ある王の悩み
――そして今に至る。
私はこの世界に来て何年か経つが、自分の国の王について顔と名前ぐらいしか知らなかったので王についての情報を私の仕事道具のパソコンで調べる。パソコンを異世界でも使えるように色々手を加えてくれた女神には感謝だな。
私自身の成長の妨げになると思い、なにか厄介な事に巻き込まれたと思った時のみに使うことにしているパソコンを今回は迷う間もなく使った。
それだけ今回の相談には厄介な匂いがプンプンしたのだ。国王直々に私のもとに来るほどの相談、あまりの厄介ごとの匂いに鼻が曲がるまである。
「それではもう一度お尋ねしますが相談内容は『学校にいかず、自室に引きこもった王子をなんとかしてくれ』ということでよろしいですね?」
「ああ、恥ずかしながらその通りだ」
そう言った王の表情は、先ほど騎士相手に啖呵を切っていた者と同一人物ではないかのように弱弱しいもので、自分の子どもを心配していることがありありと分かった。
王といえども人の親、子を心配する気持ちは今まであって来た街の親たちと何ら変わりはない。
「この『なんとかする』というのは『王子を勇者学校に行かせる』ということでよろしいでしょうか?」
勇者学校とは現在帝国と戦争をしている魔王軍との戦う勇者を育てるための施設である。
魔王軍との戦争が始まって二年後に建てられた施設で、入学には戦闘、頭脳ともに高水準でなければならないというエリートだけが集う学校だった。しかし、私が理事長から学校の経営と方針について何度か相談をうけ、今では一芸に秀でているものも入学できるようになっている。
「ああそうだ、それでどうだ? この依頼、受けてくれるか?」
「まずは詳しいお話しを聞いてもよろしいでしょうか? もしこの依頼が私の領分ではなかった場合、私としては何もできないので」
「……わかった。話をしよう」
王からの話をまとめるとこうである。
一週間前、突然王子が学校から帰ってくると、部屋に急いで入っていきそれから今日まで学校に行かなくなった。どうしたのかと尋ねても返事はなく、学校側になにがあったのかと問いただしても全くわからない。王様も今までわがままなんて言ってこなかった息子の初めてのわがままなのであまり強く出られないでいる。おわり。
困った、情報が少なすぎる。だが
――――なるほどこれは私の領分だ。
「話は分かりました、これは確かに私の仕事のようですね」
「そうか! 恩に着るッッ! 理由もわからなくてほとほと困っていたのだ」
私に頭を下げる王。私は王族に対しての礼儀などよくは知らないが、そんな私でも王に頭を下げさせるというのは不味いことという事は分かる。こんな姿先ほどの騎士が見ていたら発狂でもするのではなかろうか。
……それはそれで面白そうだと思ってしまうあたり我ながらいい趣味をしていると思う。
「頭をお上げ下さい殿下。このような姿を先ほどの騎士が見たら事です」
「……それはそれで面白そうではないか?」
顔を上げてそう言った王の表情は、先ほどは口元しか見えなかったがまさにいたずらっ子のそれであった。この男とは気が合いそうだ。そう思って私は思わず笑みを浮かべてしまう。
「お戯れを。しかし、私がこの依頼を受けるうえでお願いがあります」
「お願いだと?」
途端にいたずらっ子のような表情を引っ込め、そこには、今まで幾度となく難敵と渡り合ってきたアルカト帝国国王としての顔が現れる。まあ渡り合ったかどうかなど私が知るはずもないので只の予想なのだが。
「まず一つ、王には出来うる限りの力を私たちに降りかかる火の粉を払ってもらいたいのですよ。出来るのならば護衛として騎士を一人私たちが王都で活動する際に付けていただきたい」
王は私のお願いに拍子抜けしたといった表情であった。
「? それは構わないが君たちには不要ではないか?」
「いえ、少々事情がありまして。護衛さえついて貰えるのならばこの依頼、お受けします」
「あいわかった。アルカト帝国の最強の騎士をつけよう」
! それは困る、それでは意味がないのだ。
「いえ、出来るのならアルカト帝国の最弱の騎士をお願いしたい」
私がそういうと王は腕を組んで唸る。
「聞きしに勝る不思議なお方であるな、護衛に最弱の者を望むとは」
私はから笑いをしてごまかす。王に真意がばれると何かと介入してきそうで面倒であるのでそれは避けたいところであった。
「しかしまあ深くは聞かぬよ。では、望み道理最弱の騎士を王都に着きしだい手配しよう」
「無茶なことを言ってすみません」
今受け持っている仕事のことを考えると、騎士の中でも一番下の実力の者との人脈のほうが私には必要であった。なのでこの要求を呑んでくれたのは助かった。
「では今度はこちらの無茶を聞いてもらうとしよう」
「なんでしょうか?」
「今受け持っている仕事より優先的に息子のついて取り組んで欲しいのだ。次期国王が引きこもっていると民に知れると不安にさせてしまうだろう。無理にでもあいつのは出てきてもらう必要がある」
