夢の中の君と現実の君
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夢を見ていた。一面に広がる花畑。僕はそこの上に寝転がり、目の前に白い、ショートカットの髪型の、月を彷彿とさせる美しい金色の瞳を持つ美しくも愛らしい女性が居た。愛嬌のある猫目の瞳。僕はそれに既視感を覚え、咄嗟に名前を口に出した。
――マリ!
目の前の女性は可愛らしく笑い、僕に手を伸ばしてくる。
僕は迷わず手を伸ばし、女性の白い手に触れようとした。
――マリ、マリ。
女性は人間の姿から猫の姿に変わっていく。彼女の手には届かなかった。でも、猫の姿が本来の君の姿。僕は迷わず抱き締めた。小さい君の体を、僕は離したくないと言わんばかりに抱き締める。
マリが愛らしい笑い声を上げて笑っている。
……幸福だ。マリ、マリ。僕はこの腕の中に君を閉じ込めてしまいたいんだ。離したくない。例え、これが夢の中の世界だとしても、僕は君を離したくないんだ。
――フランさん。
マリが僕を呼んでいる。その声が酷く耳に馴染み、満たされていく感覚に陥って行く。
この夢が覚めないで欲しい。僕は強くそう願った。
意識が浮上する。
顔が濡れているのに気付き、僕は泣いていたということに気付いた。
幸福な夢だった。人間のマリと本来の猫の姿の君。触れ合えてるだけでとても幸せで堪らなかった。
僕は上体を起こして直ぐ様アトリエへ向かった。
……忘れないように、君の姿を描こう。
アトリエへ着くと、窓の方に白い猫を見付けた。
僕は急いで窓に近付き、窓を開けた。
猫は驚いたように体を跳ねさせ、その美しい白猫が何なのか分かる。マリだ。マリがここに居るのだ。
「……フランさん。昨日ぶりですね。また会いたくてここに居ました。会えてとても幸せです」
「マリ、マリ……。僕も会いたかったよ」
僕は歓喜に顔を染め、マリを抱き抱えてアトリエの中に入れた。
マリは不思議そうにアトリエ内を見渡してから、くるりと振り返って僕を見た。
僕はマリを抱き抱えて、優しく抱き締める。
「フランさん、苦しいですよ。どうかしたんですか?」
「……君に触れていたいんだ。マリ、僕は君と片時も離れたくない」
「フラン、さん……」
「マリ。今から絵を描きたいんだ。君の姿を描きたい。もう既にイメージは出来ているよ。君はあの椅子に居てくれればいいから」
僕はマリを抱えたまま椅子の方に運び、そこにマリを降ろす。マリは行儀よくお座りをし、僕を見上げていた。
優しく小さい頭を撫で、僕は優しく微笑んでみせる。そして、僕は絵を描く為に準備をしに行き、本格的に絵を描こうと行動を始めた。
僕は準備をし終えたら鉛筆を手にして椅子に座ってマリを描き始めた。
人間の姿の君は夢で見たような美しくも愛らしい姿。ショートカットの白髪がとても似合っており、愛嬌のある猫目は憎めなさを感じさせる。美しい微笑を浮かべるだろう君はとても綺麗なのだろう。
僕はすらすらとイメージ通りの人間の姿をしたマリを描き、膝に猫の姿のマリを描く。美しさをイメージしよう。
実の所を言うと、優しさが売りの僕の絵はどこまで画家業界に影響を与えるか分からない。だが、それでもいい。優しさの中にある美しさ。聖母までとは行かないが、最大限の美しさを僕は表現したい。