A Son
カンが17という最も美しい歳になって数日たったとき、カンは故郷からでて世界の風景な一部になることを決意した。昔から音楽や絵画にしか興味が無かったカンがそう決意したことは、なるべくしてなったことであり、自分の魂から溢れる様々な情熱を自分の世界に放出しているだけでは満足できなくなっただけだった。それに自身が一般的な社会と迎合できないことはカンにとって分かりきったことだった。カンは夕飯の時、父に伝えた。
「聴いてくれ学校を辞めるこの町をでて自身の人生に最大限の愛の奉仕をする。もう決めたんだ」父はカンの瞳を見つめ続けそして言った。
「荷物の準備と世話になった人々に礼を言っておきなさい。」
父との間には強い結び付きがあった。寡黙な父ではあったが物言わずとも人の美しさや醜さをカンに伝え続けていた。カンは父を1人の男として魅せられていた。父の大量のレコードやフィルム、本や絵画やピンナップ。それらはカンの心を養っていった。カンは父にある日言われた言葉が忘れられない。
人間のやることはなにもかもが不完全だ。だからこそいとおしいんだ。完璧で完全な物なら宇宙や深海にでも行けばいい。森のなかでも水溜まりの中にでも顔をつけとけばいい。不完全だからこそ人は人を愛せるんだ。
町でも有名な悪童だったカンが自分なりの分別を持っているのも父から学んだものだ。父との間には神秘があった。
カンは夕飯のあと、荷物をまとめ、幼なじみのミイに出発の報告をしようと思ったがあいにくミイは親戚の街に行ってしまっていた。
そこでカンは父に、町人の皆にカンが町を出たと伝える方法を提案した。父は久しぶりに笑顔をみせ赤ワインを一息で飲み干した。
だからカンが列車に揺られ希望に打ちのめされているころには、カンの真っ白な家の外壁に赤いペンキで、「カンは必ず戻ってくる」と力強い字で書かれているのを見た町人が騒ぎ、帰ってきたミイが憤慨することになった。
カンはビーチボーイズを口ずさみ窓から海を眺めていた。出発にはうってつけのメロディーだった。