そう言うと王は表情を曇らせる。
自分の子供より民が大事か‼ ……などと少年漫画の主人公ならば怒りそうなものだが、そのような激情を持つには私は少々年を取って枯れてしまっている。
「ご事情は分かりました、幸い今取り組んでいる仕事はございませんので直ぐに取り掛かりましょう」
唯一取り掛かっている仕事である首爺の仕事は、本人がバカンスに行っているのでどうしようもない。
「それでは、用意が出来次第共に王都に向かうとしよう」
「せっかくのお誘いですが、少々勇者学校で王子について調べたいので先にそちらに向かってから王都に向かおうと思っています」
王の誘いを断るのは大変失礼なことであり、騎士達に見られでもしていたらその場で切りかかってきたかもしれない。
「なるほど了解した。しかし、それでは学校に着くまでにかなりの時間を要するのではないか?」
「そこはご心配なく。私たちにはこれがありますから」
そう言って私は一管の笛を首元から取り出す。その後ろでは今まで話を聞いていたミュウがいそいそと出かける準備をしている。
「それは?」
「実際に見て下さった方がいいでしょう。ミュウ出かける準備はできたか?」
「ええ! いつでも貴方様とのデートに出かけることが可能よ」
「はあ、そうかい」
心底楽しそうに笑うミュウに対し。デートじゃない、仕事だ。そう訂正する気にもならず無視して私は笛を口にくわえて外にでる。
「何が始まるのだ?」
「まあ黙ってみていなさい人間の王よ」
半バンパイアであるミュウは人間の王に対して敬語を使う気などさらさらないらしく、不遜な態度で対応する。私も特には注意することはない、自分がミュウの立場ならば同じようにしたと思うのにどうして注意が出来ようか。
私は二人をしり目に思い切り笛を鳴らす。
スウッ―
しかしどれだけ笛を吹いても間の抜けた息が抜ける音しかしない。
「? 何もならないではないか」
王は音が出ない笛を吹き続ける私を見て不思議そうにしている。まだこの世界にはまだ超音波という概念は見つかっていない。この世界でも生活に関わり深い犬を操るための犬笛すらも存在しないのだ。
そもそも犬笛とは、人間の耳は20000Hzの音までしか聞き取ることが出来ないが、犬は40Hzから60,000Hzの音まで聞き取れると言われている。その人間より遥かに高い高周波数への感受性を利用し、犬笛を使用することで、周りの人間には気づかれることなく、犬に的確な指示をだすことが可能になる、という代物である。
この笛はその原理を利用したものであって、ある生き物を呼ぶことが出来る。その生き物とは……
ドスンッ
空から隕石でも落ちてきたかと思うほどの地響きが鳴る。
土煙が収まるとそこには一対の大きな羽と爬虫類のような目を持った赤黒い巨大な生物が現れた。
「ペットのドラゴンです」
私はドラゴンに手を向けて王に紹介する。ドラゴンに驚いたのか外に待っていた騎士達は腰を抜かしている。ざまあみろ。
「なんと、ドラゴンを使役するのか」
「そうよータローはすごいのよー」
ミュウは火照った顔に手を当て、王に私のことを自慢する。悪い気はしないがやはり照れるものがある。
「それでは殿下、私とミュウは勇者学校に向かいますのでお気を付けてください」
私はミュウからお気に入りのビジネスバッグを受け取り、中にパソコンや財布が入っている事を確認した。
「ああ……」
王はまだドラゴンを見た衝撃から立ち直れていないようである。しかし、立ち直るのを待っている時間が惜しい。私とミュウはドラゴンにまたがる。
「勇者学校までだ、頼んだぞ」
私が撫でながらそういうと、ギャオという一鳴きの後その大きな翼を羽ばたいて地面から飛び立つ。
一二三とミュウが去った後、最初に一二三と話していた騎士が尻餅をついたまま口を開く。
「あれがドラゴン、あ、あんなのに勝てるわけがない」
そう嘆いた騎士に対して視線を一二三達に向けたまま王は口を開く。
「ドラゴンだけではない。バンパイアの国の姫ハード・K・ミュウリンガーを筆頭に他国の英雄と言われるものとも関係を持っている男、それが一二三 四朗という男なのだよ。まず勝たなければいけない状況に立ったら終わりだ」
王は最初からミュウが半バンパイアであることは知っていた。知ったうえでミュウをお嬢さんと呼んで知らないふりをしていた。
王の話を聞くと騎士は膝を震わせる。
「わ、私はそんな男になんてことを」
「半バンパイアの姫に去る際に言われた、「次はない」とのことだ」
王がミュウの警告を告げると騎士は鎧の中で失禁する。王は匂いに顔を顰めるが、少し憐れに思い注意はしなかった。
「一二三 太郎、『敵にした時点で負けが決まる男』か。どうにかして我が国に仕えてはくれないものだろうか」
各国の王たちが真しとやかに噂しているのを耳にした名を呟くとフードを被りなおしてその場から立ち去るため歩き出した。
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