上げてくれた。
広間にはまだ人がいるようで喧騒がここにまで届いているけど、陛下のお言葉に甘えて、部屋まで戻ることにしよう。
ここまで案内してくれた騎士さんに頼み、部屋まで連れて行ってもらうことにした。
お手を煩わせてしまって申し訳ないけど、いまいち道を覚えていなくて、一人では戻れそうになかったのだ。
騎士さんは快く応じてくれ、来た時と同じように物々しく部屋に戻った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
新作を始めました。
婚約破棄からのスローライフものになります。
聖女よりも1話が短めで、更新頻度を高くしています。
聖女の更新の合間のお茶請けにでも、お読みいただけると幸いです。
(修正していたため、暫く更新をお休みしていましたが、そろそろ再開したいと思います)
「賢者は探し物が得意です」
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聖女ともども、よろしくお願いいたします。