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けもの  作者: 弥招 栄
7/9

第三話〜坂道〜後編




「なあって」

 ヒロの背中が、急に小さくなった。

「私って、けものなのかな……」

(猫の)

「なんだそりゃ」

「人はサ、人に生まれたら、勝手に人として生きていけるわけじゃないんだよ、きっと」

「なに、急にテツガクしてんだ?」

 からかいの調子を声に込めようとして、ヨシトは失敗した。冷たい距離が、ヒロとの間に生まれた、そんな気がする。それを少しでも埋めようと、ヨシトは足を速めた。

「じゃあ、お前は人じゃないってのか? じゃあ、なんだよ」

(泣く声が)

「――けものか? けものってなんだよっ」

「けものってなに?」

 ヒロは顔をうつむかせたまま、一定のテンポで足を動かし続けている。

 ヨシトは困惑した。どんなに足を急かしても、ヒロに追いつけない。人とけものの世界を分かつ線が、二人の間に引かれているのか。まるで足下のかすれた白線のように。

――ちがう!

 ヨシトは歯を食いしばった。

――俺たちはずっと一緒にいたんだ。ずっと、同じところに。

 だけどあの時、視線が絡み合ったとき、いくら手を伸ばしても届かない、手を伸ばすことすらできない距離が、分厚い壁が、二人の間には無かったか?

 たぶん、ほんのちょっとの勇気で乗り越えられたはずの、無限に遠い距離。

「ねえ」

 ヒロが不意に立ち止まり、くるりと振り向いた。

 ヘッドライトとも、街灯とも違う、点滅する薄暗い明かりが、彼女の横顔を照らしていた。

「疲れた。休みたい」

「だから、なに言って――」

「雨降りそうだし。休んでこ」

 あたりの景色が、ようやくヨシトの意識に届いた。

 ちらちらと色を変える、くすんだネオン。ところどころが切れたままの、電球の群れ。風にばさばさと音を立てる、色あせたビニールののれん。

 峠の途中にポツリとある、瀟洒しょうしゃを装った、夜の建物。

「ば、馬鹿。ここは……」

「大丈夫。おごってあげる。バイト代、出たばかりだから」

 まるで、喉が渇いたからジュースを飲もう、おごってやる、そんな口調。

「な――」

 開いた口から、それ以上の言葉が出てこない。ヨシトの喉が、けたようにひりつく。

「どうしたの?」

ヒロが一歩近づいた。

 ご宿泊・ご休憩・フリータイムと書かれた料金表の明かりが、彼女の顔を、目を、照らす。

 熱を帯び、潤んだ光を放つ瞳、上気し、汗ばんだ頬。ゆるく開かれた唇。

――違うっ! これはヒロの顔じゃない!

「私、知ってるよ」

「な……なにを」

――これは

(猫の泣く顔)

「見てたでしょ」

(浅黒い大人に組み伏せられてなく仔猫)

――成長した牝猫の顔

「ど、どうして――」

――せっかく、ぶっ壊れた日常こそが日常だと、そう思えるようになったのに

「ヨシトは私としたくないの?」

「なんで急にそんなことを言うんだよ!」




いつもありがとうございます。


……ちょっとオフラインがえらいことになってまして(泣)

何とか更新は続けて生きたいとは思っていますので、よろしくです〜。


気に入っていただけたら、ランクリをお願いしますっ。

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