Happy Wedding 1
よく晴れた日曜日。
エヴァンとラルフの結婚パーティーがラルフの実家の広大な庭で執り行われた。当時のジョージア州では同性婚もそれに準ずるユニオン制度も認められていなかったので、先にふたりの住む街で婚姻届を提出してきたのだった。
ゲストは両家の親族とごく親しい友人たち、もちろん父親レイクとパートナーのジョーイ、伯母スーザンと夫スコットの姿もあった。
アーロンとバネッサもかけつけた。隣人であるバネッサの家族もお祝いに集まった。あとはゲイをカミングアウトした後も変わらない友情を示してくれたラルフの仕事仲間と、エヴァンの出版関係のわずかな友人だけだった。
結婚パーティーとしてはとてもささやかなガーデンパーティーだったけど、ラルフの母親とラルフ自身、そして手伝いを買って出た隣家のバネッサの母親が腕を振るった自慢の料理がテーブルに並べられた。
揃いのタキシードに身を包んだ新郎エヴァンと同じく新郎ラルフは家族と友人に祝福された。
「エヴァン、ラルフ! おめでとう!」
アーロンを伴って駆け寄ってきたバネッサがラルフとハグした。
「バネッサ、次はあなたたちの番よ」
「うん! ブーケトス、私が必ずキャッチするからよろしくね」
「オーケイ! 出席者はほとんど既婚者ばかりだからバネッサ、あなたに向けて投げるわ」
ささやかながらも盛り上がるガーデンパーティーに遅れて到着したゲストがいた。
新郎&新郎よりも高級で仕立てのいいスーツを着た長身の男がさわやかな笑顔を振りまきながら会場に入ってきた。
「げっ! ダニー・トンプソン! ラルフ、キミが呼んだのかい?」
「知らないわ。いくらなんでも元カレなんて呼ばないわよ」
動揺する新郎と新郎のもとに満面の笑顔で近づいてきたダニーは、やっぱり悔しいほどハンサムだった。
「おめでとう、ラルフ」
ラルフとハグするダニーの手が迷わずラルフのヒップをまさぐるのを見たエヴァンはかなり気分を害した。
「誰に招待されて来たんですか?」
ムッとした顔のエヴァンにダニーは驚いたような表情で答えた。
「だってキミとは兄弟じゃないか。兄弟の結婚パーティーに出席するのは当然だろ?」
意味がわからず、きょとんとするラルフにウィンクしながらダニーは言った。
「エヴァンとは兄弟同然の仲良しってことだよ」
「まあ! 知らなかったわ。エヴァンとダニーがお友達になっていたなんて、ステキ!」
ああ、ラルフってなんて純真なんだ、そんなキミだからこそ僕は惚れてしまったんだ。
エヴァンは仕方なくダニーの出席を認めることにした。これから子供のことだってダニーの力を借りることになるのだから。
「アタシ、飲み物をとってくるわね」
ご機嫌なラルフが離れたすきにエヴァンはダニーを睨みつけた。
「信じられないほどあつかましいですね。元カレの結婚パーティーに押しかけるなんて」
「そんなに睨まないでくれよ、brother」
「僕の兄弟は兄ひとりですよ!」
エヴァンは声を荒げた。
「キミとはアナ兄弟じゃないか」
「ラルフの前でそんな下劣なこと言わないで下さいっ!」
「あはは。キミ、そんなにラルフに惚れてるんだ」
ダニーはムカつくほど爽やかに笑って続けた。
「で、どっちの精子を使うか決まった? よかったら僕の優秀な精子を無償で……」
「要りません!」
エヴァンが速攻でダニーの言葉を遮った。
ダニーはケラケラ笑っていた。そこに飲み物を持ったラルフが戻ってきた。
「なんだか楽しそうね。うれしいわ、エヴァンとダニーが仲良しになって」
「僕だってうれしいよ。まるで前世からの兄弟みたいだ」
そう言いながらダニーは強引にエヴァンとラルフの間に入ってふたりと肩を組んだ。
「Shit!」
エヴァンはラルフに聞こえないように小さく舌打ちをした。