家族になろうよ
前回訪れた時と違って、ふたりには同じ寝室が用意されていた。
「ねえ、これってキミを抱いてもいいってことかな?」
エヴァンははしゃいでいた。指輪をなくすという失態を犯したものの、ようやく愛するラルフにプロポーズできた、両親からも祝福された。何よりも大きな壁だった祖父ヘンリーがふたりを認めてくれたということがうれしかった。
そしてラルフの子供を持つという、エヴァンが願っていたとおりの展開になりそうだ。
「実家でエヴァンに抱かれるのってなんだか恥ずかしいわ」
やんわりと拒否するラルフをエヴァンはベッドに押し倒した。恥じらうラルフを犯すことほど性欲をかき立てられることはない。激しく責められても階下の両親を気づかってラルフは声も立てられない。口に枕を押し当てて必死に耐えるラルフの姿態にいっそう燃えるエヴァンだった。
翌日、エヴァンとラルフはヘンリーの見舞いにふたりで出かけた。
「なんだ、物書きも来ていたのか。なぜ昨日顔を見せん」
「す、すみません。実は怖かったんです」
暑くもないのに汗ばんだエヴァンは、やっぱりヘンリーがちょっと苦手だと思った。
「バカがつくほど正直な男だ」
ヘンリーは豪快に笑った。
ヘンリーの顔色が昨日よりずいぶんよくなったとラルフは感じた。
ゆうべセックスのあとラルフが寝物語としてジャスパーとローリーの話を涙ながらに語った。彼らの存在がなかったら今回、ヘンリーはラルフとエヴァンの結婚を許してくれなかったに違いない。
涙ぐむラルフを胸に抱きながら、戦場で手を取り合って息絶えたふたりに思いを馳せたエヴァンだった。
古代から、たぶん人類の誕生とともに同性愛は存在した。だけど有史以来いつの時代、どこの国でもそれは圧倒的少数派で嫌忌されるべきもの、ともすれば迫害、弾圧され刑罰の対象でもあった。
父さんの時代でさえゲイは生きづらかった。そのもっと前、ジャスパーとローリーの生きた時代はどんなだったろうか。生と死が背中合わせの戦場の、極限状態の中で愛し合った男たち。発覚すれば懲罰部隊送りになるという同性愛。
そしてHIVの嵐が吹き荒れた時、同性愛者はさらに世間から差別、攻撃された。自然の摂理に背いた同性愛者を淘汰するためにHIVが蔓延したとさえ言われた。
そんな彼らの犠牲の上に、今の僕たち同性愛者の人権が認められ、かなり扉が開かれた社会が成り立っているんだということを忘れてはいけない。
「僕たちは絶対に幸せになろう」
ラルフを抱きながらエヴァンはつぶやいた。
エヴァンの実家、ギルバート家。イーサンのスマホに着信があった。弟エヴァンからの、結婚ともうひとつのサプライズな知らせだった。
一年前、初めてラルフを伴って帰省したエヴァンからゲイであることをカミングアウトされたイーサンは激昂した。しかし妻も幼い子供たちもラルフを偏見なく受け入れるのを見て考えを改めた。イーサンが何よりも恐れたのは世間体だった。
そして父親もかつてバイセクシュアルだったという事実を知るに至った。父親が40年間、人知れず苦しんでいた過去のトラウマを払拭するためにイーサンとエヴァン兄弟は奔走した。その父親レイクは所属していたロックバンド、ロートレックの再結成をきっかけに元のボーイフレンドをパートナーとして新たな人生を歩み始めた。
そしてついに弟がラルフと同性婚をする。今のイーサンは心から祝福することができた。
「シンディ、エヴァンから素晴らしい報告があったよ」
キッチンにいる妻に呼びかけた。
「エヴァンがついに結婚するって!」
「ホント? すてき!」
シンディがキッチンから飛び出してきた。
「それにね、もっとすごい報告もあるんだ」
「なぁに?」
「エヴァンたち、子供をもうけるって。代理母出産で子供を迎えるってさ」
「なんてステキ! ラルフはいいママになるわ。エヴァンだってあなたみたいに素晴らしい父親になるわ。ああ、どうしよう。ワクワクするわ」
シンディはイーサンに抱きついてキスをした。
「キスしてる」「キスしてるぅー」
両親のうれしそうなキスシーンを見たツインズも、テディベアのラルちゃんにしがみついてキスをしてはしゃいだ。
「この子達のいとこができるのね」
「うん、そしてラルフが僕たちの家族になるんだ」
「ステキ! はやくラルフを抱きしめておめでとうって言いたいわ」