can the PUNK
首の辺りがチクチクと痒かった。カンが汚れたTシャツを脱ぐと細身ながらも胸には隆々とした固いしなやかな筋肉がつき腕にはタトゥーが彫ってあった。カンはタトゥーを誇らしげに撫でると痒みの原因を取り除くため首から肩にかけて右手で何度もぬぐった。細く短い髪の毛がパラパラと落ち、Tシャツを再度着用した。今朝電動バリカンで作り上げたソフトモヒカンを愛しそうに触った。
カンは昨晩、路上で中国人の若い女と出会った。音楽や最新の流行について話し込んでいると、泊まる所がないなら家に来なと言われ、カンはその女と二回セックスをし、つまらない映画を見ながらパイナップルとピーナッツを食べたりした。二回目のセックスで女がようやくエクスタシーを迎えカンは嬉しくなった。朝の8時ごろにカンが目覚めたとき、女はまだ眠っていたので、タバコを吸いシリアルに牛乳をいれ食べた。そのあとカンは髪をやっつけようと思いつき、バッグからバリカンを取りだしバスルームで一定の振動と機械音を感じながら髪をバシバシ切っていると女が起きて、ちょっとアンタ私のバスルームはいつから動物小屋になったの?とカンを叱り新聞紙をひかせた。カンが作品を完成させると同時に女が来て「シリアル…勝手に食べたでしょ?」と聞いてきたので、あんまり旨くなかったなと答えると、半裸のカンとボロボロなギターとか服やら何やらを部屋から笑顔で女が放り出した。カンはなんて非常識なんだ!と抗議したがそれは実らなかった。扉は閉められた。ふてくされていると隣人がニヤニヤしながら扉の隙間からカンを眺めていたのでそこらに転がっていたミニカーを投げつけるとまた扉が閉まった。カンは立ち上がりほこりをはらい歩き出した。どこへ行くかなんて知らないけど歩かないわけにはいかなかった。
カンはここ一ヶ月ほど根無し草生活を送っていた。知り合った女や下らないバンドの家、または庭で目をさまし、ハムや野菜どころかソースすら付いてるのか分からないサンドイッチを食べ、ギターやポルノ雑誌で小銭を稼ぎ、ひっきりなしにマリファナを吸い、夜にはバンドのライブを見た。それがカンの生活だった。しかしカンは楽しんでいた。世間の一部で機能する自分を心の底から楽しんでいた。